どうして人は
いろいろなものを傷つけてまで
愛する人を護ろうとするのだろうか
【I'm in need of You.】
「……?」
いつも気丈なアイツが泣くなんて、やっぱり何かある。
それならばさっきのの異常な行動にも説明がつく。
俺はその時初めて自分の言動を酷く後悔した。
もっと話を聞いてやれば良かった。
もっとの変化に気付いてやれば良かった。
こんな紙切れ、いつだって片付ける事が出来たのに。
書類は何枚もある、説教は何度だって出来る。
だが、はこの世でたった1人だけだったというのに。
そんな事がグルグルと頭を駆け抜け、軽く放心状態になっていた時、
先ほどが出て行ったドアが凄まじい音と共にブチ壊された。
そして、そこから痛いほどの殺気を纏った団長が
ゆっくりと俺の方に近づいて来たのであった。
「阿伏兎、ブッ殺すよ。に何言ったの?」
「……ッ!?が、何か言ってたのか?」
「はぁ?寝ぼけてるの?叩き起こしてあげようか?」
いつもの気味の悪い笑顔も不気味な優しい声もない団長が、
ゆっくりと俺の元に歩み寄り、そして俺を思い切り殴った。
勿論俺は吹っ飛び、壁にぶつかってズルズルと床に座り込む。
「お前がそんな奴だなんて思わなかったよ。
その様子じゃ、はお前に何も話してないんだろうね。」
「……っく……。なん、だと……?」
「もう阿伏兎には任せられない。は俺が貰うから。」
団長はそう吐き捨てると、ズカズカと部屋を出て行ってしまった。
「……んだっつーんだよ……!」
腹立たしいのを拳にこめて壁を殴れば、
俺達夜兎族のために普通より頑丈に出来ていたはずの壁が
ガラガラとあっけなく崩れ落ちた。
それと共に、隣にあるやけに殺風景な団長の部屋が現れる。
『は俺が貰うから。』
ふいに団長の言葉が頭によぎる。
団長は元々に惚れていて、が俺を慕っていると知った時、
猪の一番に反対し、俺を殺そうとしてきた。
あの時は流石の俺も本気で死ぬかと思ったが、
驚いた事には団長よりも俺を選んだ。
に止められた時の団長の顔は、きっと一生忘れられないだろう。
俺の前で両手を広げながら団長を阻止したの肩は震えていて、
阻止された団長は手刀をの目の前1センチばかりの所で止め、
俺以上にの行動に驚いていた。
そうしては今までずっと、俺のそばに居てくれたんだ。
なのに、団長の言葉から察するに、
は俺にも言っていないような事を団長には話していたらしい。
あれほど俺に好きだ好きだと言っておきながら……。
そういえば、最近になってが好きだと言って来なくなったな、と俺は気づく。
怒りと敗北感が一気に押し寄せ、俺は舌打ちをした。
そして、痛む頬を撫でつつ立ち上がると、
また壊されたドアの方から誰かが部屋に入ってきた。
「阿伏兎!ちゃんのあの話――」
「その名前を出すな!!!!!」
イライラしていた俺は部屋に飛び込んできた云業にいきなり怒鳴りつける。
云業は一瞬怯んだものの、すぐにさっきの団長と同じ目で俺を睨んできた。
「阿伏兎……本気でちゃんを上にやるつもりなのか……?」
「何だと?」
云業の言葉に自分の耳を疑った。
俺がを誰にやるって?
むしろ俺は今しがたそのにフラれたところなんだが……。
そこまで考えてハッとした。
確か一週間くらい前、はたった1人元老に呼ばれていた。
よくよく考えると、あれが団長の話であるわけがない。
それならば、俺と一緒に居る時に言うはずだ。
それに、さっきのの行動と団長の行動。
全てが繋がり、俺は神妙な面持ちで云業を見る。
「云業、どういう事だ?」
云業は一瞬眉間に皺を寄せたが、すぐに俺が欲している答えをくれた。
突きつけられた真実
(口が何故あるのかって?言葉が何故生まれたのかって?)
(んなもん簡単だ。俺のような過ちを犯さないためさ)
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次回でこの物語の引き金となった話が明らかに……!
※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。
2009/04/25 管理人:かほ