『はぁ…………なんでこんなコトに。』 私は今、大きな宮殿の屋根から周囲の見張りをしている。 特に異常がないと言えば大きな嘘になるけれど、問題は全くない。 そこら辺から宮殿に侵入しようと人間が入ってくるけれど、 団長と云業が手当たり次第殺していっている。 『うっわ。団長えげつな。そこまでしなくてもいいのにさぁ……。』 はぁ、と何度目か分からない溜息をつきながら、私はググッと伸びをする。 まさか聖なる夜にこんなつまらない任務を任させるなんて思ってもみなかった。 まぁ確かに私達は宇宙海賊春雨で、日曜祝日が関係ないことは 以前から重々理解していたけれど……。 『クリスマスまで働かせなくてもいいじゃんさ……。』 元老、絶対に帰ったらブッ殺す。 そう心に誓いながら誰も居ないエリアに侵入してきた人間を傘で撃ち殺す。 さすが私、狙撃の腕はなかなかのものね。 「おぉ、さすがだな。」 急に背後から声がしたので、気を抜いていた私は思わず傘を気配の方に向けた。 『あ、阿伏兎さん!!』 そこに立っている人物に驚き、私はそう言いながら傘を降ろした。 『ど、どうしたんですか?阿伏兎さんはお姫様の護衛担当じゃ……。』 「そのお姫様が2時間かかるお召し替えタイムだとよ。」 呆れた声でそう言いながら阿伏兎さんはよっこらせ、と私の横に腰を下ろす。 「それに、大丈夫だろ、この状況じゃ。」 いつものように面倒くさそうに頬杖をつきながら、 まだ派手に戦っている団長と云業の居る方向に目を向ける。 確かに、今この宮殿に入ってこれる人間なんて居ないだろうと思う。 私は思わぬサプライズに頭がクラクラしてきた。 一度阿伏兎さんと過ごすコトを諦めていた分、これは大き過ぎる幸せだった。 どうしよう、どうしようと溶ける脳みそをフル回転させていたので、 阿伏兎さんに『右』と言われるまで侵入者に気づかず、慌てて傘を握る。 「しっかりしろよ、。」 『ごっ、ごめんなさい……。』 私は恥ずかしさと嬉しさと緊張に耐え切れなくなって、 せめて顔を見ないようにと阿伏兎さんに背を向けて座った。 接してもいないのに背中が熱く、鼓動が早鐘のように鳴っている。 グルグルする頭は今にも溶け出してしまいそうで、 気を紛らわせようと侵入者を手当たり次第に撃ち殺していく。 「。」 急に後ろから名前を呼ばれ、『は、はい!?』と声が裏返ってしまった。 「その……悪かったな。」 『……え?』 「今日のことだよ。この間お前言ってたろ、何か言うことはねぇかって。」 『あ、あぁ。言いましたけど……。』 「よくよく考えりゃ、任務の話なわけねぇよなぁ。」 『は、はぁ……。』 私はまだ背を向けたままで会話をする。 えぇっと、つまり、阿伏兎さんは一緒に過ごす為に来てくれたという事? そんな事をぼんやりと考えていると、突然後ろから抱きしめられ、 そのまま引き寄せられ、気づいた時には阿伏兎さんに 後ろから抱きかかえられる体勢になっていた。 『ななっ……!?あああ、阿伏兎さんん!?』 「うるせぇよ、声がでかい。」 私は勿論恥ずかしさの絶頂に達し、体温計が振る切れるくらいに体が熱くなった。 そんなのお構いなしに阿伏兎さんはギュ、と腕に力を込める。 私は顔を真っ赤にして体を強張らせた。 「こんな任務放っぽって、お前と2人でどっか行けばよかったかな。」 『あ、阿伏兎さん……?』 「悪かったな、。来年は何処でも好きな所に連れて行ってやるよ。」 『え……本当ですか!?』 私は強張らせていた体を開放し、ぐるんと阿伏兎さんの方を見上げ、 優しく微笑む阿伏兎さんの顔を見つめる。 『来年は、本当に、2人で?』 「あぁ。約束だ。ただし、俺がそれまでに死ななかったらな。」 『死なせません!!絶対に、アタシが死なせません!』 瞬く星の下とは言え、任務中の宮殿の屋根の上という ロマンティックの欠片もないような微妙な場所だったが、 それでも阿伏兎さんの声だけで私は有頂天になれた。 来年は2人で過ごしてくれる!任務とかなしで、クリスマスを過ごせる! それが嬉しくてニヤニヤ笑っていると、 阿伏兎さんが気持ち悪ぃぞ、と呆れた顔で言ってきた。 だって嬉しいんですもん!と返事をすると、今度は困ったような顔になる。 「まぁ、なんだ。今年はこれで我慢してくれ。」 そう言って阿伏兎さんは懐から取り出したものを私に渡してくれた。 『……ッ!!これ、わざわざ地球に行って……?』 手渡されたのは、星の光が反射してキラキラ光る、綺麗なかんざし。 前に地球に行ったとき、私が可愛いと言っていたものだった。 あの時は戦いに邪魔だからと断念したのだが、 阿伏兎さんはそれを覚えていてくれたみたいだった。 「来年はそれつけて着物着ろよ。 クリスマスくらい女らしくしねぇと、可愛い顔が勿体無いぜ。」 阿伏兎さんは泣きそうな私の頬に手を当てて、優しくそう言った。 『……〜ッ!やっぱり大好き!!』 私はそう言って阿伏兎さんの首に腕を回して自分から口付けた。 阿伏兎さんも背中に手を回してそれに応えてくれた。 せっかくのクリスマス、たった1時間ちょっとの間だったけど、 私はとってもとっても幸せでした!!来年と言わずいつまでも
(あーぶーとぉー♪さっき屋根の上でなぁにしてたのー?) (……すまねぇ、早速約束を守れそうにねぇ……) (ぎゃー!!団長落ち着いてくださいぃぃぃ!!!!!!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ クリスマス記念小説、第七師団編でした☆ ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2008/12/25 管理人:かほ