初めに見るお前の顔は
酷く哀しそうな顔で
俺を見た後のお前の顔は
とても嬉しそうな顔で
お前の声援を受けながら俺は
お前を奪った奴をブッ殺す
これ以外にどんな未来を想像出来たと言うんだ?
【I'm in need of You.】
「はぁッ、はぁッ、はっ……!!」
真っ赤に染まった俺の体が肩で呼吸する。
どれほど殺したんだろうか。
周りに転がる死体の山は、まるで団長が暴れた後のようだった。
自分にもまだまだ夜兎の血が流れているんだと、嫌でも認識させられた。
俺が息を整え、死体をまたぎながら前へ進もうとしたら、
急に耳障りな拍手の音が俺の耳に飛び込んできた。
俺が乾いた拍手が聞こえてくる方向を睨みつけると、
そこには見たことのない肥えた男が立っていて、
2階のバルコニーから俺を見下ろしていた。
「素晴らしいよ。流石は宇宙最強の戦闘部族、夜兎族だね。」
嫌にネチっこいその声に、俺は黙って男を睨んでいた。
すると、男は『おぉ、怖い』とわざとらしく肩をすくめる。
「しかしまぁ、私の自慢の部隊を前に、流石の夜兎も満身創痍らしいね。
どうだったね?うちの暗殺部隊は。」
「暗殺ってもんをもう一度教え込んでやった方がいいぜ。
真正面から飛び込んでくる暗殺部隊なんざ、この広い宇宙におたく等だけだ。」
「……減らず口が。」
男は俺の言葉に顔を歪め、そして背後に向かって何か合図をした。
すると男の後ろから立派な鎧を着た大男が現れた。
あれは確か“殺人武者”と呼ばれ恐れられている男だ。
もう絶滅したという天人の生き残りらしいが、
その風貌はまるで昔地球にあったという侍の甲冑を着ているようで、
それゆえに殺人武者と呼ばれているのだと聞いた。
俺は痛む体に鞭を打って傘をかまえた。
あぁ、最悪だ。何で今出てくるんだ。
こんなにボロボロになっちまった後出てくるなんて、卑怯だろーが。
俺が歪む視界で必死に敵を捕らえ、倒れそうな体を支えていた時だった。
殺人武者が肩に担いでいたものを降ろした瞬間、
赤く腫れ上がった俺の両目は、信じられないほど見開かれた。
「ッ!!!!!」
俺の叫び声が宇宙に消えていく。
なぜかの頭からは血が流れていて、意識を失っているようだった。
俺は悲鳴を上げる体で必死に前へ進んだ。
なかなかとの距離が縮まらない事で焦燥感が俺を襲う。
が、目の前に居るのに……!!
「!!起きろ、!!」
力を振り絞って叫んだ俺の声はに届いたらしく、
気を失っていたがゆっくりと目を開けた。
そして俺の姿を確認すると、驚いたような、悲しむような顔をした。
『阿伏兎……さん……!?』
きっとは俺の傷ついた姿に驚いているのだろう。
こんなにボロボロにやられたのは、本当に久々だ。
でも大丈夫だ。お前を奪い返して治療してもらえば、大丈夫。
そんな楽観的な考えを切り裂いたのは、他でもないだった。
『どうして来たんですか!!!帰って下さい!!!!』
突然の出来事に、俺は言葉も出なかった。
ただ呆然とその場に立ち尽くした。
が、何と言った?俺の考えが浅はかだったのか?
きっと喜ぶと、笑顔になると、思っていたのに。
『……ッ!!?逃げて!!!』
の悲痛な叫び声が俺の耳に届くのが早いか、
俺が殺人武者に蹴り飛ばされるのが早いか。
気がついた時には俺の体は痛みを感じなくなっていた。
体に全く力が入らない。目の前だってもう真っ白だ。
『もう止めて下さい!!阿伏兎さんを春雨に帰して!!
アタシがここに来たらあの人には手を出さない約束ですッ!!!!!』
聞こえてくるのは、の怒声。
俺は横たわりながら震えるその声を聞いていた。
の表情はすでにもう見ることは出来ないが、
少なくとも俺が期待している表情ではないのだろうと感じた。
『あの人にこれ以上危害を加えるならばアタシは舌を噛んで死にます!!!!』
初めて聞いたのキンキン声は、とても悲痛な叫び声だった。
声の震えが涙の所為か怒りの所為かも分からない。
ただ確かなことは、このままでは俺はまたから
遠ざけられてしまうということだった。
「ま、待て…………。」
『……ッ!?阿伏兎さん……!?』
俺は最後の力を振り絞って声を出す。
立ち上がろうと試みたが、流石にもう起き上がることは叶わなかった。
「俺は……お前を取り戻すために、ここまで来たんだ……。」
『…………ッ!?やめて下さい!!!!』
が、近づいてくる気配がした。
『誰が帰りたいなんて言いましたか!?自惚れるのもほどほどにして下さい!!
私はもう、戦いばかりの師団なんかに帰りたくないんです!!!!』
のそれが嘘だという確信は、生憎持てなかった。
三半規管をやられて頭が酷く痛んだ所為かもしれない。
まともな思考回路が、を連れ戻す自信が、
すっかり奪われていたのかもしれない。
元々は戦いが嫌いだった。
自分に流れる半分だけの夜兎の血を、いつも憎んでいた。
出来るならば人を殺したくないと、任務のたびに言っていた。
そのから出た言葉だ。本当かもしれない。
『あなたの顔なんて……もう二度と見たくないです!!!』
「……。」
ぼんやりフェードアウトしていく視界の中で、
最後にの泣き顔だけが鮮明に見えた。
だったら、その涙は何なんだ?
(拒絶された俺の意識は自然と奥に沈んでいった)
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どんどん修羅場に……。(涙)
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2009/09/23 管理人:かほ