『あぁーっ!!!!』 久々の休日の昼過ぎ、春雨の船内にの叫び声が木霊した。 「なっ、何だ!?どうした!?」 「ふあぁ、一体何事?」 すぐ隣の部屋で報告書(という名の団長の始末書)を書いていた俺と その俺の横で人の苦労も知らないで幸せそうに寝ていた団長は、 その叫び声を聞いて急いでのいる部屋へと駆け込んだ。 『あ……あぁ……!!』 の声に緊急性を感じて2人して慌てて来てみたものの、 いざ部屋に入ってみると特に室内にこれといった変化はなく、 ただがテーブルに向かってわなわなと体を震わせているだけだった。 「……??」 俺は不思議に思い、に軽く声をかける。 するとの様子を見た団長が「あぁ、忘れてた」と欠伸混じりに言葉を発し、 「、」と名前を呼びながらゆっくりとの方に歩み寄っていった。 「それ、俺からのプレゼント。」 団長がそう言うと、は嬉しそうに団長に飛びついた。 『団長ありがとう!大好きっ!!』 そんなの行動に、俺がカチンと来たのは言うまでもない。 「がこないだ欲しがってたからね。わざわざこの俺が買ってきてやったんだよ? だから、通常の5倍くらい味わって食べてよね。」 『うん!ちゃんと味わって食べる!ありがとう団長っ!!』 はぎゅうう、と団長に抱きつきながら本当に嬉しそうな声でそう言った。 そんなの様子に団長も満足そうな顔をしてよしよしとの頭を撫でている。 仮にも俺の女であるというのに、何故こうも俺の前で他の男にベタベタと抱きつけるのか。 俺は離れろあほんだらという念を込めてと団長を睨みつけていたが、 団長からもらったものがよっぽど嬉しかったのか、は全く気づかない。 そんな時、ふとの向こう側にあったテーブルが視界に入ってきた。 見るとそこには、なにやら見覚えのある袋が。 「(あれは……)」 俺はまだ新しい記憶を呼び覚ます。 あれはこの前の任務で地球に行った際に見つけた甘味処の袋だ。 がずっと食べたい食べたいとダダをこねていたのでよく覚えている。 あの日は確か昼間に地球に降り立って、 運悪く雲一つない晴天だったからと寄り道も一切しないまま帰ってきたんだったよな……。 はダダをこねながらも、俺たちが太陽に弱いことを知っているから、 結局甘味処は諦めて一緒に帰ってきたんだっけ。 俺は少し気の毒に思いながらも今日までそのことをすっかり忘れていた。 しかし目の前にあの甘味処の袋があるということは、 団長があの時のことを覚えててのためにわざわざ地球まで行って買ってきたってことか? 俺はそこまで考えて、思わず眉間にしわを寄せた。 『あっ、良かったら団長も一緒に食べましょうよ!』 「そうしたいのは山々なんだけど、この後どうしても行きたい任務があるんだ。」 団長は本当に名残惜しそうな顔をしてそう言った。 「やたら強い傭兵が雇われたっていう部隊の殲滅でさ、 俺は呼ばれてないんだけど、面白そうだから梅蘭について行っちゃおうかなって。」 団長のその言葉に、俺は思わずホッと胸を撫で下ろす。 とりあえずこれ以上と団長が接近する心配はなさそうだ。 団長はを狙っているから、隙さえあれば俺からを横取りしようとする。 だからできるだけと一緒に居てほしくないというのが本音だ。 特に今回のような抜け駆けは心底勘弁していただきたい。 団長の外出に俺が安心したのも束の間、 団長は笑顔で「だから帰ってきたら一緒に食べよう」と続けた。 そんな団長の言葉に、は『はい!』と元気よく返事をする。 一連の2人のやりとりを聞いて、俺はやっぱり眉間にしわを寄せた。 そりゃあ今回は俺の完全敗北だ。が喜んで団長に懐くのも無理はない。 しかし、は俺の女で、団長はそんなを横取りしようと日々目論んでいる男だ。 その2人があんなに仲良くしているところを見せ付けられていい気はしない。 それどころかの無防備さに怒りの念さえ湧いてくる。 お前もうちょっと団長を狼として認識しろよ、このすっとこどっこい! 俺がそんなことを考えながら顔を歪ませていると、 例の任務とやらに行こうと俺の方を向いた団長が「ふふん、」と俺をせせら笑った。 あの野郎……ちょっとの好感度アップしたくらいで調子に乗りやがって……! 俺は精一杯の力を込めて団長を睨みつけたが、 団長はそんな俺の視線をひらりとかわして部屋を出て行ってしまった。 ちくしょう、何だあのどや顔は。 アンタの始末書の山を誰が処理してやってると思ってんだバカヤロー! 『阿伏兎さん?』 俺が団長の出て行った扉をずっと睨み続けているので不思議に思ったのか、 がキョトンとした顔で俺の名を呼んだ。 そんなの声に俺が今度はを睨みつけると、 流石に俺が怒っていることに気づいたのかが眉をハの字にしておずおずと口を開いた。 『あ、あの、怒ってますよね……?』 「ったりめーだろ。」 『あっ……もしかして、ヤキモチやいてくれたんですか?』 は申し訳なさそうな、しかしどこか嬉しそうな声でそう言った。 俺はというと、「ヤキモチ」という言葉が聞こえた瞬間、思わず顔を赤くした。 そして、に向かって思いっきり怒鳴ってしまったのだ。ばか、そんなんじゃねーよ
(この歳になって「ヤキモチ」なんて、そんなことあるわけねーだろーが!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 不器用で乱暴な阿伏兎さんとか萌えるやん? ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2013/03/29 管理人:かほ