しょうせつ
、お前ほしいものとかあるか?」

俺は隣で云業とあやとりをしていたに何となしに声をかけた。
するとはちょっと驚いたような顔をして俺を見る。
手に東京タワーを持っている云業も、不思議そうに俺を見た。

『ほしいもの、ですか?』
「あぁ。思いついたの言ってみろ。」
『じゃあ平穏。』
「……俺が用意できる範囲のもので頼む。」

のリクエストに応えるためには、
少なくともウチの団長をどうにかしなければならない。
には悪いが、それだけはどう頑張っても俺には無理だ。
梅蘭さんならひょっとしたらやってくれるかもしれないが、
あの人に借りを作るのは団長を怒らせるより怖いので止めておく。

『んー……今のところ特にはありませんけど……急にどうしたんですか?』
「いや、別に……。」
『……?』

俺のハッキリしない答えにはちょっと不服そうに首を傾げたが、
云業にはなんとなく俺の思惑が伝わったのか、やれやれ、と肩をすくめた。
その後もにほしいものを聞いてみたが、
『やっぱり平穏が一番欲しい』とか、
『阿伏兎さんが居るだけで他に何もいらない』とか、
なんでそんな俺の顔が緩むような事ばかり……いやいや、
別に喜んでなんかねぇけど!むしろそんな答え困るけど!
とりあえず、は最後まで『欲しいものはない』の一点張りだった。

こんなグダグダな状態で迎えてしまった当日。
俺は片手に地球で上手いと評判の菓子の袋を持っての部屋へと向かった。

「(結局アイツお菓子食べたいしか言わなかったな……)」

“欲しいものはない攻撃”の後、云業とまたあやとりを始めたは、
今度は2人でエッフェル塔を作りながら好きな食べ物の話をしていた。
そこでがなんとなしに『あー、お菓子食べたい』と呟き、
その後閃いたように俺に向かってこう言った。

『阿伏兎さん、アタシお菓子ほしいです。』

この言葉を聞いた時の俺のガックリ感は、多分言葉では表せない。
とにかく、とてもガッカリした。
そんなもんお前、いつでも買ってやるじゃねーか。
違うんだよ、俺は今日という日にお前に“特別”をやりてぇんだよ。
そんな俺の思いは露知らず、はニコニコと天使のように微笑んでいた。

「バカヤローが……。」

俺はそんな悪態をつきながらの部屋の扉をノックする。
すると中からの明るい声が聞こえ、しばらくしてから扉が開いた。

『あれっ、阿伏兎さん!どうしたんですか?』
「いや、ちょっとな……。」
『…………?あっ、立ち話もアレなんで、どうぞ入って下さい。』

いつものように嬉しそうな笑顔を浮かべて俺を招き入れるに、
俺は部屋の中に入りながら持っていた菓子の袋を手渡した。

「、これやるよ。」
『えっ?』

は首をかしげながらも俺の手から袋を受けとった。
そして中身を確認した瞬間、いつもの笑顔がさらに笑顔になった。

『わぁ凄い!阿伏兎さん本当に買ってきてくれたんですかっ?』
「まぁ……。」
『わぁー!ありがとうございますっ!すっごく嬉しい!』

はテーブルの上に菓子を並べ、
本当に嬉しそうにしばらくキャーキャー言っていた。

『でも何で急に?まさかアタシをもので釣ろうって作戦ですか?』
「ちげーよ。お前今日誕生日だろうが。」
『え?そうなんですか?』
「え?」

お互いの言葉に、俺たちは目を丸くした。

「だってお前……去年言ってたじゃねーか。」
『え?何を?』
「云業相手に、今日が自分の生まれた日だって。」

そう、今日はの誕生日……だったはずだ。
去年の今頃、が云業相手に嬉しそうに話しているのを聞いた。
辺境の星で俺がを拾ったのはがとても小さい頃で、
もちろんは自分の誕生日なんて覚えていなかった。
俺はてっきりそれを思い出したんだと思っていたんだが……。

『え……あっ、違います!それは、そーゆー生まれたじゃなくて……!』

は去年の自分の言葉を思い出したのか、慌てて俺にそう言った。
なんだよ、違うのかよ……じゃあ俺の聞き間違いか。
せっかく今日のために色々試行錯誤したってのに、全部空回りじゃねーか。
だーくそ、が菓子を食べたいと言った時以上の衝撃だ……。

俺がそんな事を考えながら頭を抱えていると、
困り果てた様子のが、何故かちょっと顔を赤くしてボソボソと呟き始めた。

『今日は、その……アタシが阿伏兎さんに拾ってもらった日なんですよ。』
「え?」
『だからっ……アタシは、今日生まれたようなものだって言ったんです。
 アタシが、阿伏兎さんに新しい命を、生きる道をもらった日だから……。』
「……。」

顔を紅く染めて恥ずかしそうに言うの姿に、
何故か俺も同じように恥ずかしくなってから視線を逸らした。
心なしか全身が熱い。
駄目だな俺ァ……年甲斐もなく顔が紅くなったりしてないだろうか。

「……ややこしい事してんじゃねーよ。」
『す、すみません……。』
「じゃあ、結局お前の誕生日は分からず仕舞いなのか……。」

俺の言葉に、はもう一度申し訳なさそうに『すみません』と言った。
いや、別にいいんだけどな。
今日がの誕生日であろうとなかろうと、
俺はすでにさっきののとびっきりの笑顔を見られただけで満足だ。
ちょっと地球に行って菓子を買ってきただけで、
コイツはまるで婚約指輪をもらったかのように喜んでくれる。
喜びの沸点が低いと言うのか、素直で純粋だと言うのか……。

とにかく俺は今日が誕生日でなかったことを怒ってなどいない。
それよりも、今はに婚約指輪を渡した時の反応の方が気になってきた。
菓子で大喜びだから、指輪となると泣くかもしれないなコイツ……。

「……今日でいいか。」
『えっ?』

馬鹿馬鹿しい考えを巡らせていた俺は、
とりあえず思考にストップをかけ、一息ついてからそう言った。
するとはキョトンとした顔で俺を見る。

「お前どうせ誕生日なんてなかったんだから、勝手に作ってもいいだろ?」
『あ、阿伏兎さん……。』

俺の言葉に、は嬉しそうに微笑んだ。
そのの笑顔に、俺の表情も自然と穏やかになる。

「誕生日おめでとう、。」

俺がそう言った次の瞬間、が勢いよく俺に飛びついた。




Happy Birthday My Honey

(あぁんもう幸せっ!) (お、おい!抱きつくな!) (阿伏兎さん大好き!!好き好き大好きっ!) (こっ、こっ恥ずかしいこと言ってんじゃねーよ!!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 遅くなりましたが、すあかさんのお誕生日に捧げます! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/12/31 管理人:かほ