『阿伏兎ォ、アタシ急に枯紅葉の星に行くことになっちゃった。』 俺が先日の団長の後始末(始末書の山)を片付けていると、 急にが部屋に入ってきてこう言った。 その言葉に俺は耳を疑う。 「枯紅葉?宇宙で一番治安が悪いって有名な星じゃねーか。」 そう、枯紅葉とは宇宙でも有名な不良の溜まり場なのだ。 全宇宙から不良連中が集まり、毎日のように殺し合いが行われ、 常に星の人口が変動しているのだとか。 夜兎族だって迂闊には近づかない、とんでもない星だ。 『物騒でしょー?しかも1人で行けって言われたの。どう思う?』 「1人?お前っ、大丈夫なのか?」 『全然大丈夫じゃないわよ!ヘタしたら死んじゃうかもしんないのよ?』 「お前が死ぬところなんて想像出来ねぇが……気ィ抜くんじゃねーぞ。」 『はぁ!?何それそんだけ!? ってかアタシだってか弱い女の子なんだから死んだりするわよバカ!!』 正直な話、を1人でそんな危なっかしい星に行かせたくはなかった。 しかし、ここで心配したらが調子に乗って 『あっれー?もしかして阿伏兎、アタシのこと好きなのー?』 なんて言い出すに決まってる。 それだけは絶対に嫌だ。なんか……負けた気がする。 「そりゃご愁傷様。せいぜい死なねぇようにするんだな。」 『んだとテメェ!アタシが心配だから一緒についてってあげるとかないわけ!?』 「はっ、誰がお前なんか心配するかよ。云業より遥かに強ぇじゃねーか。」 『だってアタシ女よ?枯紅葉で悪い男共に襲われちゃうかもしれないのよ?』 「いいじゃねーか。普通の男にゃ逃げられちまうんだから相手してもらえ。」 『んだとテメェ!!ぶっ殺すぞ!!』 「そんなんだから男が逃げてっちまうんだよ!」 売り言葉に買い言葉で俺の胸倉を掴みながら握り拳を作るに、 俺はちょっと冷や汗をかきながらそう言った。 コイツ本気になったら俺でも負けるかもしんねーからな……。 そんなんだから女扱いされねーんだよ、すっとこどっこい。 『フンだ!いいよいいよ!!逆ナンして遊んでやるんだから!』 「おーおー、出来るもんならやってみろ。」 『絶対やるかんね!!後で泣きついても知らないから!!』 はそう怒鳴りながらさっさと部屋を出て行ってしまった。 そしてと入れ替わるかのように云業が部屋に入って来たのだが、 俺はその手に中にある追加の始末書に思わず深いため息をついた。 「おいおい、今度はあの人何やらかしたんだよ……。」 「え?あぁ、なんでも他の師団長と喧嘩したらしいぞ。」 「はぁ……あの人に休み時間ってモンはないのかねぇ……。」 「それより阿伏兎、いいのか?」 「あぁ?何が。」 俺が疲れきった腕を始末書に伸ばせば、云業がガラにもなく真剣な表情で俺を見た。 その様子に俺は眉間にしわを寄せて聞き返す。 「あの枯紅葉だぞ?いくらちゃんでも、うっかり襲われちゃうんじゃ……。」 「あぁ、そのことか。」 「それに、さっきちゃんイケメン逆ナンするとか言ってなかったか?」 「心配いらねーよ。ただ言ってるだけだ。」 「だが……。」 云業はまだ納得のいっていなさそうな顔をした。 俺はため息をついて机に向き直り、云業に聞こえる声でこう呟いた。 「アイツは何だかんだ言って、俺以外の男にゃ興味ねぇからな。」 「ひゅー♪お嬢ちゃん今1人?」 「こんな星で女の子1人は危ないよ?俺たちと一緒に遊ぼうよ。」 「お兄さん達がイイトコ連れてってやるからさぁ〜。」 枯紅葉に着いてから3秒と経たないうちにアタシはナンパに遭遇した。 ほれみろ、アタシ超モテるだろーが。大人気だろーが。 コレ帰ったら絶対に阿伏兎に自慢してやる。 そんで絶対にさんはいい女ですって言わせてやるんだから。 それにしても、この星の治安の悪さは噂以上だな……。 アタシは頭を切り替えて周りをグルリと見渡した。 土地柄、女が珍しいんだろう、ウジャウジャと男が寄ってくる。 まぁこの星をぶっ壊すのが今回の任務だし、好都合っちゃあ好都合か。 『あのさぁ、この星の人間ってこれで全部?』 「何だぁ?全員とヤりてぇってのか?」 「見かけによらずやんちゃなんだなぁ。」 何なのコイツ等。全員ニヤニヤニヤニヤしやがって、鬱陶しい。 これだから若い男は嫌いなのよ。団長もいっつもニヤニヤしてるし。 やっぱり男はちょっと疲れたオッサンが丁度いいわ。 多少わがまま言ったって、文句はたれるけど結局は聞いてくれるし、 疲れきってるから必要以上に体を求めてこないし。 まぁ唯一の欠点といえば、自分に自信がないからって プロポーズの一つもロクにしてこないことかしら。 