しょうせつ

メイド喫茶パニック&ファミレス騒動から一夜明け、
アタシは休日明けだってのに普段よりも倍疲れた体に鞭を打ちながら登校した。
いや、鞭を打ったっていうのは物の例えだからね?
べつに本当に体に鞭を打って登校してきたわけじゃないからね?
この前学校で『体に鞭打って頑張った』って言ったらさっちゃんに

「ちょっと木更戯さん!私のMっ子属性を奪う気なの!?
 そうやって銀さんに気に入られようとしてるんでしょ!
 いい加減にして!!銀さんのメス豚はこの私よ!!」

って教室のド真ん中で大声出されたって言う苦い過去があるからな……。
ホント、日本語って難しいよね。

「あれ、おはよう。今日は随分早いんだね。」
『あ、鴨太郎……おはよー……。』
「……?どうしたんだい?疲れているように見えるけど……。」
『うっへへ……ちょっと昨日色々あってね……。』

靴箱のところでバッタリ出会った鴨太郎は
アタシの異様な雰囲気を心配してくれつつも小首をかしげた。
昨日はあの後ファミレスから追い出されて、
そっから色々と話してたら帰ったのが11時くらいになっちゃったからなぁ……。
宿題全然やってなかったし、結局寝たのは深夜2時。
寝不足は美容の大敵だって言うのに、全くもぉー……。

「そうだ。今度の休みに風紀委員会で花見をすることになったんだけど、
 もし良かったら君も一緒に来ないかい?」

靴を履き替えて一緒に教室に向かっている最中、
鴨太郎がふと思い出したようにそう言った。

『お花見?行く!楽しそう!でも、この時期にお花見?』
「あぁ。なんでも、初夏になってようやく満開になる桜があるらしいんだ。
 恋愛のパワースポットとして有名だとかで、近藤さんが行きたがってね。」
『へぇ〜……そう言えば近藤さん、お妙ちゃんに何か言ってたなぁ……。』

アタシは先週の金曜日の事を思い出す。
部活が終わってさぁ帰ろうという時に、近藤さんがお妙ちゃんに殴られてた。
……あれ?これじゃあ普段通りの光景になっちゃうな……違う違う、
その前に近藤さんがお妙ちゃんに
「お妙さん!僕と一緒に満開の桜の木の下で愛を誓いましょう!!」って言って、
お妙ちゃんがプチンと何かが切れた音と共に握り拳を作って、
「テメェの死体を埋めてやろーか!!」っていう切り返しでこうバコーンと……
あれれ、やっぱり普段と何ら変わりのない光景だな。

『あれお花見の話だったんだ……。』
「近藤さんの言い方では全く伝わらなかっただろうけどね。
 もし良かったら君から志村さんも誘ってやってくれないかい?」
『うん、いいよ。近藤さんちょっと可哀想だもんね。』

そんな会話をしていたら、アタシ達はいつの間にか教室に辿り着いてた。
アタシも鴨太郎も席が後ろなので後ろの扉から教室に入ったんだけど、
教室に入って真っ先に目に飛び込んできたものは宙吊りになっている近藤さんだった。

「あら、伊東君にちゃん、おはよう。仲良く登校?羨ましいわ〜。
 あ、今からここで人のリコーダーを盗んだゴリラの公開処刑をするから、
 2人ともしばらく教室の後ろ半分には近づかないようにね。」

にっこりと素敵な笑顔でそう言い放ったお妙ちゃんの手には
キラキラ輝くメリケンサックがはまっていた。
そしてふと教室の前半分に目をやると、3Zの面々が所狭しと密集していた。
どうやらこの教室には緊急避難勧告が出されているようだ。

『鴨太郎、さっき近藤さんのこと可哀想って言ったの撤回してもいいかな?』
「あぁ……すればいいよ。風紀委員の委員長がなんたることだ……。」

宙吊りの近藤さん(自業自得)を冷たい目で見つつ、
アタシと鴨太郎は机に荷物を置いて一緒に退の席へと向かった。
そこでは風紀委員のメンバーが今度のお花見の計画を立てていたので、
アタシも一緒に行くんだぜっていう報告をして、詳しい話を聞くことにした。

「女が一人ってのはどうも華がねぇなァ。」
『はぁ!?テメーそれどーゆー意味だ!』
「そのまんまの意味でさァ。」
『アタシだってちゃんと女の子だっつーの!ってかお妙ちゃんも誘うんでしょ?』
「あれは女じゃなくてゴリラだろィ。」
『あ、アタシまだマシな待遇だったのか。』

一応女の子として数えられていたみたいなので総悟の失言は大目に見てあげた。
場所や時間、当日の持ち物なんかは既に決まってたみたいで、
ほらよ、とトシに手渡されたのはなんとも手作り感あふれる冊子。

『何コレ?旅のしおり……?』
「あぁ。花見といったらしおりが必要だろーが。」
『……これ、もしかしてトシが作ったの?』
「まぁな。完成度は高いぜ。」

別に褒めたわけでもないのに思いっきり自慢げな顔をされてしまい、
若干アタシが引いていると鴨太郎がポン、と肩に手を置いて
「、悪いが何も言わないでくれ」とでも言いたげな様子で首を横に振った。
その行動に原田君も退も深い溜息をつく。
どうやらノリノリのトシの気分を損ねたくないらしい。

それにしてもこのしおり気持ち悪い。何なのコレ、超気持ち悪い。
って言うかトシが気持ち悪い。たかが一日のお花見のためにしおり手作りってコイツ。
しかもコレ表紙の時点で既に気持ち悪い。何コレ?リスなの?タヌキなの?クマなの?
アタシがしおりをパラパラと捲りながらやるせない顔をしていたら、
トシが感想を聞きたそうにチラチラとこっちを見てきた。

何なのコイツ、何がしたいの?ちょっと助けてよ原田君。
そんな視線で目の前に居た原田君を見つめたら、
もうみんな一個ずつ褒めたから、なんてアイコンタクトが返ってきた。
マジでか。マジで風紀委員どうなってんの?
委員長といい副委員長といい、まともな奴はいねーのか!

『へ、へぇ〜。トシ凄いなー。このしおり超分かりやすい。
 特に表紙がいいね、表紙が。何コレ、ホント凄い。』
「そ、そんなに褒めるなよ……。」

アタシの棒読み加減に周りが引きつり笑いをしているというのに、
当の本人であるトシはそんな事全く気にも留めないで、ちょっと照れくさそうに笑った。




そしてこのである

(お花見どうしようかな……風紀委員と一緒に居るのしんどいかも) (ちょっとちゃん!そんな理由で参加拒否しないでよ!?) (んー……退にそう言われると断れないなぁ……) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 思った以上にトシが気持ち悪いことになって若干反省してます……。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/10/02 管理人:かほ