しょうせつ

居なくなって初めて気づくなんてもんじゃない 居なくなったら俺の物語はそこでおしまいなんだ

 

【I'm in need of You.】

「阿伏兎、お帰り。首と胴体、どっちを撥ねてほしい?」 目覚めた俺の目の前には、云業に抑えられている団長が居た。 「……だん、ちょう……。」 「そう、断腸がいいんだ。分かったよ、ちょっと待ってて。  今すぐに胴体を真っ二つにしてあげるから。」 「団長!それ違うから!頼むから落ち着いてくれ!!」 あの団長の馬鹿力を云業が止められるわけがない。 きっと団長は本気ではないんだろう。 殺気は本物だが、俺を殺すつもりは完全にはないらしい。 俺は痛む体に鞭を打って起き上がった。 頭がジンジンと痛む。触ると、綺麗に包帯が巻いてあった。 体中にも包帯、包帯、包帯……。 どうやら俺はあの後ジジイに春雨に送り返されたらしい。 しかし、俺の記憶が正しければ、俺の体はもっと損傷していたはずだ。 全身の骨が折れたのを覚えている。 ということは、が治療してくれたのだろうか……。 もう二度と会うことのない、俺への手向け……。 「阿伏兎、何でお前だけ帰って来てんの?は?」 俺がぼんやりしていると、団長が腹立たしそうに聞いてきた。 ゆっくりと団長の方を見ると、云業の腕から解放されていた。 仁王立ちに腕組みという、なんとも分かりやすい怒りの表現だ。 俺はもう一度シーツに視線を戻し、ありのままを語った。 「には……帰れと言われたよ。殺しが嫌になったんだと。  俺のことはもう嫌いだから……自惚れるなって、怒鳴られた。」 「は?もっかい寝る?」 「本当だ。」 とことん不機嫌な団長は、いつもの笑顔を作り忘れていた。 整った顔をガラ悪く歪めながら、喧嘩腰で俺に質問する。 「がお前に来るなって言ったんだ。だから帰ってきたの?」 「そーだよ。」 「は殺しが嫌いで、師団も嫌いで、お前も嫌いだって?」 「あぁ、そうだ。」 「に嫌われて、自惚れんなって言われて、  ショックでもう連れ戻しに行かないつもりなんだ。」 「アンタに何が分かる!!」 団長の言葉に、俺は思わず声を荒げた。 なんだって二度も腹立たしい思いをしなければいけないんだ。 に来るなと言われたら、そこで終わりだ。 俺にはもうを取り返す術も勇気もない。 「…………もういい。云業。」 「え、俺!?」 「お前が何とかしてよ、このデクの棒をさ。」 団長は心底呆れた様子で部屋を出て行った。 取り残された云業はしばらく戸惑っていたが、 やがてため息をついてベッドの方へ近づいてきた。 「阿伏兎、後で団長に謝っとけよ。」 「何で俺が。」 「持ってるお前は、持ってない団長に失礼なことをしたんだよ。」 「持ってる?何をだ?」 「ちゃんの心をだよ。」 云業はこっ恥ずかしいことを真顔で言ってのけた。 俺はその言葉に耐え切れず、云業から目を逸らしてしまった。 「まずはお前に自信を持たせることからだな。  ちゃんは確かに戦いが嫌いだ。  でも、それならどうして今までこの第七師団に居れたと思う?」 云業はその図体に似合わず、優しい口調でそう言った。 「あの団長のセクハラに、どうして今まで堪えられたと思う?  身の危険を感じながらも、どうして安心して居れたと思う?  誰のおかげで笑っていたと思う?誰の為にココに居たと思う?」 云業は答えそうにもない俺を気遣ってか、一人で淡々と喋っている。 そして大きく息を吸い、真剣なまなざしで俺に言った。 「全部、お前のためだ。」 そういえば、そんな事を発つ前に団長にも言われたなぁ。 忘れていたわけじゃない。ただ、自信が持てなかっただけだ。 に面と向かってあんなことを言われたことがなかったから、 発つ前に背負っていたものを、全て落としてしまったんだ。 「思い出してみろ、良いところだけをな。  ちゃんがお前を想って言ったことを全部。」 云業の言葉に、俺は目を伏せて考えを巡らせた。 が俺を想って言ったこと、全部……。 あぁ、そうだ。 の言葉の中に俺を想っていない言葉なんて、今考えてみれば1つもなかった。 いつも自分を犠牲にして、俺のことばっかり考えて……。 今度こそ俺が守ると決めたのに。 お前を連れ戻すと決めていたのに。 俺はとことん駄目な奴だなァ……中途半端にお前を想ってる。 完全にお前に惚れているから、お前の意思を尊重しようとして、 中途半端な男に成り下がっちまったんだなぁ、きっと。 団長のことを初めて羨ましいと思った。 きっとあの人は突っ走るだろう。 が何を言ったとしても。 「所詮俺たち夜兎も、人間だなぁ。」 俺の表情の変化を感じ取ったのか、云業が笑いながら俺にそう言った。 確かにそうだ。 メンタル面ではそこら辺の人間と何も変わらねぇんだ。 「…………悪いな云業。団長には謝れそうもねぇや。」 「いや、それでいいんだ。今度は俺たちも行く。  お前が一人で行くと言っても、団長は聞いてくれないぞ。」 「そりゃとんだ迷惑だ。」 ベッドから起き上がると、おかしいほどに体が動いた。 病は気からとはよく言ったもんだ。

バカは死んでも治らない

(どうせバカなら、とことんバカになろうじゃないか) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 第七師団がいい人だらけだ家族だ! って言うか私の中での云業のイメージが良すぎる。何故だ(笑) ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2009/09/23 管理人:かほ