「ねぇちゃん、結野君と巳厘野君の2人と何があったの?」 『へ?』 私は部活の時間にちゃんに気になっていたことを尋ねた。 するとちゃんはポカリスエットの粉を水で溶きながら驚いた顔で私を見る。 『何があったって?』 「今日のお昼休み、ちゃん2人と随分仲が良さそうだったじゃない。 巳厘野君とも結野君とも最近会ったばかりでしょう?」 『あぁ……。』 私が言うと、ちゃんは納得したようにそう言って水道の蛇口を閉めた。 『実はね、花子ちゃんのバイトに付いて行った帰りに2人と会ったの。 それで……まぁ色々あってファミレスに入ったんだけど、 そこでいっぱい喋ったからじゃないかな、仲良くなったの。』 「あら、そうだったの。で?何を喋ったの?」 私は出来上がったポカリスエットをタンクに流し込みながら尋ねた。 ちゃんはド天然だから、相手の好意に気づいていない分、 あった出来事をありのままに話してくれる。 だから私はちゃんの口から出てくる 相手からちゃんへのアプローチを聞くのがとても好きなのだ。 本人が全然気づいていないという事実も含めて。 『んー、何を話したって…… 巳厘野君が結野君と鴨太郎をライバル視してるって話くらいしか……。』 「え?本当にそれだけ?」 私が首を傾げながら尋ねれば、 ちゃんは不思議そうな顔で『うん、それだけ』と言った。 私はてっきりファミレスで銀八先生や神威君たちと巳厘野君たちの間で ちゃんの取り合い合戦が行われていたんだと思ったんだけど、 どうやらみんな2人の関係性を暴く事に夢中だったみたいね。 期待はずれな話の内容に、私は「そう、」と言って話を終わらせ、 ちゃんと一緒にポカリスエットのタンクを一つずつ持って剣道場に帰ることにした。 『あっ、そう言えば。』 帰り道の途中、タンクを持っているせいで まるでペンギンみたいに歩いていたちゃんが ふと思い出したようにそう言って私の顔を見た。 『お妙ちゃん、今度のお休みの日に一緒にお花見行こうよ。』 ちゃんはとっても可愛らしい笑顔で私にそう言ってきたけど、 今度の休み、お花見というワードが引っかかり、私は思わず顔を歪めた。 「それってこの前近藤さんが言ってたお花見?」 『そ、そうだけど、アタシも行くからさ!一緒に行こっ?ねっ?』 ちゃんは私の言葉に焦ったようにそう言った。 どうやら風紀委員の誰かに頼まれて私を誘っているらしい。 まぁちゃんも一緒に行くんだったら別にいいかしら。 何より、こんな可愛いちゃんの頼みを断るわけにもいかないし……。 「分かったわ、一緒に行きましょう。他ならぬちゃんの頼みですもんね。」 『えっ、ホント!?やったぁ♪』 「その代わり、あの変態ゴリラのセクハラには厳しく対処するわよ?」 そう言って私がにっこりと微笑めば、 ちゃんは顔を真っ青にして『う、うん……伝えておくね……』と呟いた。 そうしている間にも私たちは剣道場に到着し、 主将の近藤さんが私たちの姿を確認した後に休憩の号令をかけた。 「あー!生き返るー!」 ぷはーっと息を吐きながら木更戯君が言えば、 ちゃんはそんな木更戯君に向かって『オッサンか』とツッコミを入れた。 「何だよ、お前オッサンが好きなんだろ?」 『そうだけど、アタシは本物のオッサンが好きなの。』 「何だよ本物って。オッサンに本物も偽者もねぇだろ。」 『いいやあるね!アタシくらいになると分かるんだよね!モノホンかニセモンか!』 「あーはいはい、そりゃすげぇなー。」 胸を張っておバカなことを言い出したちゃんに、 木更戯君は棒読みに近い口調でそう言ってまたポカリを飲み始めた。 そして周りの男子部員はと言うと、 そんなちゃんの姿にほんわかと頬を染めていた。 『ムキー!清アンタ絶対信じてないでしょ! ちょっと鴨太郎!真のオッサンとはなんたるかを清に言ってやってよ!』 「えぇっ?」 ちゃんにいきなりムチャ振りされ、伊東君は困った顔でそう言った。 「いや……その定義は僕にもちょっと……。 近藤さんなら分かるんじゃないかい?彼オッサンみたいだし。」 「えぇ!?ちょっと鴨太郎君!?それ酷くない!?」 『さぁ近藤さん言ってやってよ!真のオッサンとはなんたるかを!』 ちゃんがやけにノリノリでそう言ったので、 遠くで休憩していた部員達も私たちの会話に耳を傾け始めた。 そしてあちこちから 「何してんだ?」「ちゃんがまた何かやってんのか?」 「なんか近藤さんがゴリラについて熱弁するらしいぜ」「え?オッサンじゃなくて?」 「もう結論はちゃん可愛いでいいじゃねーか」「「「異論はない」」」 なんてツッコミ所満載の会話が聞こえてくる。 「え、えぇっと……オ、オッサンとは……。」 そんな中、近藤さんが律儀にオッサンとは何かについて試行錯誤していた。 そしてしばらくあたふたと考えた末、ハッと思いついた顔をして私の顔を見る。 「え?」 私は突然見つめられ、何かと思って思わず声をあげてしまった。 すると近藤さんは腹が立つくらいのドヤ顔でこう言い放った。 「オッサンとは、愛する女性を一生かけて守り抜く 屈強なナイトのことですよ、お妙さん……。」 次の瞬間、剣道場に近藤さんの悲鳴が木霊した。オッサンとは何ぞや
(きゃー!?近藤さんんん!!) (また志村さんの癇に障るようなことを言うから……) (おーいトシー、練習再開の号令かけてくれー) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 次回からやっとお花見篇に突入です!今8月なのにね! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/08/15 管理人:かほ