しょうせつ

俺は話を聞く気0の銀八と神威にとりあえず拳骨を一発ずつお見舞いし、
呆気に取られる結野に話の続きを促した。
すると結野は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに続きを話し始めた。

「中学まではわしが道満のライバルとして成績争いをしておったんじゃが、
 何しろ高校が別々じゃからのう……大方、張り合う相手が居らんようになって、
 その鴨太郎とかいう奴を新しいライバルとしたんじゃろう。」
「なんだそれ。巳厘野お前メンドクセー奴だな。」
「う、うるさい!口の周りを生クリームまみれにした奴に言われたくないわ!!」

巳厘野の言うとおり、口の周りを生クリームまみれにした銀八が
眉をひそめて巳厘野にそう言った。
そのやり取りにが苦笑いをする。

「そしてまた張り合う相手が居なくなって登校拒否になったんじゃろう。」
「何それ。巳厘野お前バカなの?」
「口の周りをデミグラスソースまみれにした奴に言われたくない……!」
「オイ神威!テメー汚ねぇぞ!」
「ちょ、土方拭くやつ取って。」

ボタボタと口の周りからデミグラスソースを垂らしている神威に俺が注意すれば、
神威は相変わらずのボタボタの口で俺にそう言った。
何で俺がお前のために拭くやつ取らなきゃなんねーんだと言ってやりたかったが、
あまりにも見るに耐えかねたので「俺はお前のお母さんか!」とツッコミを入れつつ
結野から回ってきた拭くやつを神威に手渡してやった。

「悪いね。」
「悪いのはお前の頭だ……。」

俺は口を拭く神威に顔を引きつらせて言葉を返した。

『んー……ってことは要するに、
 巳厘野君はライバルが居ないと学校が楽しくなくって、
 鴨太郎が居なくなっちゃったから登校拒否になったけど、
 昔のライバルである結野君が転校してきたから登校して来たってこと?』

両隣でパフェやらハンバーグ定食やらを食っているというのに、
だけはそんなもんお構いなしに2人の話を真剣に聞いていたようだ。
いや、途中で銀八にパフェをあーんしてもらっていたのを見たが、
どうやらあれは話に興味がなくなった故の行動ではなかったらしい。

「まぁそうじゃろうな。どうなんじゃ道満。」
「俺は登校拒否じゃなく、修行のために学校を休んでいたんだ。」
『じゃあ巳厘野君って寂しがり屋さんなんだね!』

結野に実際のところを訊かれ明らかにカッコいい言い方をして
不名誉を誤魔化そうとしている巳厘野に対して、
は何故か満面の笑みでそう言い放った。
これに結野が顔を赤らめ、ついでに巳厘野も顔を真っ赤にした。
おいおい、また神威の目つきが変わっちまったぞ……。

「じゃあさっき妹喫茶に居たのは何でなんだよ。」
「あぁ、あれは……。」

銀八の言葉に結野は困ったように頭をかいた。
そう言えばそうだった。
結野と巳厘野の因縁が明らかになったから万事解決だと思っていたが、
元はと言えばコイツ等が一緒になって妹喫茶から出てきたのが始まりだった。

「実はのう……もう道満と争うのが面倒じゃったから、
 さっきの妹喫茶で和解をしようと思ったんじゃが……。」
「和解の場に妹喫茶を選ぶやつの気が知れねーよ。」
「結野、お前本当に進学校受かったの?紛うことなきバカじゃないか。」
『アタシもそればっかりは結野君が悪いと思うよ……。』

予想外の結野の答えに、
向かいに座っていた3人が一様に冷たい顔をしてそう言い放った。
その言葉に巳厘野が「そうだそうだ!」と一緒になって言っている。
俺はまた変なやつが転校してきたもんだと思い、肩を落とした。

「そういうお主らはどうしてあそこに居ったんじゃ!
 あの道はまともな店がなかったはずじゃが?」

3人の冷たい目線に耐えかねた結野が今度は俺たちを攻撃する。
まぁ確かに自分たちもまともな店には居なかったが……
って言うか俺メイド喫茶での記憶全然ねぇんだった。

「がメイド喫茶でバイトしてたから3人で見に行ってたんだよ。」
『ちょっと神威!誤解を招く言い方しないでよ!
 違う違う!あのね、アタシは友達の付き添いに行ってただけで……!』

神威の言葉に呆気に取られる結野と巳厘野。
その2人の表情には一生懸命誤解を解こうとしているが、
帰り際に銀八に聞いた話によると、
も結構ノリノリで接客していたらしいので
別にメイド喫茶でバイトしてたって言っても間違いではないような気もするが……。

「メ、メイド喫茶ということは……。」
「ん?どうしたんじゃ道満。」

オロオロしているを凝視したまま巳厘野がポツリと呟いたので、
隣に座っていた俺と結野は同時に巳厘野に視線を移した。
すると巳厘野はを凝視したままプルプルと震えだし、
そして両方の鼻の穴から盛大に鼻血を吹き出した。ブハー!!!!!」
「なっ……!?」
「どわぁ!?」
『ぎゃあぁぁ!?巳厘野君大丈夫ぅぅ!?』
「ゲッ、何コイツ。何で急に鼻血?」
「おいおい勘弁してくれよー。すいまっせーん!タオル下さーい!」

あまりの出来事にその場に居た全員が一斉に声を上げた。
両隣に座っていた俺と結野はささっと巳厘野から離れ、
向かいに座っていたは立ち上がって慌てふためいていた。
神威はちゃっかりハンバーグ定食を避難させ、
銀八は店員にタオルを頼んでいた。(コイツもちゃんと大人なんだな……)

「道満貴様ッ……その癖もまだ治っておらんかったのか!?」
「何だ何だぁ!?今度はどんな癖なんだぁ!?」

呆れたような驚いたような声を出した結野に銀八がイライラした様子で尋ねた。
すると眉をハの字にした結野が言いにくそうに口を開く。

「実は……道満には激しい妄想癖があってのう……。
 大抵の場合、その妄想が行きすぎて鼻血を出すんじゃ。」
「んっだよその傍迷惑な癖は!オイ銀八、拭くやつ取れ!」
「るっせぇな分かってるよ!ほれ、お前そっち拭け!」

一瞬にして血の海となったテーブルを俺と銀八、そして結野で分担して拭く。
は巳厘野にタオルを手渡し、鼻血を止めるサポートをしていた。

「オイ神威!てめぇも手伝いやがれ!」
「ねぇ巳厘野、妄想って何の妄想をしたの?まさかのメイド姿?ブッ殺すよ?」
「だーくそ!!誰かまともな奴を連れてきてくれぇぇ!!」

その日、ファミレスに俺の悲痛な叫び声が木霊した。




もちろんい出されました

(道満……まさかお主ものことを……!?) (“も”って何だ……まさか晴明貴様……!) (悪いが道満、これだけは譲れんぞ!) (望むところだ!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 一応長編はここで終わりで、次回からまたちょこちょこ短編です! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/09/18 管理人:かほ