しょうせつ

貴方のそばに居るだけで 私はとても幸せでした この言葉に嘘はありません いつまでも、いつまでも――……

 

【I'm in need of You.】

窓の外には綺麗な星が瞬いている。 この船は春雨の所有する船の中でも1、2を争うほど上等な船で、 巨大な艦体と豪華な内装は宇宙でも指折りのものらしい。 だから春雨のお得意様をもてなすのに使われるのだと、 先ほどこの部屋に連れて来られる時にこのジジイが話していた。 「嬢。まさか君から来てくれるとは、私は至極嬉しいよ。」 春雨のお偉いさんであるジジイがワインを片手に私に笑いかけてきた。 『……どうも。』 私は艦内で一番高級な部屋に通され、 目の前に最高級の料理が出されているというのに、 なんとも不機嫌そうな声でそう返事した。 正直こんな所には来たくなかった。 でも、このままだと年を越す前に阿伏兎さんがコイツ等に殺されてしまう。 この男が所有する部隊は春雨の中でも精鋭を集めた暗殺部隊。 いくら阿伏兎さんでも簡単に勝てる奴等じゃない。 あの団長が戦いたいと言っていた奴等だもん、相当強いんだろう。 阿伏兎さんの強さを信じていないわけではない。 ただ、私のせいであの人が傷つくのを見るのが嫌だっただけ。 そんな光景を見るのが絶対に耐えられないと思ったから、 私は阿伏兎さんに何も言わぬままこの男のところへ嫁ぐ決意をした。 全ては私の弱さのせい。 ただ、それだけのこと。 「どうしたんだい?お口に召さなかったかね?」 しわしわ顔で微笑んでくるジジイに愛想笑いで返しながら 思ってもいない言葉を投げかける。 『いいえ、とても美味しいです。』 「そうかい。それは良かった。」 いいわけねーだろクソジジイ。 『でも、驚きでした。どうしてアナタ程の幹部様が、  私のような一団員に求婚して来て下さったのですか?』 「ククク、謙遜するでない。嬢と言えば知らぬ者は居ない第七師団の紅一点。  その強さと美しさは春雨の者全員の憧れの的。  策略も裏もなく、私が惚れるには十分すぎる相手だと思うが?」 『そんな……恐れ多いです。』 また愛想笑い。反吐が出る。 そんな言葉なんか要らないのに。 どんな讃辞も、どんなお世辞も、どんな愛の囁きも要らないから、 私はあの人のぶっきらぼうな声が欲しかっただけなのに。 ただ、あの人の傍に居たかっただけなのに。 ただ隣で、同じ景色を見ていたかっただけなのに。 あの人の幸せと無事を願ったら、 いつの間にかあの人の元から引き離されてしまった。 ただ質素な幸せを望んだだけなのに。 私達の前には、いつの間にかたくさんの障害が出来上がってしまっていた。 「ほら、窓の外を見てご覧。流星群が綺麗だ。」 テメーと一緒に見る流星群なんか、 あの人と一緒に見る死体の山にも劣るっつーの、クソジジイ。 『……本当に、綺麗ですね。』 喉から血が出るかと思った。 窓の外に目をやると、ガラス越しに嘘つきな私がこちらを見つめていた。 哀しそうな顔で私が私を睨んでくる。 虚ろな目で私は私を見つめ返す。 自分の気持ちに正直に生きているのが羨ましいと、一度団長に言った事があった。 それを聞いて団長はムッとした顔で私を小突いてきた。 、それって褒め言葉?なんて分かりきった質問をしてくるもんだから、 私と阿伏兎さんは顔を見合わせて大笑いをしたものだ。 そうやって繰り返される日々がこの上なく幸せだったのに。 3人で笑っていられた日々が。 アナタと、過ごしていられた日々が。 もう遠い遠い星になってしまった春雨の艦隊と共に、 私は涙と過去の思い出を胸にしまった。

例えばそれが貴方ならば

(フルコースも流星群もいらないから、ただ隣で笑っていたい) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ ヒロインさんがシリアス思考過ぎる……。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2009/05/10 管理人:かほ