『阿伏兎さん……結婚しましょう!!』 「はぁぁ!?」 それが、今からもう10年前の事になる。【結局許してしまう俺:前編】
「つ、疲れた……。」 「あれ、おかえり阿伏兎。今日はちゃんと一緒じゃないの?」 俺が疲労困憊で任務先に借りたホテルの一室に帰ってくると、 自分は弱い奴とは戦いたくないとワガママを言って来なかった団長が ベットの上で寝転がりながら迎えてくれた。 「アンタはいいよなぁ、気楽そうで……。」 俺は精一杯の嫌味(きっと団長には通じないだろうが)を言いながらマントを脱ぎ、 そのままソファーに倒れこんだ。 「だからいつも言ってるだろ?ちゃんなら俺がもらってあげるって。」 「出来ればとっくにあげてますよ……。」 俺は体勢を整えながら、ぼんやりと天井を見上げた。 そして深いため息をつく。 団長が『ため息をついたら幸せが逃げるんだよ?』と笑顔で言ってきた。 俺はアンタのせいで逃げてると思うんだがなぁ……。 「で、ちゃんは?」 「あぁ、元老に報告に行った。アイツが行かねーと元老、機嫌悪くなるし。」 「あいつらエロオヤジばっかだもんね。大丈夫かなぁ、ちゃん。」 「大丈夫だろ。アイツは襲われそうになったら自分で自分を守れる奴だって。」 それもそうだね、と団長はケラケラ笑う。 さっきから話に出ているとは、俺たちと一緒に行動しているガキの名前だ。 第七師団の中でも俺の次くらいに強いかな。いや、一緒くらいかもしれない。 同じ夜兎族だが、俺や団長にはない柔軟な攻撃スタイルを持っていて、 力では俺たちに及ばずとも、いざ戦闘となれば油断は出来ない。 団長と互角に渡り合える唯一の女って事で、団長はを気に入っている。 それに、顔は可愛いし声は可愛いし愛想もいいので、元老も鞠末がお気に入りだ。 でも、俺はあんまり気に入ってはいない。むしろ苦手だ。 理由はただ一つ。アイツが途轍もなく“突っ走る女”だからだ。 『たっだいまー!!団長、また元老に怒られちゃいましたよ!』 「あっはっは。やっぱり行かなかったのバレちゃったか。」 『はい!もうカンカンでしたよー? 今度任務に同行しなかったら、ご飯の量を半分に減らすそうです!』 「うわぁ、それはヤだなぁ。仕方がない、今度からは一緒に行くよ。」 キタ。俺が唯一苦手な女・が。 俺は出来るだけ気配を消し、ソファーと一体化するように心がけた。 俺はソファーだ。俺はソファー……。 『そういえば、団長宛てに手紙です。何かコレ、ラブレターっぽいんですけど。』 「ラブレター?また?」 自分はソファーだという自己暗示をかけながら、なんとなく話を聞いていた。 団長に女から手紙が来るのは、今月に入ってもう30回目くらいだ。 ちなみに今日は20日。一日一回は必ず届く。 相手は春雨関係者だったり、他の団の奴だったり、 任務で赴いた所のお偉いさんの娘だったりと様々だ。 『手紙で想いを届けるなんて、なんて軟弱な!はいこれ、一応団長に渡しときます。』 「あはは、俺がすぐに捨てるのを分かっててわざわざ渡すの?」 『はい。だって、アタシが処分したら何か悪いじゃないですか。 ちゃんとご自分の手でどうぞ?』 が団長に手紙を渡すためにベットへと歩み寄る。 俺が寝転んでいるソファーはベットに向かって丁度垂直にある。 今はベットの方を向いているのでこっちは見えないが、 このままだと振り向いたに見つかってしまう。見つかったら何かと面倒だ。 俺はが団長と会話しているのを耳で確かめつつ、ゆっくりと体を起こし、 忍び足でドアの方へと向かっていった。 あと30m……あと10mちょい……!! 『どこ行くんですか?』 「うぉわああ!?」 俺がドアノブに手をかけたその時、俺のすぐ隣でが問いかけてきた。 急な出来事だったので俺は心臓が飛び出そうになった。 『そんなに驚かなくても……。それより、どこ行く気ですか? 阿伏兎さん怪我してるでしょ?早くソファーに戻って手当てを受けて下さい!』 ビシッとソファーを指差し、もう片方の手では俺が逃げ出さないように ちゃっかりとドアノブを握っている。 団長は何が可笑しいのか、ケラケラ笑って『そうだよ阿伏兎。』とか言ってるし。 仕方がないので、俺はため息混じりに『はいはい。』と返事をして 大人しくさっきまで寝転がっていたソファーに戻った。 『全く、夜兎だって言っても処置は必要なんですからね?』 まるで子供をしかりつける母親のようにそう言うと、 は俺の隣に腰掛け、俺に上の服を脱ぐように言いながら、 救急セットから消毒液やら絆創膏やらを取り出していた。 色々と嫌な予感はしたものの、大人しく上の服を脱ぐ。 『阿伏兎さんは団長と違って普通の体なんですから、もうちょっと気をつけて下さい。』 「ちゃん?俺の体は普通じゃないわけ?」 『はぁ!?団長ご自分の体を普通だと思ってたんですか!?厚かましい!!』 ここまで団長に言えるのは、多分くらいだろうな……。 団長はまた何が可笑しいのかケラケラ笑い始め、 は団長と会話をしつつも処置のために手を動かしていた。 ……おい、今のことをいい女だと思った奴、後悔しろ。 コイツは普段はいい女でも、俺の前だと豹変すんだよコノヤロー。 『それにしても、流石は阿伏兎さん。 やっぱ普通の人より傷口塞がるのが早いですねぇ。止血が必要なくて助かります♪』 「あ、あぁ……。」 『はい、これで大丈夫ですよ!阿伏兎さんなら3日後には完全に治ってますね。 それまでは安静にしていて下さいよ?きゃ、やだ!何だか夫婦みたいvv』 出てきた。コイツの突っ走った妄想の塊が。 『傷ついた夫の手当てをする妻……!!ぎゃー!超イイ!!萌える!! ヤッベこれ究極に萌えシチュじゃん!!悶え死ぬ〜!! んでその後夫が包帯を取り出して拘束プレイやっちゃうとかぁぁ!?』 ぎゃー!と両手で顔を押さえながら悶える。 ちょっと待て、その設定の中の夫はまさか俺じゃねーだろーな。 「拘束プレイなら俺の方が上手いよ、ちゃん。」 『アタシは団長に抱かれたくなんかありませんー! アタシの心はあの時から阿伏兎さんのものなんですからっvv』 「ぁいててっ!!お前っ、抱きつくなコラ!!」 『きゃーvv痛がる阿伏兎さん可愛いーvv』 「人の話聞いてやがんのかコラ!!!!放せって言ってんだろっ、ぁいたたた!!」 が思いっきり力を込めて抱きついてきたので、 さっき手当てを受けた肩から反対側の脇腹へかけての刀傷が痛む。だれかコイツを止めてくれ
(ちょ、続くってどういうことだコラ!!) (きゃーvv次回は私と阿伏兎さんの新婚生活に密着ー!?) (違うよ、俺とちゃんとのサクセスラブストーリーだよ) (いや、絶対違うだろ) 続く .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ あれー?続くのー?(あいたたた) とうとうやっちまったなぁ、阿伏兎小説。あはは!書いちゃった!! とりあえず楽しかったです。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2008/10/14 管理人:かほ