しょうせつ

銀八先生のプロポーズが失敗してから僕たちはごくごく普通の花見をしていた。
綺麗な桜の木の下で、お弁当とジュースを楽しみながらみんなでわいわい会話する。
時折聞こえてくる姉上の怒声と近藤さんの悲鳴を抜きにすれば、
こんなに平和な日常はそうそうないだろうと思えるほど幸せなひと時だった。

しかし、こんなに濃いメンツで花見をしていて、
そんな平和な時間が長く続くはずもなかった。

「って言うか土方さん、さっきからアンタ何食ってんですかィ。」

僕の隣でジュースを一気飲みし終えた沖田くんが、
ふと土方さんの方を見ながらそんなことを言い出した。

「何って、の手作りタコさんウインナーだよ。」
「犬の餌の間違いでしょ。」
『はぁ!?ちょっと総悟!失礼にも程が……って、うわあぁぁ!?』

沖田くんの犬の餌発言にカチンときたちゃんが反論しようとした瞬間、
何故かちゃんが思いっきり絶叫した。
周りに居た僕たちは何事かと驚いて、そして土方さんの方を向いて一瞬で納得した。

『トシ!!それ何!?マヨ爆弾!?』
「あぁ?だからお前の手作りタコさんウインナーだっつってんだろ。」
『いいや違うね!!アタシはそんなコレステロールの塊を生み出した覚えはないね!!』

土方さんの箸の先には本来赤いはずのタコさんウインナーはなく、
その代わりベットベトのマヨネーズの塊がはさまれていた。
そして左手にはマヨネーズの容器が。
どうやら土方さんはちゃんの弁当をドえらい失礼な方法で楽しんでいたようだ。

『トシ!マヨネーズこっちによこしなさい!』
「あっ!テメェ何しやがる!」
『今日はマヨネーズ禁止です!』
「あぁん!?」
『そんなもんばっかり食べてたらメタボになっちゃうよトシ!』

ちゃんが土方さんから奪ったマヨネーズを明後日の方向に投げながら言えば、
何故か土方さんは顔を赤くしてちゃんを見つめた。

「お前……俺の体を心配して……!」
「すげェや土方さん、いつの間にそんな都合のいい耳をつけたんで?ちゃんの行動をかなりポジティブに受けとった土方さんを横目に、
沖田くんは今まで以上に冷たい目線で土方さんを見つめた。

『体を心配してって言うか、アタシの作ったもんを犬の餌にされたら腹立つ!!』
「ちゃん!もうちょっとオブラートに包んであげて!!」

夢見る土方さんを叩き起こすかのようなちゃんの発言に山崎君がそう叫べば、
土方さんはハッとした表情をして、そして申し訳なさそうな顔でちゃんを見つめた。

「、悪かった……お前がせっかく俺のために作ってくれた弁当を、
 お前の愛を、俺はマヨネーズで踏みにじっちまったんだな……。」
『別にトシのために作ったんじゃないし、愛もこもってないけど。』
「、ソイツから離れろィ。とうとうマヨで頭やられたようだぜ。」

まさかの電波発言にちゃんと沖田君が冷たい視線と言葉をぶつけたが、
生憎今の土方さんには届かなかったらしく、妄想はますますヒートアップした。

「俺はお前のありのままを受け止めてやれなかった!!お前の夫失格だ……!!」
『ねぇトシ酔ってるの?話が飛躍しすぎてツッコめないんだけど、ねぇ。』
「分かった……マヨは封印する。俺はお前のありのままを受け止めるぜ!!」
『アタシのありのままじゃなくて弁当の話だよね?
 今日はマヨなしでそのままの味で食べるって話だよね?それだけの話だよね?』
「、もう止めるアル。ツッコんだら負けヨ。」
「副委員長……。」
「土方君……。」

そろそろ山崎君と伊東くんも土方さんに冷たい視線を送り始めたときだった。

「のありのままを……氏の……弁当……。」
『え?氏?』
「……オイ、マジでその人から離れた方が……。」

沖田くんが言うのが早いか、土方さんがちゃんに飛びつくのが早いか。
いきなりの土方さんの奇行に、その場に居た全員がド肝を抜かれてしまった。

「氏ー!!会いたかったでござるよー!!氏萌えぇぇぇ!!!!!」
『ぎゃー!?何でいきなりトッシィィ!?』
「土方君!!から離れたまえ!!」
「伊東さんどいて下せェ。その変態野郎にバズーカ一発お見舞いするんで。」
「オイテメー何考えてるアルか!にも当たるだろーがボケェ!!」

何故かトッシー化してしまった土方さんに抱きつかれて
ほとんど泣きそうになっているちゃんと、
そんなちゃんを助けようと必死に2人の間に割ってはいる伊東君と、
トッシーを撲滅しようとバズーカ片手に狙いを定める沖田君、
そんな沖田君を止めようと後ろからバズーカを取り上げようとしている神楽ちゃん。

僕は突然の出来事に頭がついていかず、その場でただ呆然としてしまった。
とりあえず、何で土方さんがトッシー化してるんだ?
そこさえ分かれば、あとは何で伊東君や沖田君が怒ってるのかも分かるんだけど……。
トッシー騒動から取り残されてしまった僕と山崎君は
お互いに何も言わずに顔を見合わせ、そしてまた何も言わずに騒動に視線を戻した。

「あー、コレかぁ。お前ら、酒飲んだなぁ?酒ぇ。」
「え?あの、いや……僕たちお酒は飲んでませんけど?」
「俺たちが飲んでたのはそのカルピスですよ?」

騒動を唖然として見ている僕らの隣で
急に銀八先生が紙コップ片手に変なことを言うもんだから、
僕も山崎君も頭にハテナマークを浮かべながら言葉を返した。
すると銀八先生は先ほど山崎君が言ったカルピスの容器を僕たちに見える高さまで持ち上げ、
それを中身がこぼれないようにフリフリと振った。

「コレ、中身酒だぞ?」

銀八先生のその言葉に、僕たちは思わずその場で一時停止した。




酔っ払い共の走フラグ

(山崎君、いま銀八先生なんて言ったか聞こえた?) (いや……なんか、酒?みたいなワードが聞こえたような……) ((………………)) ((ええぇぇぇぇ!?)) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ お酒のせいでメンバーが壊れはじめる予感! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2012/09/16 管理人:かほ