しょうせつ

 

【愛してるって言って!:前編】

『阿伏兎さん、愛してるって言ってください。』 「……は?」 『それが嫌なら好きでもいいです。言ってください!』 「いきなり何だよ……。」 突然がこんな事を言い出したので、俺は訳が分からずに戸惑った。 いきなり『愛してる』だの『好き』だの、歯の浮くような台詞言えるわけねーだろ。 そう言ってやろうかとも思ったが、あまりにもが真剣な顔で言ってくるので、 そんなに軽いノリで言えなくなってしまった。 『言ってくれないんですか?』 かと言って気の利いた言葉も思い浮かばず、俺が押し黙っていると、 が不満そうな顔をして俺を睨みながら言った。 「そ、そんな言葉言わなくたって分かるだろ?」 『だって、不安なんですもん。』 「あのなぁ……。何が不安なんだよ。心配しなくても、もう俺に春は来ねーよ。」 『だって阿伏兎さんカッコいいし……。』 「どこの物好きがこんなおっさん相手にするんだよ。お前くらいだっつの。」 『でもぉ……。』 は尚も不満そうな目で、しかも上目遣いで俺を睨んでくる。 いや、怖いどころか可愛いんだけど? 通常ならばもっと緊迫した雰囲気になる筈のものが、 のこの動作だけで周りがピンク色に染まっているので緊張感も何もなかった。 あぁ、駄目だ俺。最近一段とおっさんの思考になってきてやがる。 『やっぱ言ってほしいなぁ。』 「あのなぁ……。」 が俯いて口を尖らせながら拗ね始めたので本格的に困り果てる。 ここで一言望みの言葉を言ってやればいいのだろうが、 生憎俺はそんな台詞を易々とくれてやるようなガラじゃない。 正直、好きだの愛してるだのと簡単に言ってしまうのは嫌いだ。 言葉には重みがないし、それでしかを満足させる術がないのは男として格好が悪い。 何とかしてそれ以外の方法でに納得させようとするが、 そんな方法がポンポン出てくるわけがなく、俺は困り果てて押し黙ってしまった。 『……とさんなんて……。』 「あ?」 の小さな呟きを聞き取れず、ぶっきら棒に聞き返す。 『阿伏兎さんなんてもう大ッ嫌い!』 「あっ、おい!!!」 が突然そう言って部屋の外に走り出したので、俺は慌ててそれを追い掛ける。 アイツが逃げる時は、『構って欲しいから逃げるv』等と可愛いものではなく、 『マジで追いかけて来んじゃねーよクソヤロー!』な勢いで逃げようとするから困る。 現に俺が廊下に出た時には、は既に100m近く走っていっていた。 「いやいや、全速力で逃げ過ぎだろ。」 俺は軽く突っ込みを入れての後を追う。 も半分夜兎とはいえ、俺は夜兎で、しかも男だ。スピードで負けるわけがない。 案の定、すぐにに追いついたものの、 腕を掴もうとしたらひらりと華麗にかわされた。 「ちょ、!!待てって!!」 『うるさい!!付いて来ないで下さいよバーカ!!』 「一回落ち着け!とりあえず止まれ!」 『うっせぇよこのクソジジー!!!くたばりやがれ!!!!』 「いや、声が可愛いから全然怖くねぇんだけど……。」 そんなやりとりをしながら走っていると、ついに廊下の角まで来て、 は廊下の角を曲がってしまった。 まずい。これは非常にまずい。 角の先には階段があり、逃げる道が上下に増える事となる。 上下に広がる空間での戦闘はの得意分野だ。流石の俺でも敵わない。 ちょっと本気にならねぇとな、と溜息をついて角を曲がると、 既に逃げ出していたと思っていたが誰かに引き止められていた。 これはチャンスだと思い近づこうとして、俺は足を止めた。 あれ…………団長じゃね? 続く .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 何故か阿伏兎さん相手だと長くなってしまうという罠。 ってなわけで、前後編です。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2008/12/20 管理人:かほ