俺は今、重要な選択肢を目の前にして人生で一番と言っていいほど悩んでいる。 思えばホワイトデーなんて今の今まで無縁の行事だったのだ。 何だかんだでからチョコを貰うのも今年が初めてだったし……。 だからホワイトデーのお返しなんて考えた事も無かったし、 俺が女に贈り物だなんて、ちゃんちゃらおかしい。 でも、やっぱり貰ったからにはお返しをするのが筋というものであって、 俺は目の前の選択肢のうち1つを選ばなければならないのだ。 ったく、誰だよホワイトデーなんか作りやがった奴は。 こんなもん男にとっちゃプレッシャー以外の何者でもねぇじゃねーか。 「あれ、阿伏兎まだ悩んでたの?いい加減にしなよ、鬱陶しい。」 「阿伏兎お前っ、まさか一週間ずっと悩み続けてるのか!?」 「団長、云業……。」 俺が自分の部屋で胡坐をかきながら机の上に置いてある本の ホワイトデー特集と大きく見出しをつけられたページと睨めっこをしていたら、 さも当たり前かのように団長と云業が部屋にドカドカと入ってきた。 しかも団長に至っては罵声というおまけ付きで、 誰の許可を得てその行動に出たのか、 人の部屋だというのに入室早々ゴロンと寝転がった。 その隣には云業がよっこらせと座り込む。 おいおい、誰の許可を得て人の部屋でそんなにくつろいでんだよ。 コイツ等はノックと遠慮という言葉を知らねぇのか。 「阿伏兎お前、いくらなんでも悩みすぎだぞ……。」 「あーあ、今頃待ちくたびれてるだろーなぁ。もう俺が決めてあげようか?」 「いらねーよ。もう2つまで絞り込めたんだ。」 「じゃああと一歩じゃん。一体どれで悩んでるの?」 そう俺に尋ねたくせに自分から動く気配を全く見せない団長に、 俺は仕方がなく近くにあったマッキーで机の上の本に丸印を2つ付け、 それをそのまま団長の前に差し出した。 団長は寝転がりながら本を受け取り、云業も一緒に本を覗き込んだ。 「なんだ、どっちも飴じゃないか。 こんなもの、どれにしようかなで決めたらいいだけだろ?」 「アホか!よく見ろよ、2つとも中身が全く違う味だろーが!」 「ちゃんは好き嫌いないだろ?」 「だからどっちがの好きな味が多いかで悩んでんだよ。」 「アホはお前だよ。」 「阿伏兎……。」 俺が大真面目に返答すると、団長はいつもの笑顔を脱ぎ捨てて真顔でそう言った。 その隣の云業も哀れむような目で俺を見てくる。 何この反応、俺がおかしいみてぇじゃねーか。 そんなことを思っていたら団長が急にバサッと本を投げ捨て、 気だるそうにゴロンとうつ伏せになった。 「あーもう、心配して損した。お前なんか飴を喉に詰まらせて死んじゃえ。」 「心にも無いことを。アンタが俺を心配するようなタマですか。」 「いや、結構気にしてたぞ?今日の朝だって、 お前が結局お返し渡せなかったら笑いものなのにネって言ってたし。」 「それ心配してるか?」 団長馬鹿の云業が団長のフォローに失敗したところで、 俺は本を拾い上げて最後の選択肢に挑んだ。 の驚く顔が見たいから、本人に聞きに行くなんてことは絶対に出来ない。 サプライズで渡せばきっと喜ぶだろうと、この一週間悩んできたというのに……。 「阿伏兎、いい加減諦めろ。早く買いに行かねぇと、今日中に渡せないぞ?」 「うるせぇな、ちょっと黙ってろ。」 「お前の気持ちさえ伝われば、ちゃんは何でも喜んでくれるって。」 ため息混じりのその言葉に、俺はハッとして云業を見た。 どうやら俺は慣れない行事に困惑して見当はずれの選択肢で悩んでいたらしい。 元々俺が可愛い袋に入った飴玉選びなんて、ガラじゃなかったんだ。 大昔にどっかの誰かさんが言った言葉、 今までずっとクセェ台詞だと思って馬鹿にしてきたが、 今回ばかりはそうも言って居られないらしい。 俺は厳つい顔で微笑む云業に「キモいぞ」と言いながら本を投げつけ、 団長と云業を部屋に残してそのまま部屋を後にした。 買うものはもう決めた。ホワイトデー特集なんてクソくらえだ。 「阿伏兎って変なトコ真面目だから面倒だよねー。 俺がせっかくとの交際を認めてやろうってのにさ。」 「その割には団長、バレンタインデーの日に 阿伏兎に本気でボディーブローかましてたよな。」 「それでチャラにしてあげるってんだから、俺って相当優しいだろ?」 「…………。」 「!」 『あれ、阿伏兎さん。どうしたんですか?』 「これやるよ。」 俺はプレゼントを買いに行った足での元にやってきた。 そしてついさっき買ってきたばかりの袋をに手渡すと、 案の定は非常に驚いた顔になった。 『あっ、阿伏兎さん、これ……!!』 「バレンタインデーのお礼だ。」 『……〜っ!あ、あのっ、ありがとうございます!! なんか、気ぃ遣わせちゃって……あの、開けてもいいですか?』 「勝手にしろ。」 予想通り、大げさに驚いて深いお辞儀をしたは 非常に嬉しそうな顔で俺が渡した袋を丁寧に開き始めた。 そして、袋の中から出てきたものを手に取った瞬間、 はその大きな目に涙をいっぱいに溜めて、俺に抱きついてきた。 「おいおい、泣くんじゃねーよ。」 『だって、だって……!!』 「それが俺の気持ちだ。」 『嬉しいです、すごく、ひっく、ホントに……!!』 「あぁ、分かってる。その涙だけで十分だ。」 全く、ホワイトデーなんて行事、一体誰が作りやがったんだ。 そんなもん、常識なんかに縛られない海賊の俺達には関係ねぇ。 今日は俺達にとって、もっと重要で特別な日だ。2人だけのスペシャルデー
(プレゼントを左手の薬指にはめてやると、はさらに泣き出した) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 阿伏兎さんは結構世間的なものを気にするタイプだと思う。 で、云業たちが背中を押してあげて、プロポーズすると思う。(笑) ウチの第七師団は超仲良し! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/03/14 管理人:かほ