『見て見て阿伏兎さん!桜っ!』 久々の休日を利用してと2人で地球の公園で散歩をしていると、 俺の隣をちょこちょこ歩いていたが急に小走りし始めた。 そして楽しそうな声で俺にそう言って、1つの大きな樹を指さす。 見ると、とても綺麗で小柄な桜の樹が一本だけ立っていた。 「おぉー、こりゃ綺麗だなぁ。」 『でしょー?えへへ、見つけたアタシを褒めて♪』 「はいはい、えらいえらい。」 棒読みでそう答えつつ頭を撫でてやれば、 はとても嬉しそうな笑顔で俺を見上げてくる。 確かに、この樹は公園のイチョウ並木からかなり離れたところにあり、 加えてかなり小柄な樹なので、普通に歩いていたらまず見えないだろう。 これを見つけるなんて、流石はだと思う。 『でも可哀想。こんなに綺麗なのに、気づいてもらえないなんて。』 「まぁ、ちっちぇーしなぁ。」 まるで自分が気づいてもらえなかったかのように ぷぅ、と頬を膨らませるを見つめながら、 俺は散歩の目的である“話”を切り出すことにした。 「なぁ、……。」 『はい?何ですか?』 「お前なら、俺なんかよりもっとイイ男が見つかる。 お前はあの団長さえも惚れた女だ。お前が望めば、すぐに幸せが手に入る。」 『……?』 俺の突発的な話に付いてこれていないは、小さく小首をかしげた。 「だから、その……俺みたいなオッサンじゃなくても、 お前ほどのイイ女なら、もっと若くてカッコイイ男がすぐに見つかるだろう。」 『……何が言いたいんですか?』 やっと俺が言わんとしている事を理解したのだろう、 が不自然なほど落ち着き払った表情で俺を見つめた。 『阿伏兎さん、アタシのこと嫌いになっちゃったんですか?』 「そうじゃねぇ!ただ……。」 『ただ?』 決してが嫌いになったわけではなかった。他に理由がある。 しかし、口下手な俺はそれをに伝えきれず、 少し寂しそうな顔になったを誤解させまいと、必死で言葉を探した。 「俺みたいなオッサンなんかで、本当にいいのかと思ってなぁ……。」 『…………。』 俺がから目線を外し、桜を眺めつつそう言えば、 はしばらく黙った後で、同じく桜を見つめながらこう言った。 『阿伏兎さん?さっきからイイ男イイ男って言ってますけど、 それって阿伏兎さんにとってのイイ男でしょ?』 「あぁ?」 急に気持ちの悪いことを言い出したに、俺は眉間にしわを寄せる。 しかし、はいたって真面目な顔で言葉を続けた。 『アタシにとってのイイ男は、アタシにしか分からないんですよ。 だから、アタシは自分で、自分にとってのイイ男を決めるんです!』 「…………!」 はそこまで言うと、桜から俺に目線を移した。 向けられたその笑顔は桜なんかよりも綺麗で、 俺は思わず口を開けたままに魅入ってしまった。 『それで、アタシが選んだのが、アナタなんですよ、阿伏兎さん。』 「……。」 そう言いながら悪戯っぽく笑うに、俺は苦笑しつつ肩をすくめた。 「参った。こりゃオジさん、一本取られたなぁ……。」 『えへへ、何か文句あります?』 「ククク。いいや、全くねぇよ、お姫様。」 にそう答えつつ、俺は愛しい彼女にゆっくりとキスをした。だって貴方が好きだから
(この桜が一部の人にしか愛されないように、) (阿伏兎さんの魅力も一部の人にしか分からないんですよ) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 私もその少数派の1人ですよ、阿伏兎さん!← ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2009/05/03 管理人:かほ