あの日の自分は
選択を誤ってしまったけれど
あの日の自分に
本当に大切なものは何だと尋ねても
きっと今の自分と
同じ答えなんだろう
【I'm in need of You.】
「は、俺の覚悟を試してたんだなぁ……。」
船の甲板の壁に座りながら、俺はぼんやりとそう呟いた。
特に誰に言ったつもりでもなかったが、
近くにいた云業が俺の呟きに律儀に反応を示してくれた。
「何の覚悟だ?」
「いや……あの日のことだ。」
云業はそれで全てを悟ってくれたらしく、
のっそりと俺の隣まで歩いてきて、そのままドシンと腰掛けた。
そうして、2人でぼんやりと星を眺めていた。
満天に輝く無数の星は、きらきらと光り輝いていた。
「傷はもういいのか?」
云業が目線は星にやったままで問いかけてきた。
「あぁ……。明日には万全だ。これも、のおかげだな。」
「でも、ちゃんはお前に戻ってきてもらうために
治したわけじゃないんだよな。」
「あぁ…………そうだな。」
俺は苦笑してそう言った。
「ちゃんは驚くだろうな。」
「いや、悲しむんじゃねぇか?今度こそ愛想を尽かされるかもなぁ。」
「ははは。自分からそんなこと言えるなら、もう大丈夫だな。」
云業は軽く笑って、そして安心したようにそう言った。
俺は予想外の反応に一瞬驚いたが、小さく微笑み、もう一度星を眺めた。
「は、俺が春雨を捨ててでも自分を取ってくれる事を願ってた。
そして試した。でも……俺はその期待を裏切っちまった。」
「阿伏兎……。」
近くにもたくさん綺麗な星はあるというのに、
俺は遥か遠くの星をぼんやりと眺めていた。
星を見ているという意識はない。ただ、眺めていた。
「その上、今度は来るなと言われても助けに行く始末だ。
いくらでも、今度こそ本気で嫌われちまうかもなぁ。」
「そんなことになったら、団長が喜ぶな。」
「そりゃ気にくわねぇなぁ。」
俺と云業は目線を星に向けたまま、笑いあった。
云業は典型的な夜兎族みたいなの外見のくせに、中身は繊細だ。
いや、繊細といったら誤解があるかもしれない。
珍しくデリカシーや常識というものをわきまえているだけだ。
俺も昔はやんちゃだったが、今ではすっかりそこら辺のオッサンだ。
だから初めて第七師団に配属された時、一番最初にウマが合った。
今ではこんな風に話す間柄……親友みたいなもんだ。
も、云業にはかなり懐いていた。
ずいぶん前に師団の団員数名と俺と云業とで夕飯を食べたとき、
が急に云業をまるでお母さんみたいだと言いだしたので、
あまりの似合わなさにその場にいた団員と共に爆笑したものだ。
だが、母親ではないにしろ、それに近い包容力はあると、最近思う。
ゴツい外見とガサツな喋り方と低い声、
そして血の気が多い性格で暴れん坊の云業を、だ。
本当に、人は見かけによらないもので、
深く付き合わなければ、その人物の心の奥なんて見えやしない。
「嫌われてもいいんだ……。」
「…………?阿伏兎?」
「例えに嫌われても、アイツの不幸はぶっ壊す。俺はもう決めたんだ。
そして、が帰ってきたら、もう一度最初からやり直したいと思ってる。」
そう、やり直すんだ。信頼関係を築き上げるところから。
愛だの恋だの言う資格を剥奪されてしまっても、
は今の俺の全てだから、もう一度組み立てなおすんだ。
が全てを許してくれるという期待はしない。
だが、もう一度の笑顔を見られるように、努力はする。
もしかしたら、この戦いで春雨を追い出されるかもしれない。
相手は春雨のお偉いさんだ。100%罰は受けるだろう。
あのジジイは春雨一の暗殺部隊を任されているくらいだから、
もしかしたら処刑されるかもしれない。
でも、俺は最初から春雨に縋ってなんかいないんだ。
ただここに落ち着くことが一番得策であり、一番楽だっただけで、
春雨で名誉を得ようとも、名を上げようとも、宇宙を支配しようとも、
ましてや一生尽くそうとも思ってはいない。
のためならばいつだって捨てることは出来る。
それなのに、あの時の俺は何を考えて居たんだが……。
自分の情けなさに苦笑すれば、急な行動に云業が少し驚いた。
「どうした?」
「いや、ちょっと考え事をしててな。」
「おーい。阿伏兎ー、云業ー。」
突然の呼びかけに俺たちが後ろを振り向くと、
そこには一枚の紙切れを持った団長の姿があった。
「見てよコレ、梅蘭(めいらん)が情報を手に入れてくれたんだ。」
「情報?ってかアンタ梅蘭さん使ったのか?」
「使ったなんて人聞きの悪い。やってくれたんだよ。」
団長がそう言いながら見せた紙には、
あのジイイを乗せた船のスケジュールみたいなものが書いてあった。
「明日あの船はこの星に向かってこのルートを進む予定だ。
その時にこっちのルートから襲い掛かれば最短ルート。」
「へぇ……さすがは第六師団。情報網が恐ろしいねぇ。」
「でも、これであとは戦うだけだな。」
云業の言葉に俺は決意を瞳に込めた。
団長は相変わらず向こうの暗殺部隊と戦えることが嬉しいらしく、
一番強い奴は俺が殺るからね、なんて忠告してきやがった。
言われんでもアンタに譲りますよ、あんな化け物集団。
第六師団の情報のおかげで出航が明日と決まったところで、
俺たちは今日はさっさと自室で休むことになった。
いよいよ明日、またに会えるんだ。
もう何を言われても簡単には傷つかねぇぞ。
今度こそ、この信念を曲げないようにしねぇとな。
変わらない想い
(俺の願いはただ一つ)
(どんな形でもいい、お前が幸せになることだ)
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やっとクライマックスに向けて希望に満ち溢れてる感じになりました。
※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。
2009/09/29 管理人:かほ