お前が買ってきた種を
俺がせっせと蒔いた
それが今になって花を咲かせ
俺たちの仲を取り持ってくれるのだ
【I'm in need of You.】
「ったく……アンタは俺の仕事を何倍に膨らませれば気が済むんですか。」
俺の隣で頭を抱えた阿伏兎が大きな大きなため息をついた。
団長が用意したやけに大きな船は、
今やすっかりその体を人で埋め尽くし、宇宙を全速力で駆けている。
この船は春雨内でも1、2を争う速さの船なので、
相手の船にはすぐに追いつくと思うが、それでも春雨に帰るのは早くて3日後。
それだけの期間、勝手にこんなに大勢の団員を外に連れ出したんだ。
元老からのおしかりは十中八九免れない。
しかも喧嘩を売る相手が売る相手だ。処分も覚悟しなければ。
「コイツ等は自分の意思でついて来たんだよ?
俺たちの知った事じゃないよ。自分でケツを拭けばいいんだ。」
団長は相変わらずの調子でそう言い放った。
「船を用意したのはアンタでしょーが。」
「ううん。第六師団の下っ端に頼んだんだ。」
「…………。」
阿伏兎は頭を抱えたきり、何も言わなくなってしまった。
「それにしても、こんなにたくさんの団員を連れてきちゃって。
今頃本部はてんてこまいねー。あぶちゃん、また怒られちゃうわよ?」
急に聞きなれた声が背後から聞こえたので、
俺たち3人は一斉にその声の主を見た。
そして、俺と阿伏兎は開いた口が塞がらなかった。
「梅蘭じゃないか。どうしたの?サボり?」
冷や汗をかく俺と阿伏兎の様子とは打って変わって、
団長はいつもの笑顔でひらひらと手を振った。
「アンタと一緒にしないで頂戴な。
あたしはアンタと違って、ちゃんとお仕事やる奴らも残してきてるわよ。」
「俺の団は素直に命令を聞くような奴らじゃないんだ。」
「んふふ、そうね。団長がアナタじゃねぇ。」
「喧嘩売ってるの?」
団長が今にこやかに話している人物は、
春雨第六師団師団長・梅蘭(めいらん)さんだ。
長身の綺麗な男性で、その風貌に合った柔らかい口調で喋り、
春雨の師団の中で唯一団員たちと信頼関係が築かれている師団長である。
第六師団は春雨内で唯一謎に包まれた部隊であり、
噂では暗殺部隊と関わりがあるらしいが、定かではない。
この人が戦っている所は直接見たことはないが、
うちの団長が一目置いていることから、相当強いと思われる。
現に今だって、笑顔の団長にさらに笑顔で対応している。
しかし、本人が飄々とした性格なので実際のところは分からない。
とにかく、謎に包まれた人物だ。
「め、梅蘭さん…………アンタ、何でここに……。」
俺と同じく大口を開けていた阿伏兎が、やっと搾り出した声でそう言った。
「あら、あたしがここに居ちゃダメ?」
「ダメに決まってんだろーが!!
五百歩譲って団員たちはともかく、師団長のアンタが何で来てんだ!!」
「だって来たかったんだもん♪」
「もんじゃねぇ!!!!」
青ざめた阿伏兎が梅蘭さんに必死で突っ込んでいた。
俺の顔もきっと同じくらい青ざめているんだろうと思う。
これは大変なことになった。
いくらなんでも、師団長が2人も無断で本部を空けるなんて、大問題だ。
ウチは団長の性格故に多少の勝手はいつものことだが、
第六師団まで巻き込んだとなると……。
「イヤねぇ、あぶちゃん。あたしがアンタ達に迷惑かけると思ってんの?
安心しなさいな。ウチの団員も、他の団員も、あたしが予約済みよ♪」
「…………?どういうことだ?」
俺と阿伏兎の心配を察してか、梅蘭さんはやけに明るい口調でそう言った。
その言葉に、阿伏兎は眉間にしわを寄せて尋ねる。
「んふふ。元老にお願いしてね、
他の師団の団員もあたしの任務に連れて行く許可を得たのよ♪」
「団員って、ここに来てるのみんな?」
「そうよ。神威ちゃん達は別だけどね。」
「で、その任務ってのは?」
阿伏兎がまだ少し疑っている様子で続きを促した。
「あぁ、任務って言うか、視察?
実はあのジーさん、元老から目を付けられていてね。」
梅蘭さんはそう言いながら甲板の壁にひょいと腰掛け、
そして先ほどの様子とは打って変わって真剣な面持ちで話し続けた。
「あのジーさん、“転生郷”を横流ししてるかもしれないのよ。」
「転生郷?」
「あぁ、春雨の下っ端が扱ってる麻薬の事ね。
まだ改良中なんだけど、転生郷の派生品で通称“輪廻”と呼ばれる
一番希少で高価なやつを横流ししてるらしいの。
アイツなら権力振りかざしてやりそうだし、
向こうの経済状況も最近こっちの採算と合わないらしいから。」
そこまで言って、梅蘭さんはハァとため息をついた。
「それに……あたし自身、アイツの暗殺部隊は嫌いなのよねぇ。
力ばかり大きくして、技術は全くないんだもの。暗殺部隊の面汚しだわ。」
「それは俺も戦ってみて思ったが……
でも、アンタがこんな所で暗殺部隊の名を口にしてもいいのか?」
「あら、話をするくらいいいじゃない?
あたしは所詮、しがない一師団の師団長だもの。」
阿伏兎の言葉に、梅蘭さんがパッと真意が掴めない笑顔に戻った。
ニコニコと笑い続ける梅蘭さんに、阿伏兎はやれやれと肩をすくめた。
どうやら、これ以上詮索しないことを決めたらしい。
「そろそろ世間話は終わりにして、準備しなよ。」
団長がやけに嬉しそうな声でそう言った。
その声に俺たちは船の遥か前方を確認する。
予想通り、そこには禍々しい戦艦が宇宙を彷徨っていた。
地獄からの再スタート
(理由は分からない。なぜ今回は希望に満ちているのか)
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いよいよ物語もクライマックス!って時に名前変換無しとか。
※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。
2009/10/11 管理人:かほ