しょうせつ

誤ってしまった選択を取り戻すために 今、俺に出来ること

 

【I'm in need of You.】

ちゃん、春雨の上のジジイから求婚されてたんだよ、知ってるだろ?」 「……ッ!?知らねぇぞそんな話。」 云業の口から突きつけられた真実。 それは俺の予想の範疇を遥かに超えていた。 俺の言葉に云業は総てを悟り、簡潔に今回の事の発端を説明してくれた。 「俺が初めてこの話を聞いたのは、もう3年も前の事だ。  弱い奴に興味がないあの団長が前を通ったお偉いさんを見て呟いたんだ。  『アイツを殺っちゃったら、大惨事だよね、云業。』って。  そして話してくれた。そのお偉いさんがちゃんを狙ってるって。」 呆然と立ち尽くす俺に、云業はが隠していた真実を話し始めた。 何故がこの話を俺にしなかったのか、粗方見当はついた。 きっとは俺に余計な心配をかけないためにそうしたんだ。 そして、自分がお偉いさんになびかない自信もあった。 それなのに……どうして急にあんな事を……。 「ちゃん、もう自分には心に決めた人が居るからって、  そのお偉いさんの求婚をずっと断っていたんだ。  でも、肝心の相手の名前は聞かれても絶対に答えなかった……。  名前を出せば、お前に危険が及ぶからってな。」 俺は話を聞きながら酷い罪悪感に襲われた。 は、そんな状況下でも俺の身の上を考えてくれていたのに、 俺はそのに何もしてやれていなかった。 それどころか、一時の感情に任せてを追い出した……。 最低だ、俺は。 握った拳と噛み締めた唇から少量の血が流れ出たが、 俺の感覚は麻痺していたんだろう、全くその事に気がつかなかった。 自分を痛めつけても、何の解決にもならないことくらい分かっている。 どんなに悔やんでも、自分のしてしまったことを白紙に戻せないことも。 「しかし、そんな曖昧な断り方では上の頑固なジジイが引き下がるわけがない。  そこで痺れを切らした上は、ちゃんにある条件を持ちかけた。」 「ある、条件……?」 俺が問うと、云業は言いにくそうに目線を逸らし、 しばらく何かを考えた後、意を決したように再び俺を真っ直ぐ見つめた。 「ちゃんは年が明けるまでに相手の名を明かさぬなら、  強制的にそのお偉いさんと婚約することを言い渡された。」 「……ッ!?なん、だと……!?年明けってお前……!!!!」 「そう……明日がその最終期限なんだ。」 云業の言葉が俺に重くのしかかってきた。 初めて感じる、得体の知れない恐怖に四肢を支配される感覚。 ならは、俺の名を出さないばかりに 強制的にくたばり損ないのジジイの家に嫁がされるって事か? そんなもん、俺が黙って見てるわけねぇだろーが……! 俺が意を決し云業にの居場所を聞こうとした時、 云業の口から追い討ちをかける言葉が襲ってきた。 「俺はお前が名乗り出ると思っていたが……  まさかちゃんが自分から嫁ぐと言い出すなんて……。」 「……ッ!?な……に……?」 が自分から嫁ぐと言い出した、だと? その原因は先程の条件とやらであろうが、それなら全く納得がいかない。 は俺にこの話をしなかった。 言ってくれさえすれば名前くらい幾らでも出してやるのに。 それくらいを愛していると、も十分知っているはずなのに。 頻繁に口には出さなかったが、一度だけ、たった一度だけ、 に自分の想いを告げたことがあった。 今でもすぐに思い出せる。任務中、自分でも驚くほどさらりと言った。 俺は、に惹かれていると……。 その時のの驚いたような照れたような笑顔も、 その後のの恥ずかしがった声も、言葉も、全て思い出せる。 あの時から俺たちはずっと一緒に過ごして来たんだ。 それなのに、は何故何も言わないまま、 俺の元から離れるような選択をしたんだ……? 「俺は阿伏兎がちゃんより仕事を選んだことに驚きだよ。」 俺の考えを知ってか知らずか、云業は俺に決定打を喰らわせた。 自分の中の血が凍りつく感覚に襲われ、 気がつけば云業の制止する言葉を無視して走り出していた。

自分が招いた最悪の事態

(たった1人の人間を、失う怖さを味わった) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 今更ですが、阿伏兎さんのキャラが違うとか言う突っ込みは 心の奥にしまって置いてくださいorz ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2009/04/25 管理人:かほ