しょうせつ

いつか来る、いつか来ると思っていたが……。

『んぅ〜、阿伏兎さぁん、お腹すいたぁ〜。』

来てしまった。ついにこの日が。

「あー、分かった分かった。すぐ作ってやっから。」

俺は自分の理性と戦いながらもベタベタ甘えてくるに軽く返事をした。
え?なぜ理性と戦う必要があるのかって?
んなもん答えは決まっている。俺も男だからだ。

いつもしっかり者で男勝りなが、今や重度の甘えたさん状態なのだ。
こういう日を俺と団長は『甘えたの日』と勝手に呼んでいる。
ちなみにネーミングセンスがないのは団長の方だ。

『阿伏兎さん、あ〜ぶ〜と〜さんっ。』

この日はただひたすら己の理性と戦わなければならない。
無意味に何度も俺の名を呼び、
ゴロゴロとまるで猫のように俺にじゃれてくるは、
いますぐにでも押し倒したくなるほどの可愛さだ。
そりゃ理性だって簡単にブッ飛びそうになる。
しかしそこは大人の対応をしなければ。一応俺も40過ぎだし。

「で?何が食いてぇんだ?」

俺はいつもの声からは想像もつかないような甘えた声で
『阿伏兎さん、阿伏兎さん、』と繰り返すの頭にそっと手を乗せ、
擦り寄ってくるを控えめに引き離しながら質問した。
するとは引き離されたのが気に入らなかったのだろうか、
一瞬ムッとした顔になって、また俺に抱きついてきた。

「(押し倒すぞテメェ……!!!!!)」

俺は理性という名の紳士を引き止めておくために大きな深呼吸をし、
甘えたさん声(男にとっては自身が危なくなる声)のにまた話しかける。

「ちゃん、ちょっと離れちゃくれませんかね。
 飯を作れないどころか立つことすら出来ねぇじゃねーか。」
『ぃやぁ〜!阿伏兎さんと一緒に居るの〜!』

ちょっ、おまっ、止めろって……!!!!
ギューッと音が鳴りそうなほど俺を抱きしめるに、
俺の鼻の毛細血管はリタイア寸前だった。
俺はとっさに鼻を押さえ、それを気づかれないように
とは反対の方向を向いて、あくまでも平静を装って会話を再開した。

「、とりあえず離れろ。で?一体何が食べてぇんだ?」
『んーっとねぇ……阿伏兎さん♪なんちゃって。』
「……〜ッ!!!!!!」

不意打ちの、いたずらっぽい笑顔と甘えた声に、
俺の鼻の毛細血管は耐えきれなかったようだ。
いい歳したおっさんが、こんなガキに『食べたいv』って言われただけで
盛大に鼻血を吹き出してしまうとは、全く情けない。

『ぎゃああ!?どどど、どうしたんですか!?』

俺の鼻血の原因であるは急な出来事に慌てふためく。

「な、何でも……ないことないけど、何でもねぇよ……。」
『阿伏兎さん!!矛盾してます阿伏兎さん!!』

鼻を押さえつつ身悶える俺と、心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
正直、今が俺に近づいてくることは正解か不正解かで言うと
完全に不正解で、俺の鼻に大変よろしくない感じなのだが、仕方がない。
仮にが俺の顔を覗き込んでくるのを止めたとしても、
が俺の半径3メートル以内に居る限り俺の鼻血は止まらないのだから。

「、とりあえず……おまえ、反則……。」
『反則!?レッドカードですか!?いきなりレッドですか!?』

おろおろと俺の周りで慌てふためくがもぅ可愛くて可愛くて、
俺の理性は発射5秒前というところまで来ていた。
ダメだってばちゃん、オジさんこう見えて簡単に獣になっちゃうから!

「……とりあえずだな、お前、はなれてくれ……危ないから……。」
『ご、ごめんなさい、ごめんなさい!アタシが甘えたから?アタシのせい?』
「分かってるんならさっさと離れろ。襲われてぇのか……。」
『い、嫌だけど、でも、阿伏兎さんが……!!!!』

は俺の鼻血の量を見て半泣き状態だった。
くそっ、泣きたいのは俺の方だっつーの。
何が哀しくてこんな小娘に翻弄されなきゃなんねぇんだ。

……まぁ、惚れた弱みってやつなんだろうが。
はぁ……この最強部族と恐れられる夜兎族が情けない。

『阿伏兎さん、大丈夫ですか……?』
「だーもう!とりあえず、俺から離れてくれ!100円あげるから!!

心臓が持ちません

(え、100円くれるんですか?別にいらないですけど……) (押し倒されてぇのかテメェはァァ!!!!!!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 壊れた阿伏兎さんも好き! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2009/03/24 管理人:かほ