しょうせつ

ついに来てしまった公開処刑(という名の面接)の日。
あの変態共が来るという事で若干怖気づいた私は、
待ち合わせ場所で花子ちゃんにさり気な〜く
『花子ちゃん、アタシちょっと体調悪いかも』と
面接に行きたくないアピールした。

でも花子ちゃんは燃えに燃えまくっているので
『大丈夫やって!ノってきたら絶対元気になるから!』と
何の根拠もない言葉ととびっきりの笑顔で却下されてしまった。
まぁ、一緒にやってあげるって約束した手前、
ここで断るのもなんかアレだしなぁ……。

そんなこんなで店に着き、面接カードをメイドさん(店員)に渡し、
最低限の接客の注意点なんかをレクチャーしてもらって、
ついでに萌え挨拶(よろしくニャン☆)のやり方なんかも教えてもらって、
若干死にたくなってきたところでついに戦闘(という名の面接)が始まった。

「私たちが今日一日の皆さんの態度を観察し、
 店が終わり次第、採用・不採用をその場で通達しますので。」

この店の支配人である普通の人(語弊はあるが他に表現の仕様がない)が、
キリッとした顔でそう言ったので、志望者達がみんな緊張し始めた。
それに気づいた萌え萌えリーダー(このネーミングには流石に引いた)が
私達を気遣ってにっこりと微笑みかけてくれる。

「お客様に楽しんでもらうには、まず自分が楽しい気分であることが大切よ。
 力みすぎず、肩の力を抜いて頑張ってね。」

リーダーはとっても綺麗な顔をしたお姉さまなので、
私たちは非常に癒されながら元気に『はい!』と返事をした。

「それでは、検討を祈るニャン☆」

ご丁寧に猫招きのポーズ付き。あぁ……これで雰囲気ブチ壊しだ。

「花子ちゃんは関西弁が萌えポイントだから、
 そこを売り出せばすぐにお客さんに萌え萌えしてもらえるわよ♪」
「ホ、ホンマですか!?」

萌えリーダー(萌え萌えの下のランクらしい。馬鹿かコイツ等)が
花子ちゃんに関西弁を全面に出していこうとアドバイスをしていた。
実は花子ちゃん、ここが性に合ってたら続ける!と結構本気らしく、

「よっしゃ!ウチ頑張るでー!!」

と、ガッツポーズではなく萌えのポーズで意気込んでいた。花子ちゃん、あんたもうプロだよ。』
「ちゃんは声が可愛いから、そこを押していきましょうか。」
『いえ、私はズーズー弁で頑張ります。』
「別に方言だったら何でもいいわけじゃないのよ?」

萌えリーダーのツッコミの後、私達は戦場に繰り出した。
私はちゃんと花子ちゃんの付き添いということで話が通っているので、
特に頑張って接客をするでもなく、萌え萌えジャンケンをするでもなく、
至って平凡にカウンターでドリンクを作ったりレジ打ちをしたりしていた。

恰好がメイドだから全然平凡でも何でもないんだけど、
周りで『ニャン☆』が飛び交ってりゃ、
そりゃ誰でも常識の感覚くらい鈍ってくるわ。

「きゃー!!イケメン集団のご登場よー!!」
「いや〜ん!私あの子結構好みー☆」
「絶対あたしが接客する〜!!」

私が萌え萌えピーチドリンク(商品名までアホかコイツ等)を作っていた時、
急に店内で接客をしていないフリーのメイド達がざわつき始めた。
どうやら店にかなりのイケメン集団が来店したらしい。
私は特に騒ぐでもなく、カウンターからどんな人たちなのかを確認した。

そして、即効でカウンターの影に身を潜めた。

「いらっしゃいませ、ご主人様♪お好みのメイドが接客致しますニャン☆」
「ここに面接に来てるって子出して。」
「えぇー?あの面接組の子のお知り合いー?」
「あの子付き添いだって言ってたけど、接客させちゃっていいのかな?」
「あたしオーナーに聞いてくるねー。」

入り口付近でちょっとした騒ぎになっている連中から逃げるように、
私はカウンターに身を潜めながら厨房を目指した。
くそっ、イケメンって聞いた瞬間に気づくべきだった……!!
神威とトシは学校にファンクラブがあるくらいの超絶イケメン野郎だし、
銀ちゃんだって女子生徒からの人気は絶大なものだし……。

確かに3人はカッコいいけど、私は別にイケメン好きじゃないし!
目の保養にはなるけど、自分のメイド姿はさらしたくないし!
奴等の接客するくらいなら厨房で1人むなしく
萌え萌えサンドウィッチ☆を作ってた方が断然マシよ……!!!!!

そんなことを考えながら厨房の前まで来た私の前に立ちふさがったのは、
とっても嬉しそうな顔をした支配人だった。

「丁度良かったわ。あなた可愛いから面接したかったの。
 ちゃん、お客様がお待ちよ?」

あぁ……そんな有無を言わせぬ笑顔で私を見ないで下さい……。




・黒の危険信号

(どうしようお母さん……、本気で貝になりたい) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 最初はシリアスな方向に持って行ってしまったこの話ですが、 改稿後は清々しいくらい変態ギャグです。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/03/13 管理人:かほ