しょうせつ

最後の最後で こんなにも大好きだって気づくんだったら ずっとこの先も一緒に居たいって 今更気づくんだったら もっともっと今までを 大切にしておけばよかった

 

【I'm in need of You.】

朝、鐘の音で目が覚めた。 春雨でよく聞いた、起床の鐘。 でも、春雨の鐘とは少し音色が違うみたいだった。 春雨の鐘は昔滅ぼしたどこかの国から奪ってきた戦利品。 ボロボロだったけど、音色だけは綺麗で、私はあの音が大好きだった。 阿伏兎さんは安眠妨害だと毎朝ふて腐れていたが、 音色だけは綺麗だと言っていたような気がする。 そこまで考えて、私はハッと我に返った。 『…………もう、居ないんだ。』 昨夜で枯れてしまったらしい涙は流れなかったが、 それでも胸がチクンと痛んだ。 出来ることなら、謝りたい。 本当に、それだけでいいから……。 そんな思いが胸を締め付けた。 「嬢、入るよ。」 忌々しい声と共に扉をノックする音が聞こえた。 私が声の方を見ると、返事をする前に扉が開かれ、 見たくもなかった顔が薄汚い笑顔を浮かべて入ってきた。 「おはよう、嬢。昨晩は良く眠れたかね?」 『……おかげさまで。』 私は皮肉を込めてそう言い、憎しみの限りジイイを睨みつけてやった。 「素晴らしい憎悪の念。いやいや、結構。  私は反抗する人間を権力でねじ伏せるのが大好きでね……。」 言いながら、ジジイはゆっくりとこちらに近づいてきた。 どこまで下衆野郎なんだ、このジイイ。 しばらく私は憎しみと軽蔑の眼差しでジイイを睨み続けていたが、 それが奴にとっては快感になってしまうのだと気づき、すぐに目を逸らした。 「安心したまえ。昨日の男は無事に春雨で保護されたそうだ。  意識もハッキリしているし、明日には普段どおり動けるとの事だよ。」 ジイイの言葉に、私は少しだけ安心した。 良かった……阿伏兎さんは無事なんだ。 喜ぶ気持ちと悲しい気持ちが入り混じって気持ちが悪かったが、 とりあえずはこれでいいんだと自分に言い聞かせた。 「婚姻の儀はいつにしようかねぇ。  嬢にピッタリのウェディングドレスを見つけたんだ。  その道で有名な星で作らせているところだよ。  嬢の故郷では結婚式の習慣はあったかね?」 『故郷を出たのは随分昔の事なので、あまり覚えていません……。』 「そうかそうか。いや、済まなかったね。  大丈夫だ。きっと嬢も気に入ると思うよ。」 窓からキラキラと輝く星を眺めながら、ジジイは嬉しそうに話した。 私はその横顔をぼんやりと眺めつつ、 このジジイは本当に私に惚れているんだと思った。 “愛の形は人それぞれ” ふいにその言葉が頭によぎった。 コイツの愛は、力ずくでも意中の相手を手に入れる愛なんだ。 私はただ、そんな男に惚れられた。 ただ……それだけのこと。

色というけれど

(私の愛が“相手を想い、想い続ける愛”ならば) (あなたの愛は、どんな愛なんですか?) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ シリアス過ぎて私が泣きそうだ……。 次回からはちょっとは楽しい感じになると思います。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2009/09/23 管理人:かほ