「ふぁなばふぁ?」 『違います団長、七夕です。 って言うか口がリスみたいになるまで食べ物を詰め込まないで下さい。』 「ふぃふぃふぁふぉ、ふぇふに。」 「団長、こぼれてるこぼれてる。」 夜兎の平和な昼飯時、頬をパンパンに膨らまして喋る団長に、 云業さんがそう言いながら口の周りを拭いてあげていた。 それを見て阿伏兎さんが深い深いため息をつく。 まるで「お前はお母さんか」という言い飽きた台詞を飲み込むかのような表情だ。 『ウチの師団と梅蘭さんの師団の人たちで笹を飾る事にしたんですよ。 あとアタシ達の短冊だけらしいんで、今書いちゃって下さい。』 「短冊っつってもなぁ…… 俺くらいになると、願いもとんと無くなっちまうからなぁ。」 手に持った長方形の紙を眺めながら阿伏兎さんがそう言った。 「阿伏兎はもうおじいちゃんだからね。」 「アホか。まだまだ現役だっつの。 ただ、改めて願い事を聞かれると、どうもなぁ……。」 「ちゃんのことを書けばいいだろ。」 云業さんの言葉に、阿伏兎さんがおもむろにアタシを見た。 見られたアタシはと言うと、急に目が合ったもんだから、 ちょっと恥ずかしくなって目を逸らしてしまった。 「のことっつってもなぁ……。」 『あ、アタシはっ、 阿伏兎さんといつまでも一緒に居られますようにって書きますよっ!』 「やっ、止めろよこっ恥ずかしい……。」 アタシが下を向きながら恥ずかしいのを我慢して言うと、 阿伏兎さんはちょっと顔を赤くして頭をボリボリと掻いた。 「じゃあ俺はと阿伏兎が破局しますようにって書こうかな。」 『はぁ!?やっ、止めて下さいよ!!縁起でもない!』 「ちゃん、安心しろ。俺が“ちゃんと阿伏兎が 円満な家庭を築けますように”って書いて相殺してやるから。」 『い、いや……んなコトしなくていいけど……。』 「ってかお前等自分の願いを書けよ。」 こんな会話をしながら、アタシ達はご飯を食べたり短冊を書いたりしていた。 夜兎3人はまだお昼ご飯を食べていた(むしろまだ終わる気配はない)けど、 アタシは早々に食べ終わっていたので短冊に意識を集中する。 書くことは勿論“阿伏兎さんとずっと一緒にいられますように”だ。 云業さんは“第七師団が平和でありますように”という なんとも夜兎らしくない事を書いていたけど、 阿伏兎さんと団長はまだ書くことが決まっていないらしく、ご飯に集中していた。 「あら、こんなトコロに居た。あんた達、さっさと短冊書いちゃってちょうだい。」 『あ、梅蘭さん!』 妖艶な声がしたと思って顔を上げると、 そこには呆れたように団長達を見ている梅蘭さんの姿があった。 そして何故か梅蘭さんの後ろには勾狼団長が立っていた。 この2人が一緒に居るなんて珍しいな……。 「何だお前等、短冊なんてもん書いてんのか?ダッセェなぁ。」 『勾狼団長、こんにちわ。』 「ん?何だ、お前も短冊書いてるのか?可愛い奴だな。」 「あんたさっき自分で何て言ったのか思い出してみなさいな。」 「はいいんだよ、可愛いから。」 なぜかアタシを気に入ってくれている勾狼団長がそう言うと、 梅蘭さんと云業さんが呆れたようにため息をついた。 そして云業さんはいつの間にか書き終わっていた団長の分の短冊を手に取り、 ついでにアタシの分の短冊も受け取って梅蘭さんに渡してくれた。 「はい、ご苦労様。あとはあぶちゃんだけなのね。」 「ちょっと待っとけ。書くことはもう決まった。」 「あらあら♪どんなこと書くの? ちゃんとずっと一緒に居られますように、とか?」 「それはもうが書いた。」 「まぁ♪」 何やら真面目な顔で短冊を書いている阿伏兎さんに、 梅蘭さんは非常に楽しそうに笑っていた。 勾狼団長は何が気に食わなかったのか、阿伏兎さんをジトッと睨んでいる。 その様子にアタシが首を傾げると、もう食べ終わっていた云業さんが 「勾狼団長はウチがあんまり好きじゃないからな」と教えてくれた。 ちなみに、団長はまだご飯を頬張っている。 「ほら出来た。これ一番上に飾っとけよ。」 「あら、よっぽど強いお願いなのね。」 「叶ってもらわなきゃ困るからな。」 そう言う阿伏兎さんから短冊を受け取ってそれを黙読する梅蘭さん。 その顔はだんだん口角が上がってきて、仕舞いにはプフッと吹きだした。 「ちゃん、これちゃんと読んどきなさい。」 『え?アタシですか?』 にこにこ笑いながら阿伏兎さんの短冊を手渡してきた梅蘭さんに、 アタシは訳が分からず首を傾げた。 そんなアタシに梅蘭さんは「ほら、」と尚も短冊を渡そうとしてくるので、 一応その短冊を受け取って、アタシは阿伏兎さんの方を見る。 阿伏兎さんはアタシが短冊を見るのに反対ではないようだけど、 やっぱり恥ずかしいのか顔を逸らしてこっちを見てくれなかった。 『えぇっと……。』 アタシは仕方なく短冊を読んでみることにした。 そして次の瞬間、胸がキュンと締め付けられる感覚に襲われる。 「何だ?何て書いてあったんだ?」 アタシの顔が見る見るうちに真っ赤になっていくので、 驚いた云業さんがアタシにそう尋ねてきた。 アタシは内容を声に出して読むことも伝える事も出来ず、 ただ黙って短冊を云業さんに手渡した。 そして短冊を読んだ云業さんは理解したといった顔でうんうん頷き、 短冊を覗き込んでいた団長と勾狼団長が同時に嫌な顔をした。 「んもぉ〜。あんた達ってホントに初々しいわよねぇ。 もう付き合って何年経つの?こっちまでドキドキしちゃうわ。」 『あ、アタシ……何年経っても、阿伏兎さんについて行きますから。』 顔は合わせないままでアタシがそう言えば、 阿伏兎さんは顔を真っ赤にして「アホなこと言うんじゃねぇよ!」と怒鳴った。 その言葉に云業さんが「阿伏兎、」と名前を呼んで戒めれば、 阿伏兎さんはバツが悪そうにそっぽを向き、そして本当に小さな声でこう呟いた。 「……分かってらぁ、んなコト……。」恋人を他の男に盗られませんように
(腹立つ) (俺もだ。神威、今だけは協力するぜ) (ちょっとアンタ達!お止めなさいなみっともない!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 勾狼団長を出したのはただの趣味です。(ネタバレにも程がある) ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/07/11 管理人:かほ