『ん……!コレ美味しい!』 チョコレートと言ってもそれほど甘くなく、しつこくない味。 溶けるような舌触りはチョコと言うよりはむしろチョコ味のわたあめみたいだ。 私は自分の手に持っている箱の中のチョコレートを見つめ、 そしてにこにこ微笑みながらその蓋を閉めた。 『明日、阿伏兎先生に持って行ってあげよう♪』 そう言って箱の蓋を閉め、それを冷蔵庫に入れてから、 私は布団に入って眠りについた。 翌日の昼休み、みんなとご飯を食べ終わった私は すぐに昨日のチョコレートを持って化学実験室へと向かった。 早く阿伏兎先生の喜ぶ顔が見たい、早く阿伏兎先生に食べさせてあげたい。 持って行った時先生はどんな顔をするんだろう、 おいしいって言ってくれるかな?なんて色々と考えながら、 私はウキウキ気分で化学実験室の前まで来た。 すると、化学室から複数の生徒の声と阿伏兎先生の声が聞こえる。 何かと思って見てみると、どうやら生徒が先生に質問に来ているみたいだった。 『…………仕方が無い、か。』 残念だとは思ったが、先生はあくまでも“学校の先生”なのだから仕方が無い。 阿伏兎先生はこの学校の先生の中でも特に生徒に人気があって、 女子男子問わず多くの生徒から慕われている。 それは誇るべきことだし、本当に凄い人だと思う。 でも、それでも、 『ちょっとだけ……寂しいけど。』 私はチョコレートの箱をしっかり持って、来た道を引き返した。 「あれ、さっきの、ちゃんじゃない?」 「……!が来てたのか?」 「うん。先生に会いに来たのかな?」 「へ?来てたの?あちゃー、悪いことしちゃったなぁ。」 「…………。」 『はぁ……それにしても、これどうしよっかなぁ。』 私は受取人が居なくなったチョコレートの箱を眺めつつ、 トボトボと廊下を一人歩きながら、ため息と共にそう呟いた。 『もうすぐ溶けちゃうし……あ、そうだ!お妙ちゃん達にあげようっと♪』 女の子にはちょっと苦いかもしれないけど、 それでも溶かしてダメにしちゃうよりは食べてもらう方が断然いい! 改めて受取人が決まった所で、私は自分の教室へと歩みを速めた。 「おーい!ー!」 『あ、銀ちゃん!』 後ろから呼び止められて振り返れば、そこには銀ちゃんの姿。 「何それ、何持ってんの?」 『あぁ、これ?チョコレート。』 「マジで!?銀さんにも一個頂戴♪」 『え、でも……。』 本当は、阿伏兎先生にあげる予定だったチョコレート。 予定を変更して女の子にあげるのは全く問題なかったけど、 男の銀ちゃんにあげるとなると、ちょっと複雑だった。 でも、このままでも他の人に食べられることには変わりないし……。 それなら、チョコとか甘いものが大好きな銀ちゃんに食べてもらった方が、 このチョコレートもちょっとは幸せかな。 『しょうがないなぁ。はい!全部どうぞ。』 そう思った私は、チョコレートを箱ごと銀ちゃんに差し出した。 「え、ホント?やったぁ♪」 『あんまり甘くないけどすっごい美味しいんだから、 ちゃあんと味わって食べてよねー?』 「うんうん!分かってる分かってる!」 まるで子供のように喜んで、銀ちゃんは私から箱を受け取ろうと手を伸ばす。 今回は銀ちゃんにあげちゃうけど、 機会があればまた買ってきて阿伏兎先生に渡せばいい事だ。 このチョコレート、市販だし近くのスーパーで普通に売ってるしね。 さっき見た化学室の光景を思い出しながら、 自分に言い聞かせるようにそんなことを考えていたら、 急に私のほうに伸ばそうとしていた銀ちゃんの手の動きが誰かに阻止された。 「ちょっと待った。それ、俺のだろ?」 「あぁん?」 『えっ、あ、阿伏兎先生!?』 私は驚いて声を上げる。 銀ちゃんの手を掴んだのは、 なんと今まで化学室に居たはずの阿伏兎先生だった。 あまりの出来事に、私はしばらく声が出せなかったが、 チョコレートを食べようとしていた所を阻止された 極度の甘党で知られる銀ちゃんは相当頭にきたらしく、 阿伏兎先生をこれでもかというくらいギラッと睨んでいた。 そんな銀ちゃんの様子なんてお構いなしとでも言うように、 阿伏兎先生は掴んでいた銀ちゃんの手を離し、 そして私の手からチョコレートの箱を奪い取った。 『あっ……!』 「。これ、俺に持って来たんだろ?何で渡しに来なかった?」 私から奪った箱をヒラヒラと動かしながら、阿伏兎先生が尋ねてくる。 『だ、だって……阿伏兎先生、忙しそうだったし……。』 「あのなぁ……。」 阿伏兎先生はもう銀ちゃんなんて蚊帳の外に追いやってしまったらしく、 はぁ、と深いため息をつきながら私の頭を優しく撫でてくれた。 「いっつも言ってるだろ?俺の優先順位は、お前が一番なんだって。」 言い終わると、私が顔を上げて声を発するより早く 阿伏兎先生はワシャワシャと乱暴に私の頭を撫でてきた。 それを全く不快とは思わなかった。 むしろ、ものすごく嬉しい。 たくさん居た生徒達よりも、私を選んで来てくれた事が。 『あ、阿伏兎せんせっ……いた、いたたたた!』 「俺の気持ちも分からねぇような馬鹿野郎には、 こんくらいお仕置きしてやった方がいいんだよ。」 『そっ、そんなぁ……!』 私が情けない声でそう抗議したら、 阿伏兎先生は笑いながら手を離してくれた。 そして、箱からチョコレートを取り出して一口食べ、 にっこりと私に笑いかけながら、 「ん、うめぇ。」 と言ってくれた。 その笑顔ですっごく幸せな気持ちになった私も自然と笑顔になり、 『良かった』と言って阿伏兎先生に笑いかけた。 「おうおう、見せつけてくれんじゃねーのぉ?」 『あっ!銀ちゃんごめん!すっかり忘れてた!!』 「何だ、銀時まだ居たのか。」 『あ、阿伏兎先生……!』 「阿伏兎ォ、お前ちょっとモテるからって調子乗ってんじゃねぇぞ。」 明らかに不機嫌な銀ちゃんに、阿伏兎先生が追い討ちをかける。 ダメだって阿伏兎先生、銀ちゃん完全に怒ってるからコレェェ!!!! 「ま、お前もいい加減猿飛の気持ちに応えてやるんだな。」 「バッカ野郎!誰があんなストーカー女!!」 肩をすくめて余裕の表情で結構酷いことを言った阿伏兎先生に 銀ちゃんが思いっきり反論する。 私はその光景を苦笑いで傍観しつつ、 阿伏兎先生の手の中にあるチョコレートの箱を見つめては、 嬉しさのあまり1人でニヤけてしまっていた。 『阿伏兎先生……大好き。』 その呟きは、私以外の人間には聞こえなかったけど。そんな先生が大好きです!
(阿伏兎ォ、ちゃん諦めろよ) (何言ってやがるすっとこどっこい。は渡さねぇよ) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 意外と好評なあぶさん夢。3Zが個人的にかなりツボだったり。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2009/03/11 管理人:かほ