しょうせつ

『はぁ……やっと終わった。』

なんとかラスボス戦をクリアし、
アタシと阿伏兎さんは今マイホームで戦いの疲れを癒している。
阿伏兎さんはベッドに倒れこみ、アタシはクッションに倒れこみ、
どちらからともなく「『はあぁぁ……』」と大きなため息を吐いて重力に身を任せていた。

「、お疲れさん……。」
『はい……阿伏兎さんもお疲れさまです……。』
「ははは、マジ疲れたわ……。」

阿伏兎さんはそう言うと力なく笑い、また大きなため息を吐いた。
それもそのはず、
アタシが『阿伏兎さん』と呼んで阿伏兎さんが顔を真っ赤にしてしまったのを皮切りに、

「ちょまっ、阿伏兎お前、奥さんに名前呼ばれて赤面するとかどんだけ!?」
「結婚して2年も経ってんのにラブラブじゃねーか!」
「ごちそーさまでぇす!」
「やだもう阿伏兎くんったら純情なんだからー!」
「あははははは!」

などなど、阿伏兎さんは始終からかわれっぱなしだったのだ。
アタシの方も質問攻めにあい大変だったのは大変だったけど、
阿伏兎さんの方は周りのイジリっぷりが尋常ではなかった気がする。
初めの方も「ロリコン」「犯罪」などのワードが聞こえてきたし、
後半になるとお酒に酔った男の人たちがすごく下品なことまで質問していたみたいだし。

アタシは比較的優しい女の人たちに囲まれながら
「阿伏兎くんのどこが好きなの?」「プロポーズの言葉は?」なんて
可愛らしい質問をされただけだったので、今思うと恵まれていたなぁとしみじみ。
まぁ途中でアタシが「子供は何人ほしいの?」と訊かれた時には
少し離れたところでお茶を飲んでいた阿伏兎さんが盛大に噴き出してしまったのだけれど。

「悪かったな、巻き込んじまって。」

ベッドに寄りかかりながら、阿伏兎さんはアタシの顔を申し訳なさそうに見つめてそう言った。
その言葉にアタシはゆっくりと首を横に振る。

『巻き込んだなんてそんな……。
 アタシ、嬉しかったです。阿伏兎さんにお願いされて、頼られて。
 いつもだったら阿伏兎さんがアタシにお願いごとするなんてあり得ませんもん。』
「何でだよ。色々頼んでるじゃねーか。
 プリント持ってってもらったり、プリント回収してもらったり。」
『そういうお願い事じゃなくて!
 もっとこう、阿伏兎さん自身に関わるお願いごとと言うか……。』

学校行事とかそういうんじゃなくて、先生と生徒の関係じゃなくて、
アタシじゃないとダメと言うか、阿伏兎さん自身のお願いごとと言うか。
とりあえずそんなお願いごとをされたのは初めてだということを伝えたかったのに、
アタシの貧相なボキャブラリーでは上手く言葉に出来なかった。
言い淀んだまま言葉が出てこず、思わずアタシが『うぅぅ……』と唸れば、
阿伏兎さんは「あっはっは、」と笑いながらアタシの頭を撫でてくれた。

「分かった分かった、もう十分だ。ちゃんと伝わった。」
『本当ですか?』
「本当だっつの。」
『むぅぅ……。』

本当にアタシの言いたいことが伝わったのだろうか。
納得できていないアタシの様子に、阿伏兎さんがまた笑ってアタシの頭を撫でた。

「ありがとな、。お前のおかげで説得出来た。」
『アタシ、すっごく緊張して構えてたけど、あんまり何もしなかったです。
 阿伏兎さんが言ってた人も、思ってたよりもあっさり諦めてくれたし。』
「だから言ったろ?婚期遅れて焦ってるだけだって。」
『そういうもんなのかなぁ……。』

アタシにはそういう考えがよく分からなかったので、
コテンとクッションに頭を預けてうぅん、と首を傾げた。
まぁ阿伏兎さんを取られなかったので良しとしよう。
難しいことは分かんないままでいいや。

「そーいやぁ、は今日一日、俺の嫁さんなんだよな?」
『はい?』

阿伏兎さんの突然の発言に、アタシは言いたいことがよく分からなくて首を捻った。
すると阿伏兎さんはニヤリといかにもいじわるそうな笑顔を作ったかと思うと、
おもむろにアタシの腰に手を回してきた。

「今日だけはお前を大学生扱いするって決めたんだから、これくらい許されるよな?」
『やっ、ヤだ!ちょ、あっ、阿伏兎さんっ……!!』

じわじわとアタシの方に寄ってきて
ほとんど覆いかぶさるように抱きついてきた阿伏兎さんに、
アタシは思わず顔を真っ赤にして阿伏兎さんの体を押し返した。

『ヤだヤだもう!阿伏兎先生のバカー!!』
「うっ……。せ、先生を付けられると急に罪悪感が……。」
『阿伏兎先生のバカ!阿伏兎先生のエッチ!!』
「悪かった、悪かった、ちょっとからかい過ぎた!」

アタシが先生を連呼してじたばた暴れていると、
阿伏兎先生が困ったようにアタシの名前を呼んでオロオロし始めた。
そんな先生の反応がかわいくて、アタシは思わず『ふふ、』と笑ってしまう。
するとそんなアタシの様子を見て、阿伏兎先生もつられて笑っていた。

「最初は阿伏兎さんって呼ばれるのが恥ずかしかったが、今はちょっとだけ名残惜しいな。」
『あ、アタシはもう呼びたくないです……恥ずかしい。』

言いながら真っ赤になる顔を両手で覆えば、阿伏兎先生はまたケラケラと笑った。

「いいんだよ、今じゃなくても。
 結婚するのもが俺を阿伏兎さんって呼ぶのも、子ども作るのも何するのも。」

阿伏兎先生はそう言うとアタシから離れてまたベッドの上へゴロンと寝転んだ。

「どうせ数年後には否が応でもやってることだ。」
『阿伏兎先生……。』

先生の言葉に、アタシはなんだか胸の辺りがじんわりと温かくなってきた。
そうだ、アタシはいずれ銀魂高校を卒業して、本当に大学生になる。
今アタシ達の左手についてる指輪だって、借り物なんかじゃない、
本物のアタシ達の結婚指輪をはめることになるんだ。
阿伏兎先生のことだって、いつかはずっと阿伏兎さんって呼ぶことになるんだし、
おかしいことなんて何もない。今日がちょっと特別だっただけだ。

『ねぇ、阿伏兎先生。』
「あー?」

のっそりと返事をした阿伏兎先生を見つめながら、アタシは静かに微笑んだ。

『今日は本当に楽しかったです。』
「……くくっ、そうかいそうかい。」




このきは数年後

(あ、そうだ。阿伏兎先生?) (あぁー?) (先生は子ども何人ほしいですか?) (…………、当分その話禁止な) (えぇー?) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 阿伏兎先生とのプレ新婚生活、これにて一旦終了です。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2013/03/22 管理人:かほ