人には秘密にしておきたいことがある
人には言えない真実だってある
例えそれが
自分を破滅に導くものであったとしても
【I'm in need of You.】
俺が外に出てから10分くらい経った頃、が部屋から出てきた。
『お待たせしてすみません!さっ、行きましょう♪』
「あぁ。」
いつも通りの明るいに、俺は顔の筋肉が緩んでしまった。
それを見ても照れくさそうにはにかんだ。
いつだったかもう忘れてしまったが、が初めて第七師団に来たとき、
俺は正直、ガキの面倒なんて運が悪いと思ったものだ。
「一体何を話してたんだ?」
しかし、今は全くの逆。
あの時に出会えて本当に良かったと思っている。
まぁ……ガラじゃないのは重々承知の上なので
には一度もそんなこと言っていないが。
『だ、団長の話です!アタシもちゃあんと見ておけって。』
「お互い、変な上司を持つと苦労するってことか。」
俺の言葉には『そうですね』と言って軽く笑った。
そして、お互いの目線がぶつかると、2人一緒に笑った。
いつまでも、こんな日が続くと、思っていたんだ。
『ねぇねぇ阿伏兎さんっ!』
ある日、俺がいつものように書類の山を片付けていると、
いつもは仕事が終わるまで大人しくしているが急に話しかけてきた。
コイツは団長みたいに空気が読めないわけでもなく、
寧ろ細かい気遣いが出来るイイ女だ。
しかし、今日に限ってはその原理は通用しないらしい。
「何だ。今団長がやらかした事件の始末書片付けてんだ、後にしろ。」
『そんなこと言わずにぃ!ね、ちょっとだけお話しましょっ?』
何だ、この果てしなく遠慮しないは。いや、する気がないのか?
話したい事があるのならば後でいくらでも聞いてやるが、
今は大量の書類を片付けているという事を、も重々承知のはずなのだが。
「、いい加減にしろ。静かに出来ねぇなら出ていけ。」
『阿伏兎さぁん!仕事なんて、後回しにしちゃえばいいじゃないですか!』
「あのなぁ……。」
ずっと机に向かっていた俺は、顔を上げてに冷たい視線を送った。
『あっ、阿伏兎さんやっとこっち見てくれた!』
「人の話聞いてたか?出てけ。」
『やーっだ!』
そう言いながら俺に抱きついてくるを、
いつもならば可愛いと感じるのだが、今回ばかりは癇に障った。
こんなに我侭なは初めてだ。もう少し空気を読んでもいいんじゃねーのか?
書類の量があまりに多かった事と、その内容がいつもの団長の不始末だった事で、
多分その時の俺はイライラしていたんだと思う。
そろそろ我慢の限界だという所まで来たので、
俺は不機嫌を包み隠さぬ低い声でに言った。
「、酒でも飲んだのか?」
『いいえー?だってアタシまだ未成年ですもん!』
にこっと俺に笑いかけ、ギュッと俺を抱き締めくるはこの上なく疲れる。
とりあえず、まずはこの始末書の山を片付けてしまいたい。
には悪いが、何が何でも部屋から出ていくか黙って居てもらはなければ。
「、本気で怒るぞ。黙るか出るか、どっちだ?」
俺はキツめの口調でに言って、乱暴にを引き剥がした。
もうちょっと抵抗するかと思っていたが、は無抵抗で俺から離れた。
『……阿伏兎さんは、仕事とアタシなら、仕事をとるんですね。』
それまでの雰囲気とは打って変わって、
どこか寂しそうな声でそう言ったに、俺は何も答えられなかった。
俺が固まっていると、ふいにの手が俺の手に重ねられた。
「……?」
明らかにいつもと雰囲気の違うに、俺は思わず名前を呼んだ。
ギュッと、の手に力が込められる。
『出て行きます、ごめんなさい、お仕事の邪魔しちゃって。
でも……最後にこれだけは覚えていて下さい。』
震える声でそう言ったと思ったら、急には顔を上げ、俺は口を塞がれた。
その行動にも驚いたが、もっと驚いたのはの顔だった。
普段の、そしてさっきまでのの明るい表情からは想像もつかないような暗い顔で、
その大きな瞳からは大粒の涙が零れていた。
「お、おい……!!」
俺が声をかけようと思った時にはもう遅く、
はすでに俺から離れて部屋の外に走り出していた。
思わず立ち上がって伸ばした俺の手だけが、虚しく宙に取り残されてしまった。
間違えてしまった選択肢
(たった一度の人生を、間違えたくなんかなかったのに)
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ここからずっと暗め(シリアスめ?)ですが、しばしご辛抱下さいませー!
※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。
2009/04/05 管理人:かほ