しょうせつ
殿は可愛いでござるな。」
『……は?』

私が晋助に拉致されてから何時間が経った頃だろうか、
突然私を見張っていた河上万斉が口を開いた。
拉致と言っても拘束はされておらず、小さな部屋に監禁されているだけ。
手足は自由だから部屋の中なら歩き回れるし、言葉だって自由に話せる。
そのため、予想外の一言に私は思わず間抜けな声を出してしまった。

「その声も可愛らしいでござる。」
『……何が目的?』

私は河上を睨みつけながら少し距離をとった。
河上は相変わらず表情1つ変えずに扉の前に座り込んでいる。
私を褒めて、一体この男は何を考えているんだろう。
そんな事を考えていると、河上が突然立ち上がり、私の方に歩み寄ってきた。

『ちょっ、来ないでよ!!!』

私は驚いて一定の距離を保とうと後ろへ下がるが、
狭い部屋の中、ほんの1、2メートルくらいで壁にぶつかってしまった。
それでも河上はゆっくりと私の方へ歩いてきている。

『来ないでって言ってるでしょ!?一体何が目的よ!?』
「目的?惚れた相手の傍に寄るのに目的など必要ござらん。」
『は、はぁぁ!?ほっ、惚れッ……!?』

河上があまりにも真顔で言うものだから、
私は冗談だと分かっていながらも顔を真っ赤にして驚いてしまった。
その一瞬の隙を突いて、河上は私との距離を一気に詰め、
気がついたときには両手を掴まれて壁に押し当てられていた。

『ちょ、近い!!!』
「またそのように顔を真っ赤に染めて……拙者を誘っているんでござるか?」

河上は顔をさらに近づけて、
鼻の先が当たるか当たらないかというところで動きを止めた。
そして、ニヤリと余裕の笑みを浮かべる。

『……ッ!!!ふざけないでッ!!』

顔を近づけられ両手も拘束されているという状況で、
恥ずかしいほど余裕がない自分に比べ余裕しゃくしゃくな河上が非常に腹立たしくて、
私は思わず河上に頭突きを食らわせてやっていた。
河上は一瞬『う、』と呻き声を上げたが、
そんなに痛くなかったのだろうか、すぐにまた余裕の表情で私を見つめてきた。

『……お前マジで腹立つ。』
「気が強いところもまたイイ……。怒った顔も、可愛らしいでござるよ。』
『よくもまぁ心にもないことをペラペラと……。』
「拙者を疑っているでござるか?」

河上は酷く心外だとでも言いたそうな声でそう言った。

『あのねぇ……アンタは晋助の部下でしょ?誰が信じるっての?』
「ふむ……ではこうするでござる。」

河上は一瞬何かを考えるような素振りを見せ、
そして私の両手を解放しながらやはり真顔でこう言ってきた。

「お主をここから逃がしてやろう。
 その代わり、殿には拙者と結婚してもらうでござる。」
『はぁ!?アンタさっきから話が突拍子もないわよ!?』
「拙者、実はドSなんでござるよ。」
『いらないわよそんな情報ッ!!!!』

私の声が狭い室内にうるさいくらい響き渡る。
あまりの急展開に、私は深呼吸しながら状況を整理していた。
まず、コイツの言っていることは本当なのだろうか、という問題から。
……分からない。コイツとことん掴み所がない。
そして、私を逃がして自分と結婚させて、一体なんのメリットがあるの?
……それも分からない。だってコイツ腹の底が見えない。

「で?どうするでござる?
 このままここに居れば、晋助に人質として利用されるだけでござる。」

困惑する私とは打って変わって、平然とそう尋ねてくる河上万斉。
コイツの言っていることは正しい。
晋助は私を使って銀時と小太郎を殺すつもりなんだろう。
それだけは何としても避けたい。

『……分かった。その話、ノるわ。』

私が選択したのは、より危険な選択肢。




Dangerous Game

(晋助を裏切るなんて何考えてんのアンタ) (拙者なりの愛情表現でござる) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ あれれ?ここは王道の高杉からじゃないの? ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2009/06/07 管理人:かほ