しょうせつ

『かーわーうぃーうぃーvv』

私はあまりの可愛さに神楽ちゃんをぎゅううっと抱きしめていた。
3Zの女子の中で一番体が丈夫なことで知られる神楽ちゃんだったが、
さすがに私の締め付け攻撃は効いたらしく、
ううぅ、と苦しそうな声を上げながらすでに意識が朦朧としてきていた。

「、俺はっ!?」
『うわぁっ!?』

それを知ってか知らずか、急に神威が怒ったように私の肩を引っ張って、
体勢が崩れた私を無理やり自分の懐に引っ張り込んだ。
かろうじてこけずに済んだものの、神楽ちゃんからは引き離されるわ、
上半身裸の露出野郎に抱きしめられるかたちになるわ、
人気者の神威のせいで周りに居た(正確には廊下に居た)女子が発狂するわ、
その女子達にめっちゃ睨まれるわで教室の空気が一瞬で変わってしまった。

『なにすんのよエロ神威!!!!』

私は言いながら精一杯の力で抵抗する。
しかし、そこは学校一の怪力の持ち主・神威様だ。
1年の時にウエイト部の助っ人として出場した大会で
軽々と優勝を成し遂げたという黄金伝説の持ち主であるこの怪力野郎に、
私なんかが力で適うはずなんかなく、あっさり懐に収まってしまった。

「あぁ……、冷たくて気持ちいい……。」
『アンタは上半身がベタベタしてて気持ち悪いッ!!!
 さっさと放してよぉ!ばかむい〜!!』

あぁ、女子軍団の視線が痛い。(私が一体何をしたって言うんだ……。)
半分泣きそうになりながら、私が色々諦めかけたその時。

「校内でのいかがわしい行動は控えてもらおう。」

どこからか凛とした声が颯爽と登場し、私と神威の前に仁王立ちした。

『小太郎!』

声の主は、3Zの学級委員長である桂小太郎だった。
小太郎は腕組みしながら仁王立ちというお決まりのポーズで
神威の目の前にドンと構え、神威を物凄い顔で睨んでいた。

「神威。貴様にはいつも言っているだろう。
 これ以上3Zの品格を下げるような真似は控えてもらいたい。」
「なんだ、桂か。いつもいつもうるさいよ。
 俺に命令していいのはだけだって言ってるだろ?殺されたいの?」

神威と小太郎の間に火花が散った。
って言うか、私に命令されてもいいって言うんなら
さっさと私を解放してくれまいか神威君。
そうツッコもうと思ったけど、とてもじゃないが
そんな事を言えるような空気じゃなかったので、口には出さないでおいた。

「あ〜、ほらほら、やーめろって。テメー等まぁた喧嘩かぁ?」

そんな緊迫した雰囲気を、ダラけきった声が華麗に打破してくれた。
私は汗でベタつく神威の胸板を押しのけながら声の主を確認する。

『ぎ、銀ちゃん……!』

ボリボリと頭をかきながら気ダルそうに立っている銀ちゃんを見たとたん、
私はなぜか安心しきってしまい、自然と涙が溢れてきた。
やっと来た、私の救世主!
このクラスの担任であり、コイツ等を止められるであろう唯一の人物!

さぁ銀ちゃん、言っちゃって!
喧嘩を止めてを解放しないと成績下げちゃうゾ☆って!!

「そりゃあテメェ等は学校一の不良と真面目ちゃんという異色のコラボだ。
 けどなぁ、毎日毎日つまんねぇ事で喧嘩してんじゃねーよ。
 お前等が喧嘩して怒られんのは、担任である俺なんだぞ?」
「喧嘩じゃないです、注意です。」
「うるせーぞヅラァ。とりあえずその鬱陶しいカツラをはずせ。」
「先生、これはカツラじゃないです、地毛です。」
「あっはっは。桂、ヅラ取れだってさ。さっさと取りなよ。」
「うるさいぞ神威!これは地毛だと言っているだろう!!」

私の期待を見事なまでに裏切ってくれた銀ちゃんは、
フー、とタバコの煙を吐き出しながら2人の仲をもっと悪くしやがった。
カツラネタでさらに言い合いを始めた神威と小太郎には、
きっともう私を解放するという選択肢なんかないのだろう。

『誰でもいいから……たすけて……。』

私は真の救世主が来るまで神威の腕の中となってしまった。




木更戯死亡フラグ

(あぁん?救世主失格だと?何で?俺一応主人公なのに) (アンタなんか主人公でも担任でもないんだからぁぁ!!!!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ はーやーく、こーいーこーいー……他のキャラ。← ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2009/08/24 管理人:かほ