が突然、俺が「ヤキモチ」をやいているなんて馬鹿げたことを言い出すから、 俺は思わず思いっきりに怒鳴ってしまった。 するとは一瞬ビクッと体を震わせ、 さっきよりももっとオドオドした様子で俺の顔を見た。 『ご、ごめんなさい……。めちゃくちゃ怒ってますよね……。』 「あ、いや……。」 が俺の言葉に酷く怯えてしまったので、俺は思わず眉をハの字にして言葉を詰まらせる。 思ったよりも強く怒鳴ってしまったので、は俺が本気で怒っていると思ったようだ。 いや、怒っていないと言えば嘘になるのだが、 を怯えさせるつもりはこれっぽっちもなかったんだ……。 今にも泣きそうなの姿に、俺はこのイライラをどこに持って行こうかと頭を抱えた。 『あ、阿伏兎さん……。』 俺が思考を整理していると、ふいにが俺の傍に寄ってきて俺の名を呟いた。 そして俺の服の裾をギュッと握って泣きそうな顔で俺の顔を見上げてくる。 『ごめんなさい……アタシが団長に抱きついたから怒ってる? それとも、団長と仲良くしてたから怒ってる?アタシのこと嫌いになった?』 が本当に不安そうな表情でそんなことを訊いてくるもんだから、 俺は怒りよりも罪悪感の方が大きくなって思わずを抱きしめた。 「俺がお前のこと嫌いになるわけねぇだろ、このすっとこどっこい。」 『阿伏兎さん……。』 俺の言葉に安心したのか、それとも抱きしめられて安心したのか、 はとうとうポロポロと涙を流しながら俺にしがみついてくる。 『ふあぁぁん!阿伏兎さんごめんなさい!本当にごめんなさい!』 「あーはいはい、ほんっとお前反省しろよ?」 俺は言いながらの背中をポンポンと叩いてやった。 すると俺の首に回したの腕にぐっと力が入る。 『阿伏兎さんホントにアタシのこと嫌いになってない?』 「なってねぇよ。団長と仲良くしてたことも、団長に抱きついたことも、 団長に笑顔ふりまいたことも全部怒ってるが、そんだけだ。」 『ふええぇぇ……!!』 全く……こんなオッサンの顔色一つで何でここまで泣けるかねぇ。 俺に嫌われることが泣くほど嫌なことなのだろうか。 ほどの美少女ならば男なんて作ろうと思えばいつでも作れるだろうに、 こんな一回りも二回りも歳の離れたオッサンにここまで執着してくれるとは……。 それに比べて俺は一体何をやってんだ。 ちょっとが団長に愛想振りまいたからって、団長に出し抜かれたからって、 を睨んだり怒鳴ったり泣かせたり……全く情けねぇ。 結局のところ、俺はコイツに関しては全く余裕がないということなのだろうか。 こんな若い女がこんなオッサンに恋なんて、いつフられてもおかしくない。 挙句の果てにを狙ってる団長は若くて強くて顔もいいときてる。 そろそろ自覚しなければいけないだろうか。 俺は年甲斐もなくをかなり束縛していて、かなりの悋気野郎だと。 「。」 俺が優しく名前を呼ぶと、はおずおずと顔を上げ俺の顔を見た。 その顔は涙でぐしゃぐしゃになっており、表情もまだ硬い。 あぁ、俺のせいか……。 の顔を見るなり胸を抉られるような罪悪感が俺を襲ってきたので、 俺はを自分のふところに抱き寄せ、口を開いた。 「あー……なんだ、その……悪かった。 お前の言うとおりだ。年甲斐もなく悋気しちまって、挙句泣かせちまった。 でもなぁ、俺は見ての通りオッサンだから、 いつお前を団長に盗られるかってひやひやしちまうんだよ。 だから……えーっと……あー……その……。」 そこまで言って、俺はこっ恥ずかしくなってきて言葉を詰まらせた。 駄目だ、結局何が言いたいのか分からなくなってきた。 だからその、あんまり団長と仲良くすんな。いや、違う違う。それは悋気そのものだ。 そうじゃなくて、に謝りつつも俺を安心させてくれ的な、 そんな感じの言葉を言いたいのだが、あいにく俺の貧相なボキャブラリーでは その微妙なニュアンスを伝えることは不可能なようだ。 自分の頭の悪さを疎みつつも俺が何かないかと言葉を探していると、 俺のふところにすっぽりと納まっていたが突然ぴょこんと俺の目の前に顔を持ってきて、 なんとも可愛らしい上目遣いで俺をキッと睨みつけた。 『アタシ、団長なんかに盗られません!アタシが好きなのは阿伏兎さんだけです! オッサンでも何でも、アタシは阿伏兎さんがいいの! 乱暴でめんどくさがりでいっつも疲れてるけど、 優しくてあったかくてカッコよくて頼りになってアタシのこと大事にしてくれるから、 だから、阿伏兎さん以外のヒトとちゅーしたいとか思わないもん!』 は顔を真っ赤にして目をつぶり、そんなことを一息で言い切った。 そんなに、俺もつられて顔を真っ赤に染め上げる。 「おまっ、なんっ……なんつーこと言って……。」 『団長とはちゅーしませんもん!』 どうやらの中ではキスが「好き」の最上級に位置しているらしく、 しきりに「他の男の人とはちゅーしない」を強調してくる。 いや、キスなんて俺もまだお前としたことないから……。 そんなこと思いながらも、の一生懸命な姿に思わず笑みがこぼれる。 拙い言葉ながらも、俺を一番に想ってくれていることが十分伝わってくる。 なりに、必死に俺を安心させようとしてくれている。 ったく、こんなに歳くってるって言うのに、俺はなんて情けない男だ……。 こういう時は普通、俺がを安心させてやる側だろうに。 『ちゅー!します!』 「…………は?」 の突然の宣言に、俺は思考が停止する。コイツ今何て言った?ちゅーします? そうこうしているうちに近づいてきたの顔に、俺の声は華麗に裏返った。お、お前、近すぎ!
(そういう大事なことは俺からやってやるからちょっと待ってろバカヤロー!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 阿伏兎さんがホントは子どもっぽくて 嫉妬しやすい性格とかだったらもれなく私が爆ぜる。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2013/04/05 管理人:かほ