夜兎族ってのは老いても朽ちても戦いしか求めない種族で、 常に戦いの中に身をおいていないと自分が自分ではなくなってしまうから、 たとえ生きながらえて命より大切なものが出来ても、 老いてその身が思うように動かなくなったとしても、 片腕が吹き飛んでも、四肢がもがれても、 やっぱり戦いだけは常に一番の欲求であって、 何をしたって俺達が戦いを求めなくなることは決してあり得ないんだ。 『だからね、あの人と結婚する時、 お前にその覚悟はあるのか?って、聞かれたの。』 そう言ったさんの表情は、悲しみとも怒りとも違うものだった。 僕はボロボロになった神楽ちゃんに肩を貸しつつ、 本来ならば倒すべき敵であるさんの話に耳を傾けていた。 神楽ちゃんも、初めはお兄さんの部下だって事で敵意むき出しだったが、 彼女の振る舞いにもう戦う意思はなくなったようだった。 『私はそれに『はい』と答えた。覚悟はしていたから。 例えあの人が戦いの中で死んでしまっても、それは夜兎族の宿命。』 屋根の上にしゃがんで夜兎族の男が落ちていった奈落を見つめ、 さんは酷く穏やかな声でそう言った。 あぁそうか、だから僕達の戦闘中に一切手助けしなかったのか。 神楽ちゃんが夜兎族として覚醒してしまった時も、 あの男の身を案じながらも、決して助けようとはしなかった。 それは、助けるという行為が夜兎族への侮辱行為だから。 『でもね……おかしいなぁ。』 僕の肩を借りている神楽ちゃんが、一瞬さんの方に手を伸ばそうとした。 でも、その手はすぐに引っ込められて、 代わりに血が出るくらい唇をかみ締めていた。 僕も、何も言えなかった。 本当ならば、敵であるさんなんて放っておいて、 すぐにでも晴太君の加勢に行かなければならないのに。 でも、そうするにはあまりにも彼女には害がなく、 あまりにも人間すぎて、脆くて、繊細で、優しかった。 震える声で『何でだろう、』と言うさんは、 本当に夜兎族と一緒に居る女性なのだろうかと思うほどに小さかった。 『いざ居なくなると、やっぱり哀しいもんだね。』 さんの涙が、ポロポロと奈落の底へと落ちていった。真実とは時に慈愛のようなもので
(その後、さんは僕達と一緒に晴太君に加勢してくれて、) (銀さんたちの所へ辿り着いたら、やっぱりお兄さんと行ってしまって、) (寂しいなんて感情が起こりもしたけれど、) (彼女にとっては最高の結末が、そこには待っていた) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ ちょっと暗い感じだけど、実はハッピーエンド、的な? ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2009/03/15 管理人:かほ