ったく、アタシもとんだヘタレジジイに心を奪われたもんだわ……。 って、そんな事言ってる場合じゃなくて。 『この星の全員やって来いって、上からの命令だから。』 「ひゃはは!じゃあまずは俺からお相手してもらおうかなぁ〜?」 そう言いながら一番手前に居た男がアタシの肩に手を置いてきたので、 とりあえずその下品な頭を撥ね飛ばしてやった。 「なッ……!?」 「何しやがる!!」 アタシの突然の行動に、枯紅葉の不良共の眼つきが変わる。 さぁ、ここからが本番よ。 いくらアタシだって、本気で行かなきゃ全員を相手には出来ないからね。 『言ったでしょ?この星の全員を殺りに来たって。』 「てめぇ一体何者だァァ!!」 『それと……。』 今度は襲ってきた奴ざっと30人の上半身と下半身を離婚させてやった。 ちょっと体は軋むけど、それでも耐えられない人数じゃない。 『今んとこアタシに触れていいのは阿伏兎だけなの。 どんなイケメンも権力者も、全く興味ないのよね、アタシ。』 戦闘開始からおおよそ6時間は経過しただろうか。 やっと全滅した不良たちの死体の山に腰を降ろし、アタシは空を眺めていた。 流石にこの人数(多分7000人は超えてた)はかなり疲れた。 女に任せる仕事の量じゃないだろコレ。帰ったら元老に文句言ってやろう。 「おぉ、殺されずに生き残ってたか。」 考えれば考えるほど腹が立ってきたこの思いをかき消したのは、 ふいに後ろから聞こえた心地よい声だった。 『あれ?阿伏兎じゃない。何でここに居んの?やっぱりアタシのこと心配だった?』 「アホ抜かすな。団長命令だよ。俺のを迎えに行けってな。」 『誰が俺のよ、誰が……。』 アタシは疲れていたのと呆れたのとで深い深いため息をついた。 阿伏兎はそんなアタシを見上げながら死体の山のふもとまで歩み寄ってくる。 「それにしても、よく一箇所に集まったなぁ。」 『そりゃこんなに可愛い女の子が現れたら全員襲いに来るだろ。 って言うかアタシ超モテモテだったから!ナンパされまくったから!』 「そりゃあ黙ってたら美人だろうけどなぁ……。」 『何で黙ってたらなのよ。ぶっ飛ばすわよ?』 褒められたはずなのに何この貶された感。ちょっとイラッとした。 でもまぁ、阿伏兎がアタシを美人って認めたからよしとするか。 アタシは小さくため息をついて、死体の山から地面へヒラリと着地した。 「やっぱりお前は襲われるようなタマじゃなかったな。」 地面に華麗に着地したアタシをニヤニヤと眺めながら、 阿伏兎が本当に腹立つ顔でそんなことを言ってきた。 コレには完全にイラッとして、アタシは阿伏兎を睨みつけながら反論する。 『タマなんて持ってないわよ。 エクスカリバーと一緒に母親の腹の中に置いてきたもん。』 「女の子がタマとかエクスカリバーとか言うんじゃねーよ、はしたない。」 『フン、どうせアタシは可愛くないですよ!』 アタシが言いながらフイ、とそっぽを向けば、 阿伏兎はちょっと困ったような顔で笑い、そしてクルリと踵を翻した。 「さ、団長様の機嫌を損ねる前にとっとと帰るぞ。」 『はぁ!?ちょっと、お疲れ様の一言もないわけ?』 「オ疲レサマデシタ。」 『うっわ腹立つ!棒読みってお前っ、喧嘩売ってんの!?』 「んなもんお前に売るくらいなら自分で使うわ。」 『ムッキー!!!!待てこら阿伏兎コノヤロー!!!!』 「うわっ!?テメェ、いきなり襲ってくるんじゃねーよ!!」 『うるさい!!アンタの首を団長への手土産にしてやるわよ!!』 「アホか!!ちょっと落ち着けって、オイ!!このすっとこどっこい!!」 アタシの攻撃を阿伏兎は間一髪のところでかわし続けた。 それがまた癇に障って、アタシは本気で殴りかかる。 「お前みたいなじゃじゃ馬、一生嫁の貰い手なんてねぇよ!」 『んだとコラ!!アンタだって、とっくの昔に賞味期限切れだろーが!』 アタシ達は春雨の母艦に帰るまで、ずっとそんなやり取りをし続けたのでした。憎まれ口に勝る愛
(まぁ売れ残ったら俺が嫁に貰ってやってもいいけどな) (まぁアタシは賞味期限切れでも気にしないけどね) ((絶対に言ってやらないけど)) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ こういう、愛し合ってるのに引っ付かない関係大好きです! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/07/25 管理人:かほ