きっと私たちは
出逢うべくして出逢ったんでしょうね
なんて
笑顔で言ったあの日の自分を
心の底から恨んだ
【I'm in need of You.】
「大変です!!例の夜兎がこの船に侵入し、
現在甲板にて第5・6・7部隊を相手に暴れております!!!」
全身の血が凍りついたかと思った。
私がお偉いさんとクソ不味いフルコースを食べている時、
急に扉が開いて、2人の兵士が早口にそう告げた。
それを聞いたお偉いさんは一瞬驚いたような顔をしたが、
すぐに口元には笑みが零れ、2人の兵士に命令する。
「そうか。予想通りの奴でまっこと愉快。
分かった。お前達は私が行くまで総動員で奴を弱らせよ。」
「了解致しました!」
2人の兵士はすぐに敬礼し、部屋を後にした。
まだ状況がよく飲み込めていない私は、
しばらくその場で放心状態になっていたが、
すぐにジジイの方を睨み、わなわなと震える両手を抑えながら手短に質問した。
『どういう、ことですか……?』
春雨のジジイは私の顔を真っ直ぐ見つめると、
その歪んだ口元をさらに歪ませ、さも当たり前かのようにこう言った。
「嬢はお気になさらず。ネズミが一匹入り込んだだけです。」
『そのネズミのために私はここに来たんだ!!!!』
私は堪えきれずその場で立ち上がり、そう怒鳴った。
両手で叩いた拍子にテーブルに乗っていた皿が酷い音を立てて床に雪崩落ちた。
沈黙を利用して、私は自分の乱れた息を整える。
視界は霞み、目の前が真っ白になる感覚を味わった。
手は震え、冷や汗が背中を伝う。
頭に血が昇ってどんどん熱くなる体を冷やすかのように
休むことなく酸素を入れ替える私の肺は、私の口内を酷く渇かすだけだった。
『知ってたんですか……?』
「……勿論。私の情報網をナメてもらっては困る。」
『知ってて、私に自分から嫁ぐと言わせるために、あんな条件を……?』
「そうでもしなければ、君が私の元に来るわけがないだろう?」
『…………ッ!!!!』
私の目から大粒の涙が零れ落ちた。
ダマされて悔しいんじゃない、嫁ぐ事になったのが悔しいんじゃない。
自分が大馬鹿だったせいで、結局あの人を苦しめることになってしまった。
あの人を傷つけまいと自らの足でココに来たのに、
それが結果的にあの人を苦しめる道を選んでしまっていたなんて。
考えるだけでさっき食べたフルコースが出てきそうだった。
自分の足は、今どうやって体を支えているんだろうか。
ふらふらする頭で必死に自分を抑え込んでいると、急に頭に激痛が走った。
痛みに短い呻き声をあげている間に、
私は何者かによって両手を後ろで拘束されていた。
あまりにも自分が情けなくて、あまりにも自分が腹立たしくて、
あまりにも膨大な量の感情が頭を駆け巡っていて、
後ろから近づいてくる人の気配に全く気がつかなかった。
「よくやった。さぁ行くぞ。お姫様に面白いものを見せてやろう。」
ジジイは私の背後の人物にそう言うと、部屋を出る為に扉に向かって歩み始めた。
すると、私の背後に居た人物はすぐに私を肩に担ぎこみそれに続く。
自分で歩いているわけではないので比較的マシだが、
それでも先ほど殴られた頭からは血が流れ、痛みが引くことはなかった。
『あぶ、と、さん……。』
まだガンガンと痛む頭を必死に動かして、私はただひたすら悔やんでいた。
こんな事になるんだったら、阿伏兎さんに自分の想いを伝えなければ良かった。
私が阿伏兎さんのことを好きじゃなかったら、
阿伏兎さんが私の気持ちに応えてくれていなかったら、
今頃こんな事にはなっていなかっただろうに。
例え私が阿伏兎さんのことを想っていても、
それを伝えなければ阿伏兎さんを危険な目に遭わせずにすんだのに。
どんどん溢れ出る血と涙が私たちの軌跡を作る。
もう後悔しても仕方がないことだけど、後悔せずには居られない。
もう一度貴方に会うことがこんなにも苦しいことだなんて、
幸せだったあの頃の私には到底考えられなかっただろう。
今はただ願う。
二度と貴方に会えないことを。
二律背反に殺される少女
(私のために戦わないで)
(私のせいで傷つかないで)
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多分この話の中で3番目くらいに哀しい回。(←
ヒロインさんが色々苦悩します。
独りよがりな苦悩ですが、ここら辺が後々大切になるので、
しっかりと心理描写を!と頑張りましたが……どうでしょうか?
※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。
2009/06/07 管理人:かほ