やっと出逢った2つの心
宇宙を縦横無尽に駆け抜けて
決して生温い道ではないけれど
戦いも争いも絶えない汚れた道だけれど
決して普通の道ではないけれど
その道はどこまでも暖かく、幸せで
【I'm in need of You.】
俺は久しぶりにを力いっぱい抱きしめて、
大泣きするを子供をあやすように落ち着かせていた。
「おいおい、もう泣くんじゃねーよ。」
『ふえぇぇっ……だって、だってぇ……!!』
「嬉し泣きは結構だが、そろそろ泣き止んでくれよ。
甲板ではまだ戦ってる奴等が居るんだ。お前も見ただろ?」
『ぐすっ、でも、でもっ……!!
こんなに幸せになったの初めてで、すっごくすっごく嬉しくて……!!』
「あのなぁ……。」
俺はまだまだ泣き止みそうにないの背中をポンポン叩いてやる。
甲板に顔を向けると、の言葉で士気が上がった所為で
もうほとんどの敵がぶっ倒れていたが、
その代わりこちらの団員も相当な数倒れこんでいた。
俺の理想としては、早くに泣き止んでもらい、
アイツ等の怪我の治療に回ってほしいんだがなぁ……。
「…………、今が一番幸せか?」
『ふぇっ……?ぐすっ、幸せですけど?』
「今以上の幸せもあるんだって、知ってたか?」
『はぇっ?』
俺の意味深長な言葉に、ようやくも泣き止んでくれた。
敵の戦艦の上で、しかもこんな状況でこれを言うのは少々気が引けるが、
が俺の言葉の続きを相当期待しているんだから仕方がない。
俺は息を整え、恥ずかしさでから顔を背けながら言葉を紡ぐ。
「お、お前がもし良ければでいいんだが……っ、その……。
俺と……これからもずっと……一緒に居てくれないか……?」
『へ?それって……。』
俺は意を決しての顔を見た。
は俺の言葉の続きを予想出来ているんだろう。
涙で濡れた顔を一丁前に真っ赤にして俺を見ている。
俺は緊張で震える手での肩を掴んだ。
「……、俺と、」
「阿伏兎ー!!生きてるかー!?」
「あれれ、あの強い奴倒しちゃったの?つまんないの。」
いい雰囲気が突如襲ってきた台風によって吹き飛ばされた。
いや、いいんだ。別に悪気があってやったわけじゃないんだろう。
云業にも団長にも、今回の件に関してはとても感謝している。
しかし、幾らなんでも今のはタイミングが良すぎるだろ……。
『う、云業さんに団長!ボロボロじゃないですか!』
「あぁ、ここの奴等以外と骨があってな。」
「なかなか楽しかったよ。結局死んじゃったけど。」
『2人ともここに座って下さい!すぐに傷塞ぎますから!』
ボロボロの2人を見て、は心配そうに駆け寄った。
怪我人を見てオロオロと心配するのはの性格だ。
俺よりも何よりも、まずは怪我人。
それは大いにいい事だと思うのだが……それでもやはりどこか嫉妬してしまう。
俺は2人の治療をしているを少し睨み付け、大きくため息をついた。
「、甲板の奴等も後で応急処置してやれよ。」
『へ?あっ、そうですね、分かりました!』
「おい、阿伏兎。どこへ行くんだ?」
「下の奴等の助太刀だよ。お前等もさっさと降りて来いよ。」
『あ、阿伏兎さん!』
が俺を呼ぶ声がしたが、俺は構わず甲板に降りて行った。
「何だアイツ……。
俺達、甲板の声のせいで上の状況が全然分からなかったんだが、
アイツちゃんに何か言おうとしてなかったか?」
甲板に下りて行ってしまった阿伏兎の影を見つめ続けるちゃんに、
俺はなんとなしにそう訪ねてみた。
すると、ちゃんは顔を真っ赤にし、予想以上の反応を示した。
『あのっ、えぇっと、それは……!!』
「、その反応あからさま過ぎるよ。何?結婚しようとでも言われたの?」
『うわあぁ!!いやいやまさかそんな事!!!!』
「ちゃん、言葉とは裏腹に顔が真っ赤だぞ……。」
これで阿伏兎の機嫌が悪い理由がはっきりした。
阿伏兎にとっては人生の一大告白だったのに、俺達が邪魔してしまったんだ。
俺は心の中で土下座した。本当に悪い、阿伏兎。
「で?は結婚するの?阿伏兎と。」
予想に反して、団長は特に咎める様子もなくちゃんに尋ねた。
俺はてっきり猛反対するかと思ったが、
どうやら阿伏兎にちゃんをやると言ったのは本気だったらしい。
『ふえぇ!?いやっ、あのっ、そのぉ……。』
ちゃんは散々真っ赤になった後、急に落ち込んだように顔を伏せた。
『けっ、結婚とかって、アタシ、よく分かんなくて……。』
そう言って、ちゃんは本格的に落ち込んでしまった。
無理もない。幼い頃に阿伏兎に拾われてからずっと、
男ばかりで華やいだ話題が何もない春雨で育ってきたのだから。
急に結婚だの何だの言われても、期待はあっても実感はないのだろう。
「そんなの簡単だよ。結婚っていうのは、ヤってもいいよって事さ。」
『へ!?』
「だっ、団長!?」
思わぬ団長の言葉に、俺とちゃんは度肝を抜かれた。
いやいや団長、それはちょっとあからさますぎだ……。
「は阿伏兎とずっと一緒に居るって約束したんだろ?
なら、それでいいんだよ。結婚っていうのは、ずっと一緒に居る事だ。」
『だ、団長……。』
「ほら行くよ。梅蘭に変な借り作りたくないし。」
団長の言葉に、ちゃんの不安は完全に吹っ切れたようだった。
この人はどこまでが本気でどこまでが冗談なのかよく分からないが、
少なくとも、やっぱり根はいい人だと思う。
言うだけ言ってさっさと甲板に降りて行ってしまった団長を、
ちゃんが笑顔で追いかける。
その様子に、俺はやっと日常が戻ってきたような気がした。
変わり続ける日常
(変わらないのは俺達で、変わり続けるのもまた俺達なんだ)
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次回で一応完結です。多分私が一番寂しい。
※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。
2009/10/31 管理人:かほ