しょうせつ

戦いは始まってしまった それぞれの思いを胸に たった一つの願いを胸に それを否定することなど 神ですら出来ないというのに

 

【I'm in need of You.】

「くそッ……!!!!!野郎を……!!!」 ジイイに連れて行かれるちゃんを横目に、阿伏兎が悔しそうな声を出した。 あのジイイの隣に居たやつ、きっとアイツは噂に聞く“殺人武者”だろう。 春雨最強の暗殺部隊と謳われるこの部隊の中でも 頭一つ抜きん出ている程の強さだとか。 「阿伏兎、行ってきなよ。」 俺が敵のみぞおちに一発入れ、阿伏兎が相手の顎を蹴り飛ばしたのと同時に、 団長の信じられない言葉が俺たちの耳に入ってきた。 「団長……?」 「あのジイイ、本気でに惚れてるから殺しはしないよ。」 そう言いながら団長は阿伏兎と背中合わせになった。 「ここは俺と云業で十分だよ。お前が居ると取り分が減っちゃうだろ?」 「団長……。」 阿伏兎は何か言いたそうな顔をしたが、すぐに頷いてちゃんの後を追った。 それを追いかけようと走り出した部隊の野郎たちには 俺と団長の重い拳をお見舞いしてやった。 「帰ったらうんとイビってやるからね、阿伏兎。」 俺は団長の言葉に小さく微笑んで、 まだまだ倒れてくれそうにない集団に殺意を向けた。 団長の言葉に、俺はとジジイを追いかける。 一気に階段を駆け上がり、難なく操縦室の屋根の上に辿りついた。 操縦室と言っても、この大砲やら何やらを一式装備した巨大な戦艦のものだ。 普通の船の甲板と何ら変わりないくらいデカかった。 「なッ……!?貴様……!!」 ここから高みの見物と決め込んでいたらしいジジイは、 予想外の俺の登場に脂汗を浮かべ、狼狽えていた。 そして、が泣きそうな顔で俺を見つめてくる。 『阿伏兎さん……どうして……。』 そう言うの隣には、例の殺人武者が聳え立っていた。 このジジイ、やっぱり最後の最後に自分の近くに一番強い奴を置きやがった。 梅蘭さんの話によると、このジジイ自体には大した力はないらしい。 しかし、人を使う能力と薄汚さは一級品で、 それ故この春雨で今の地位まで上り詰めたということだ。 と言う事は、殺人武者が唯一の問題となるわけか……。 「俺ぁつくづく幸せ者だ。部下思いのわがまま上司が居て、  同僚思いの頼れる仲間が居て、俺想いの頑固で可愛い女も居る。」 『もう二度と……顔も見たくないって、言ったのに……。』 「あぁ、言われたなぁ。」 『あんなにボロボロになったのに……またっ……。』 「何だ、心配してくれてんのか?」 『大ッ嫌いだって、言ったのに!!!!!』 の悲痛な叫びは、俺だけじゃなく甲板にまで届いた。 この甲板を一望出来る場所だから感じ取れた。 今、の言葉に全員の意志が揺らいでしまった事を。 「……俺ァしつけーんだよ。  どーせ嫌われんなら、とことん嫌われる方が吹っ切れると思ってなぁ。」 俺が傘を構えると、殺人武者が俺の殺気を感じ取って前へ出て来た。 コイツと対峙するのは今回で二度目だ。 一度目はボロ負けしちまったが、ありゃノーカンだ。 いくらなんでも俺が傷つきすぎていた。 しかし、今回は春雨の奴等のおかげでピンピンしている。 今度こそ、全てに決着が付けられそうだと思った。 「それに……お前の泣いた顔が最後なんて、死んでもごめんだ。」 『……ッ!?』 俺は言うと同時に殺人武者の懐に走りこんだ。 殺人武者の一太刀をかわし、ガラ空きになった横腹に傘をお見舞いする。 手応えはあったものの、奴はすぐに体勢を立て直し、 力いっぱい俺に刀を振り下ろしてきた。 『阿伏兎さん!!!!』 俺は奴の攻撃を間一髪でかわし、すぐさま距離を取った。 額から流れる血で左目が覆われる。 『だから言ったのに……!!!もうアタシ嫌なんです!!!!  貴方が傷つくところを見るのは、貴方が死に近づいていくのを見るのはッ!!!』 泣きながら言うの姿を視界に入れながら、俺は血を拭って両目を開いた。 今は殺人武者に神経を集中させている為甲板の様子を確認する事は出来なかったが、 きっとみんな押され気味なんだろうと思う。 お姫様がこの状態じゃ、士気も何もありゃしねぇ。 「……だったら、尚更俺の傍に居ろ。」 『…………ッ!?』 予想外の言葉に、は両目を見開いて俺を見た。 「俺が傷ついた時、手当て出来なくていいのか?  俺が死んでいく時、見届けられねぇで後悔しねぇのか、お前はッ!!!」 『…………ッ!!!!』 「俺は後悔する!お前が……が隣に居ねぇのに死ぬのはごめんだ!!!」 俺がそう叫んで前に踏む込むと、殺人武者が俺に襲い掛かってきた。 どうやら、コイツだけは相当の手練のようだ。 俺が殺気を放てば反応し、殺気を殺しても微動だにすれば襲って来る。 このままじゃ、今回も気持ちで押し負けちまうかもしれない。 それでも、俺は最後の最後までお前に本心を告げる覚悟でここに来たんだ。 「お前以外、他に何も要らねぇんだよ、俺はぁッ!!!!」 『……ッ!!!阿伏兎さん!!!!』 俺の左腕から血飛沫がとぶのも、殺人武者の鎧が砕けるのも、 そしてが俺の名前を叫んだのも、ほぼ同時だった。 俺と奴はお互いにすぐさま距離を取り、肩で息をして睨み合った。 『阿伏兎さんの、バカッ……!!死んだら……許しませんからね……!』 俺の荒い息遣いを掻き消して、の震える声が聞こえた。 「……ククク。あぁ……バカで結構。」 その言葉が、欲しかったんだ。

“この戦いが終わったら”

(この言葉が希望に満ち溢れている言葉だったなんて、今まで気づきやしなかった) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ こんな男の人が居ったら惚れてまうわ!! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2009/10/31 管理人:かほ