しょうせつ

君の笑顔を思い出すと 君の泣き顔を思い出すと 今までにないくらい胸が締め付けられて 今までにないくらい自分が取り乱していて 気がついたら 走り出していたんだ

 

【I'm in need of You.】

……阿伏兎さんは、仕事とアタシなら、仕事をとるんですね。の寂しそうな声が頭の中でガンガン鳴り響く。 あぁそうだ。俺はあの時、お前よりも仕事を選んでしまったんだ。 お前の事を何一つ知りもしないで、お前の想いを何一つ汲み取ろうともしないで。 俺は馬鹿だ。最低の男だ。 それなのに、お前は――……。 『でも最後にこれだけは覚えていて下さい。の泣き顔が脳裏に焼き付き、何度も俺を締め付ける。 こんな俺でも、お前は最後の最後まで想ってくれていた。 最後に感じたお前の唇の温度が何よりの証拠。 重たいものを全て1人で背負って、こんな俺をかばって、 お前1人が苦しむことなどあってはならなかったんだ。 が苦しんだ分、俺は命をかける。 俺が泣かせた分、今度は俺が笑わせる。 ジジイなんぞにくれてやるものか。 俺はお前が――……! 俺はようやく辿り着いた謁見の間の扉を荒々しく開けた。 中にの姿はなかったが、それでも元老が居れば場所を聞き出せると思っていた。 が、その頼みの元老も、今や口がきけない状態だった。 「あれ、阿伏兎どうしたの?そんなに息を荒げちゃってさ。  いつも冷静なお前が珍しいね。ジョギング帰り?」 「団長……。」 そこには元老を一人取り残らず気絶させた団長の姿があった。 さっき俺をぶん殴った後どこかに行ったと思っていたら……。 「本当は殺そうと思ってたんだ。を売っちゃったような奴等だからね。」 団長は胸倉を掴んでいた元老の1人を無造作に放り投げ、 いつもの貼り付けたような笑顔で穏やかにそう言った。 「でも、殺しちゃったら春雨が機能しなくなるだろ?  が帰ってくる場所を壊すのはダメかなって思ってさ。」 入り口で呆然と立ち尽くす俺に、にっこりと笑いかけてくる団長が、 いつも以上に酷く恐ろしく感じられた。 この人の笑顔は殺意の表れだ。 それが今、ゆっくりと俺に向かって歩いてきている。 これ以上の恐怖がこの世にあるものか。 「で、お前は何しに来たの?」 ドスの効いた声がこだまする。 殺気が俺を包み込んだ。 先程までの笑顔はどこへやら……団長は相当怒っているらしく、 普段の団長からは考え付かないほど真面目な顔で 禍々しい殺気を放ちながら、ゆっくりと俺に近付いて来た。 「言ったよね?もうはお前に任せておけないって。」 団長の言葉が全てを理解した俺に襲いかかる。 俺はガラにもなく顔を歪ませ、そしていつになく堂々として団長を迎え撃った。 「それでもは俺のもんだ。償う覚悟はある。」 「……ふぅん、言うね。阿伏兎のくせに。」 団長は俺の攻撃射程内一歩手前の所で立ち止まった。 それでも殺気にやられて冷や汗が背中を伝う。 「ラストチャンス。甲板の船だよ。あと2分ね。」 「は……?」 「殺したいほど悔しいけど、にはお前しか居ないんだ。」 団長はそう言うと顔の返り血を拭い、俺を睨んだ。 「早く行けば?殺しちゃうよ?」 礼を言うガラじゃない事はお互い承知の上だった。 俺はすぐに甲板を目指し走り出す。 あと2分でとジジイを乗せた船が出発してしまう。 この広い宇宙、一度飛び立たれると厄介だ。 俺は急いで階段を駆け上り、甲板と俺を隔てる扉を蹴飛ばした。 辺りを見回す手間もかからぬうちに、俺の目の前には立派な船艦が現れた。 もう少しで飛び立ちそうなそれに駆けていき、 船の底にある入り口に居た兵士を3人ほど瞬殺して、俺は艦内に入り込んだ。 間もなくして船艦は浮上し、春雨の船に別れを告げた。 「おいおい勘弁してくれよ……。操縦なんて出来ねーぞ俺ぁ。」 そう呟きながら、俺は後ろから攻撃を仕掛けてきた兵士を蹴り殺す。 久々の回し蹴りだったが、まだまだ威力は衰えていないようだ。 ふぅ、と溜め息をもらし、俺は軽く60は居そうな兵士の群れに向き直る。 「……おいおい、勘弁してくれよ。分かってたんだろ、俺だって事くらい。  そりゃ天下の春雨幹部様だもんなぁ……全くあくどいこった。」 に逢うまでに傷だらけにならないようにしねーとな。 俺は軽く苦笑し、兵士の群れへと駆け出した。

思わぬけ舟

(を取り戻すために作ってしまった、とんでもなく大きな借り) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 神威が結構いい奴です、このお話。 次回は神威視点で物語の補足的なお話です♪ ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2009/04/25 管理人:かほ