不思議な力を持った少女は
荒んだ心を見事に変えて
戦いばかりの男に変化をもたらし
裏社会で生きる人間に希望を与え
そして
一人の男に恋をした
【I'm in need of You.】
「あらちゃん、お久しぶり〜♪」
『梅蘭さん!この度は本当にありがとうございます!!』
俺達が甲板に降りて行くと、すでに阿伏兎が敵を全滅させていた。
ちゃんはその様子を見て一瞬驚いたような顔をしたが、
甲板の壁にもたれかかっている梅蘭さんに気がつくと、
すぐに梅蘭さんに駆け寄って行き、深々と頭を下げた。
「んふふ、いいのよ別に。あたしも自分の任務で来たようなもんだし。
ウチの団員にこの船を調べさせたら、やっぱり“輪廻”がどっさり出てきたわ。
これで胸を張って壊滅を報告できるわねv」
『へ?あの、どういう事ですか……?』
梅蘭さんの言葉にちゃんが小首をかしげる。
その様子を見て、梅蘭さんは優しく笑いかけた。
「帰りの船でたっぷり教えてあげるから、
今はそこら辺に転がってる奴等の治療をしてやってくれる?」
『あっ、はい!そうですね!分かりました!!』
梅蘭さんに言われ、ちゃんは慌てて倒れている団員の治療にあたる。
やっぱりこの人は人を扱うのが相当上手い。
団長と同じ雰囲気を持つ人だけど、
性格や能力は全く違うなぁと、当たり前のことを考えた。
『ふぅ……。これくらい、かな……。』
私はきっと最後の一人であろう団員の治療を終え、辺りを見回した。
周りに倒れているのは全員ジジイの暗殺部隊だ。
奇跡的に、春雨の団員に死亡者は居なかった。
きっと梅蘭さんが上手く指揮を執ったのだと思う。
あの人のリーダーシップはすば抜けているものがあるから。
「お疲れさんだな。」
『あ、阿伏兎さん!』
私が一息ついていると、後ろから阿伏兎さんが話しかけてきた。
その声に私はバッと後ろを振り向いて阿伏兎さんの顔を見たが、
先ほどのことがあったのですぐに恥ずかしくなり顔を背けてしまった。
「えぇっと、なんだ、その……。」
阿伏兎さんもさっきの事を思い出しているのか、
ぎこちなく話を続けようとするが、言葉がすんなり出て来ないようだった。
「め、梅蘭さんが、そろそろ戻るってよ。
この船も一緒に持っていくそうだ。お前はどっちに乗る?」
『アタシは……阿伏兎さんと一緒なら、どっちでも。』
「そっ…………そうか。」
私の言葉に、またしても沈黙がやって来てしまった。
私も阿伏兎さんも、お互い顔を合わせられず、妙に緊張してしまっている。
こんなんでこの先大丈夫なのかと、心の中で不安になった。
「団員達は全員向こうに乗るみたいだ。俺達も、戻るか。」
『そ、そうですね……。』
私達は言って、そのまま歩き出そうとした。
その瞬間、辺りが暗闇に包まれる。
『こ、これは……!!』
私達は全員、宇宙を流れるオーロラに心を奪われた。
いつか見たあのオーロラ彗星だ。
満身創痍で地面に転がりながら阿伏兎さんと一緒に見た、オーロラ彗星。
今回もまた、私達が戦い終わって満身創痍な所にやって来て、
その美しい姿と澄んだ空気を私達の元へと運んできた。
私はその綺麗な姿と運命的な出会いにぼんやりと見とれてしまった。
「あの時は確か、お前の方が綺麗だぜって言ったんだ。」
『え……?』
突然阿伏兎さんがそんな事を言うもんだから、
私はちょっと驚いて阿伏兎さんの方を見る。
すると阿伏兎さんは私の肩に手をかけ、そのまま強引に自分の方に引き寄せた。
『わっ!?ちょ、阿伏兎さん!?』
「今回は何て言えばいいかねぇ……。おっと、そうだった。」
阿伏兎さんはわざとらしくそう言うと、驚く私を見下ろして、
とってもとっても優しい顔で私に微笑みかけてくれた。
「俺と一緒になってくれるか、。」
阿伏兎さんのその笑顔は、オーロラなんかよりも遥かに素敵で、
私は顔を真っ赤にしてその笑顔に見とれていた。
今すぐにでも顔を逸らしたいほど苦しいのに、
その笑顔からどうしても目を逸らす事が出来なかった。
『…………喜んで。』
結婚という言葉よりも、一緒になるという言葉の方がしっくり来た。
私は一生この人の隣で生きていけるんだ。
それがあまりにも嬉しくて、思わず涙がこぼれた。
「あぁ〜!あぶちゃんがちゃんを泣かしたわぁ〜!」
「いーけないんだー!」
「見せ付けてくれるじゃねぇっすか阿伏兎さーん!!」
梅蘭さんの言葉を皮切りに、ちょっと離れた所で
一部始終を見ていたみんなが急にガヤガヤと騒ぎ始めた。
見られていた事に全く気づかなかった私達は、
突然物凄く恥ずかしくなり、顔を真っ赤にしてパッと離れる。
それでも、皆の祝福という名の冷やかしは収まらなかった。
「テッ、テメェ等なに見てんだ!!!ぶっ殺すぞ!!!」
「やだぁ、あぶちゃん怖〜い♪」
「照れるな照れるな。顔が真っ赤だぞ、阿伏兎。」
「うっ、うるせぇ!!!!テメェ等全員そこに並べぇぇ!!!」
まるで子供みたいにそう喚きながら、阿伏兎さんは皆の元へ走って行ってしまった。
阿伏兎さんは怒って皆を蹴り倒していたが、それでもみんな笑顔だった。
私もつられて笑顔になり、阿伏兎さんの後を追ってみんなの所へと戻る。
ここに来ると決めた時、誰がこんな結末を想像していただろうか。
私が想像していたよりももっと幸せな日常が、今、私の目の前に広がっていた。
END
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一応このお話は完結です。あと一個はおまけ。
とりあえず、阿伏兎さん大好き!
おまけは年明けに公開出来たらいいな!
※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。
2009/12/26 管理人:かほ