しょうせつ

お昼のチャイムが鳴って嬉しそうに立ち上がったちゃんが、
隣のクラスの鷹久君に押し倒されたのが約30分前の話。
そこから河上君と鷹久君と伊東君の3人によるちゃんの取り合いが始まり、
ちゃんによる『巳厘野君は結野君が好き!』発言によって
3Zのクラスが騒然としたのがおよそ10分前。

そこから清君のフォローが入り、
ちゃんを中心とした騒動はつい先ほど終わりを迎えた。
かのように見えた。

「!鴨太郎!お前等ちょっと落ち着け!」
『だって万斉が気持ち悪いんだもん!恋って何よ恋って!』
「僕に向かって真面目な顔で影分身って言ってきたんだぞ!?
 これはもう愛するギターで殴ってやるしかない!」
「伊東殿!待つでござる!拙者が愛しているのは殿ただ一人!!」
「河上!!お前ちょっと空気読んで黙ってろ!!」

清君が大慌てでそう叫びつつ、河上君を殴ろうとしている伊東君と、
その伊東君にGoサインを出しているちゃんを止めていた。
そんな4人を唖然として見ているのは、鷹久君そっくりの顔。
あれはきっとつい最近転校してきた隣のクラスの結野君だと思う。
噂には聞いていたけれど、まさかあんなにそっくりだとは思わなかったわ。

「鷹久、あれがお主の弟か?」

暴れまくる4人を呆れた顔で見ていた結野君が鷹久君に尋ねれば、
鷹久君は「んー?」とやる気のない返事をする。

「そうそう、あれが俺の弟の鴨太郎。」
「鴨太郎……あやつが……。」

結野君は言いながら隣で同じく4人を眺めていた巳厘野君を横目で見た。
すると巳厘野君は結野君の視線に気づき、
眉間にしわを寄せながら「な、何だ!悪いか!」と言った。
私はこの2人について詳しくは知らないけれど、
2人が幼馴染で、別々の高校に行ったというのは風の噂で聞いていた。
さっきのやり取りからして、2人が幼馴染というのは本当みたいだけれど、
正直私はあの2人の関係なんかに興味はなかった。

「九ちゃん、神楽ちゃん。
 ちゃんには悪いけど、先にお昼食べちゃいましょうか。」

私が2人に尋ねると、2人とも私の意見に賛成なのか一度だけコクリと頷いた。
こうして私たちは安全な場所でご飯を食べながら
ゴタゴタに巻き込まれているちゃんを鑑賞する事にしたのだった。
私が興味があるのは、ちゃんの周りで行われるちゃん争奪戦だけ。
だって、必死な男達とは裏腹に、ちゃんったら全然気づいてないんだもの♪

『もう!これに懲りたら変なこと言わないでよね、万斉!』
「怒っている殿も可愛いでござるなぁ。」
『反省という言葉を知らんのかおのれは!!』
「ダメだよ、河上君に常識は通じない。」

一段落した様子のちゃん達がそんな会話を繰り広げて大きな溜息を吐いた。
その後ろでは鷹久君がケラケラと笑っている。

「兄さん、元はと言えば兄さんが……。」

伊東君がそう言いながら鷹久君に振り返ったとき、
隣に居た結野君が視界に入ったんだろう、伊東君はすこぶる嫌な顔をした。

「なっ、何じゃその顔は!初対面で失礼な!」
「あ、いや、すまない。兄さんが2人居るようで胸糞悪くて……。」
「あはは!鴨太郎ひでぇなぁ〜。」

同じような顔がそれぞれ違った顔をしているので、
まるで百面相を同時に見ているような気分になった。
それにしてもあの3人、見れば見るほど顔がそっくりだわ……。
かろうじて見分けがついているのは髪形のおかげと言っても過言ではない。

「晴明、貴様一体何しに来たんだ?」

巳厘野君が怪訝そうに結野君に尋ねれば、
結野君は隣に居た鷹久君をキッと睨んで口を開いた。

「鷹久が木更戯を昼飯に誘うと言って出て行ったきり
 なかなか帰ってこなくてのぅ……あまりにも遅いから迎えに来たんじゃ。」
『えっ、そうだったんですか?』

自分の名前が出てきたのでビックリしているちゃんがそう言えば、
鷹久君は「あれ?俺そんなこと言ったっけ?」と言いながらケラケラと笑った。
どうやら鷹久君はちゃんをお昼ご飯に誘いに来たみたい。
それならそうと早く言ってくれればちゃんを貸してあげたのに、
鷹久君って行動力の塊だけど、ちょっと抜けてるわよねぇ……。

「晴明貴様、木更戯と昼飯を食うつもりだったのか!?」

鷹久君の笑い声が響く中、いきなり巳厘野君がそう叫びながら結野君を睨みつけた。
すると結野君はちょっとだけ赤い顔をして、
「そっ、それはわしではなく鷹久が……!」と巳厘野君に弁解している。

ここで私はピンときた。この2人、間違いなくちゃんに惚れてる。
そう言えば昨日、花子ちゃんがメイド喫茶のバイト帰りに
ファミレスでちゃんや銀八先生や巳厘野君らしき姿を見たって言ってたわね……。
後でそこら辺の話をちゃんから聞きださなきゃ。

「問答無用だ!河上!そのギターで晴明を殴れ!コイツは敵だ!」
「何!?まさかお主も殿を……!?」
「だ、だからそれは鷹久が!」
「黙れ!殿は拙者のものでござる!」
「河上君!あんまりバカな事を言っていると僕も怒るよ!?」

巳厘野君と結野君、
そして河上君と伊東君が勝手にちゃん争奪戦を始めていた頃、
当の本人であるちゃんは鷹久君からおにぎりをもらって喜んでいた。

『よかったぁー!今からお弁当食べても間に合わないところでしたー。』
「困った時はお互い様だって。
 その代わり後でちゃんの弁当のおかずちょーだい。」
『それくらいお安い御用!』

2人はそんな会話を繰り広げ、2人仲良く並んでおにぎりを食べ始めた。
その隣では清君が「鷹久、お前って奴は……」と頭を抱えている。
元はと言えば鷹久君が招いた騒動なのに、彼ってばつくづく自由な人だと思う。

こうして3Zのお昼休みは刻一刻と過ぎていき、
最終的にちゃん争奪戦を繰り広げていた4人が
仲良くおにぎりを食べている鷹久君と鞠末ちゃんに気づくのは、
予鈴のチャイムが鳴り終わってから少し経った時のことだった。




いいトコ取りの鷹久

(あれ!?お妙ちゃんたちいつの間にご飯食べ終わってたの!?) (ちゃんがハーレム状態に陥っていた時よ) (ハーレム!?何それ、オッサンパラダイス!?) (キモいアル) (これではウチの男共は報われないな……) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 鷹久さんむっちゃ好きやねん。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/08/15 管理人:かほ