しょうせつ

『あ、ぶ、と、さん。』
「ん……?どうした?」
『えへへ、別に。ただ名前を呼びたかっただけ。』

にへら、と笑顔でそう言ったがあまりに可愛くて、
俺は途中だった始末書(例に漏れず、団長が勝手に殺したお偉いさんの件だ)を置いて
の方に近寄った。

『いいの?明日までじゃなかった?』
「自分から甘えといて何言ってんだ。」
『えへへ。バレた?』

俺がから少し離れたところに座り両手を広げてやれば、
は少々照れながらも俺の腕の中にバッと飛び込んできた。

「……ちょ、苦しい。」

飛び込んで来たまではいいが、は俺の頭に手を回し、
そのままギューっと首の辺りを抱きしめてきやがった。
まるであまりに可愛すぎて動物を力いっぱい抱きしめてしまう感じだ。
悪意はないのだろうが、流石にちょっと苦しい。
俺は包み隠さず苦しさを表現したつもりだったのだが、
はそんなことお構いなしに俺の頭に頬擦りしながら甘えた声を出していた。

『うへへ〜。阿伏兎さーんvv』
「ちょ、お前っ、マジで苦しいって。」
『あれ?ホントに苦しいんですか?ムラムラしない?』
「…………。」

やっと離れたと思ったら、はキョトンとした顔でそう言ってのけた。
いやいや、お前俺を誘ってたの?
そりゃ鼻血が出るくらい可愛いとは思ったが、
この状況で襲いたいとまでは思わなかった。
何より今は真っ昼間だ。俺はそこまで節操のない奴じゃない。

「あのなぁ、俺がもし本当に襲ってたらどうするつもりだ。」
『えー?それもいいかなぁーって。』
「アホか。ほら、いいから座れ。」

俺は目の前で膝立ちしていたに反対を向かせ、
そのまま俺が後ろから抱きしめる形で自分の股の間に座らせた。
するとは体を俺に預け、また可愛らしい声で甘えてきた。

『阿伏兎さん〜vv』
「何だお前。今日はえらく甘えてくるな。」
『だって、阿伏兎さん最近忙しかったんだもん。』
「そりゃお前、団長の――。」
『約束!』

俺の言葉をさえぎって、が不満そうな声を上げ俺を睨んできた。
俺はすぐにが何を言いたいのかを理解して、
そしての機嫌を損ねまいと、恥ずかしいながらもに応える。

「……悪かった、。」

なかなかの名前を呼ばない俺に痺れを切らしたが作った約束。
2人きりの時は絶対に名前を呼ぶこと。
『お前』なんて呼んだら怒るからね?と、
付き合い始めた時に胸倉を掴まれて脅されたものだ。

『阿伏兎さんってば、絶対にお前って言うんだもん。殴るよ?』
「、最近お前言うことが団長に似てきたな。」
『マジでか。超ショック!』

は大げさにそう言った後、楽しそうにケラケラと笑っていた。
そんなを見て、俺も自然と顔がほころぶ。
その気持ちを腕に込めてをギュッと抱きしめてやれば、
はそれに応えて俺の方に擦り寄ってきた。

『団長帰ってこないかなぁ?こんなトコ見られたら殺されちゃうよね。』

急にが気が付いたように呟いた。
実はウチのあの戦闘バカはに惚れていたりする。
だから名前で呼ぶのは“2人きりの時”という約束なのだ。
普段からを名前で呼んでいると、団長様が嫉妬する。

しかもお仕置きの矛先は俺であったりであったりするから大変だ。
俺だけならばまだいいが、『俺以外の男を見た罰』とか言って
に(本気でないにしろ)襲い掛かる時もあるので、
俺たちは慎重に行動しているし、付き合っていることも秘密にしてある。

「大丈夫だろ。あの人は昨日から3日がかりの任務だ。」
『えー?だって団長、つまんなかったらすぐに帰って来ちゃうよ?』
「今回は殺しの任務だから大丈夫だっつーの。」

そうでなければいつ帰ってくるのか分からないのに
とこんなにまったりとイチャイチャ出来るはずがない。
それを分かっていたのか、も『そっか』と言いながら
丸まって俺に寄りかかってきた。

「それに、バレたとしても俺はお前を離さねぇぞ。
 誘ってきたのがだからな。俺はお仕置きされねぇし。」
『むぅー。阿伏兎さんの意地悪ぅ。』
「意地悪な俺は嫌か?」
『ちょっとだけ。』
「じゃあ嫌いか?」
『…………ううん、好き。』

はにかんで頬を赤らめながら、は下を向いて顔を隠してしまった。

「。」

俺は優しくの名前を呼んだ。
するとは隠していた真っ赤な顔をゆっくりと俺の方に向ける。

「愛してるぜ。」

の赤く染まった顔を覗き込みながら、俺はそう囁いた。
その後のの小さな呟きは、俺の唇によってかき消された。




アタシはその30

(ってことは、俺が500だとは15000ってコトか?) (うっわ、阿伏兎さん最悪。今すっごい萎えた) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ おかぁさぁぁん!!砂糖袋持ってきてぇぇぇ!!!! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2009/05/19 管理人:かほ