『じゃあアタシと阿伏兎先生は5年前にアタシのバイト先で知り合って、 2年前に結婚して、アタシは今大学3年生の21歳!これでいいですね?』 「あぁ、上出来だ。むしろ設定の細かさがバカバカしいくらいだ。」 『何ですかそれー!せっかく先生の為に考えてあげてるのにー!』 アタシが今日の新婚さん設定を阿伏兎先生に確認していると 阿伏兎先生が呆れたような感心したような微妙な声で返事をしてきたので、 憤慨したアタシは頬を膨らませながら阿伏兎先生に抗議した。 すると阿伏兎先生は「悪ぃ悪ぃ」と言いながらアタシの頭を撫でてくる。 ぐぬぬ……阿伏兎先生は本当にズルい。 アタシの扱い方を心得ていると言うかなんと言うか……。 どれほどアタシが怒っていても、 阿伏兎先生によしよしされたらキュンときてしまうのを先生は分かってるんだ。 なんか、すっごく悔しいかも。 「じゃあ、俺が今から質問するから、上手いことそれに答えてくれよ?」 大方の設定が決定したところで、今度は阿伏兎先生がアタシに提案してきた。 阿伏兎先生の同級生からアタシに対して質問があるかもしれないので、 ちゃんと大学生の新妻になりきって答えられるかテストするらしい。 『望むところですよ!ドーンと何でも訊いちゃって下さい!』 あれだけ設定を煮詰めたんだ、今のアタシは完全に大学生のさ! アタシはそんな自信を持って阿伏兎先生に胸を張って返事をした。 阿伏兎先生はアタシが質問にうまく答えられなくて ボロが出ることを心配してるんだろうけど、 こういう時のアタシの口八丁っぷりをなめてもらっちゃ困りますよ先生! 「じゃあまずベクトルの問題だが……。」 『お勉強以外の内容でお願いします!!』 まさかの質問に出鼻を挫かれたアタシは思わず大声でそう叫んでしまった。 下らない設定とかなら次々と湧き出てくるけど、 真実はいつも一つなお勉強系は全く持って答えられる気がしない。 それなくてもあの楽天的なウチの両親が 通知表を見て思わずアタシの将来を心配したくらいの成績なのに、 大学の勉強とか答えられるわけない。ってか高校の内容だって危うい! 「まぁ今のは冗談だ。お前の成績の悪さは俺が一番よく知ってる。」 『すみません……。』 「じゃあ質問だ。プロポーズの言葉は何だった?」 『アタシが先生にバラの花束をプレゼントして結婚して下さいって言いました。』 「いや何でお前なんだよ。そこは普通俺だろ。」 『意外性を追求してみました。』 「分かった、お前は黙って俺の隣で飯でも食ってろ頼むから。」 そんなことを話している間にも刻一刻と同窓会の時間は近づいてきて、 結局アタシが3つ目の質問に答えたところで家を出ることになった。 あぁお母さん……はとても不安です。一体どんな人たちが居るんだろう。 まぁ阿伏兎先生の友達だから良い人ばっかりなんだろうとは思うけど、 噂の結婚してくれさんも居るのでやっぱり凄く不安です。 でもは頑張ります。だって阿伏兎先生を他の人に取られたくないから。 今は嘘でも、いずれ本当にアタシが阿伏兎先生の奥さんになるんだもん。 だから悪いけど今日は何が何でも勝たせてもらいます。 たとえ木の棒と鍋のふたという最弱の武器であったとしても、 木の棒には釘を打ち込み釘バットに、 鍋のふたには画鋲をつけて最強の武器にしちゃいます。 反則だなんて言われてもは怯みません。 複数戦だろうがビックスライムだろうが私は負けません。 どっからでもかかってこいやー!返り討ちにしてやんよー! そんなことをグルグルと車の中で考えていたアタシを出迎えてくれたのは、 なんとまぁ優しそうなお兄さんとお姉さん達だった。 「わー!可愛いー♪」 「うっそ!この子が阿伏兎くんのお嫁さん?」 そんなことを言いながらアタシの周りに集まってくるお姉さま方に、 アタシは思わず挨拶も忘れてオロオロしてしまった。 そして阿伏兎先生に助けを求めようと先生の方を見たが、 先生は既に男性陣に肩を組まれヤイヤイとイジられている真っ最中だった。 「オイオイ阿伏兎ォ、どこでこんな可愛い子捕まえたんだよ。」 「俺らの中で一番婚期遅そうな顔してよー!」 「しかもテメー、相手はピチピチの大学生だと?この犯罪者め!」 「うるせーな!犯罪じゃねーよ!テメー等俺を何だと思ってんだ!!」 そんな和やかな雰囲気に、思いっきり臨戦態勢だったアタシは 思わず口をあんぐりと開けてその場に立ち尽くしてしまった。 と言うか、阿伏兎先生すっごく楽しそう。 学校で銀ちゃんたちと喋ってる時のちょっとやんちゃな先生に似てるけど、 もっとこう、表情が穏やかと言うか、うまくは言えないけど、とっても楽しそう。 阿伏兎先生、同級生の前だとあんな表情するんだ……。 アタシは先生の知らなかった一面を見れたような気がしてキュンと胸が締め付けられた。 なんか、今日は阿伏兎先生の意外な一面をいっぱい見れて幸せかも。 「えぇー?阿伏兎くんお嫁さん居たのー?ショックー。ねぇ私に乗り換えてよー。」 「ほらほら、バカなこと言ってないで、今度私と一緒に合コン行くよ。ね?」 「ぶー。」 阿伏兎先生を取り囲んでいた人たちの中に女の人が3人くらい居て、 その人たちがそんな会話をしていた。 多分、あれが噂の阿伏兎先生を誘惑してた女の人なんだろうと思う。 先生がしつこいって言ってたからもっとガンガン来るものだと思ってたけど、 案外あっさりとアタシのことを認めてくれた感じ……? アタシはもっとドロドロとした雰囲気をイメージしてたんだけど、 全然そんなことなくて、むしろ暖かいと思える雰囲気だ。 あれれ……思ってたのとなんか違うかも。 アタシはそっと木の棒と鍋のふたを道具袋に直しこんだ。 「ねぇ、名前は?」 『え?あ、あの、です……。』 突然名前を尋ねられ、アタシはビックリしてしまった。 良かった、テンパって苗字を名乗らなくて……。 「ちゃんかぁ!可愛い名前ー♪」 「ねぇちゃん、阿伏兎くんのどこが良かったの?」 「家での阿伏兎君ってどんな感じ?やっぱりゴロゴロオッサンみたいにしてる?」 「阿伏兎くんって昔からあんな感じでねー?」 「オイテメー等!あんまに変なこと吹き込むんじゃねぇよ!」 阿伏兎先生がそう言うと、 お姉さま方は「怒られた!」「こわーい!」なんて言いながらキャイキャイしていた。 「、お前こっち来とけ。」 阿伏兎先生は少し離れたところからアタシを手招きした。 アタシは『あ、はい、』と返事をして阿伏兎先生の近くに行き、 そして忘れないうちに阿伏兎先生を阿伏兎さんと呼んでおくことにした。 『えっと……阿伏兎、さん……。』 その瞬間、阿伏兎先生が顔を真っ赤にしてしまったので、 しばらくの間は酒のつまみの代わりに 阿伏兎先生が全員にからかわれる羽目になってしまったのであった。 続く .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 私も同窓会とかではしゃぐ阿伏兎先生が見たいです! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2012/08/18 管理人:かほ