“今日最も悪い運勢は……” 笑顔の結野アナがそうやって今日もブラックに星座を占っていた。 そして言わずもがな銀時はテレビに釘付けだ。 でもアタシは占いなんて科学的根拠がないもの信じてない。 だから今朝だって、銀時の言葉を聞き流してしまったんだ。 「おい、お前気ィつけろよ。今日は厄日らしいぜ。 変態に求婚されるんだとよ、マジ気ィつけろ。」 『へーそう。そりゃ大変だ。』 あぁ、あの時銀時の言葉を聞き流したアタシをブン殴ってやりたい。 これは運命だったのかもしれないけど、ちょっとは警戒出来ただろうに。 そんなこんなで、アタシは今変なオッサンに拉致られて いかにも怪しい船の一室に居るのでした。 『ん゛ー!!!!ん゛ん゛ん゛ー!!!!』 「武市先輩、ソイツ誰ッスか?」 「攘夷戦争で戦場の舞姫と恐れられたさんですよ。」 「戦場の舞姫?じゃあソイツ、晋助様の……。」 何で夕飯の買出しに出ただけなのにこんな事に巻き込まれてんだアタシ! 話の内容からしてあの晋助の友達だと思うけど、それ以外は全くの謎だ。 戦争が終わった後、アイツ世界をブッ壊しますとか言ってたからなぁ……。 アタシが人質ってことは、銀時や小太郎とドンパチやるつもりなんだろうか。 「で、その舞姫様が何でここに居るんスか?」 「今回の計画に使えそうだから一応拉致っとけって。」 「何スかそれ。」 「暴れられては困るので手足を縛って口もテープで覆っておきましたけど。」 「アンタやっぱ年いった女には興味ないんスね。」 「何を言いますか。これはこの娘が敵だから心を鬼にして……。」 「嘘つけロリコン野郎。」 ロリコンという言葉に、アタシは今朝のブラック星座占いを思い出した。 “変態さんに求婚されまーす♪” ちょっと待ってよ、まさかこのオッサンが噂の変態さん!? 冗談じゃない!こんな変な顔の奴に求婚されてたまるか!! 身の危険を感じたアタシはすぐさま近くにあったガラス製の箱を足で破壊し、 その破片を使って足と手に巻きつけられたロープを切った。 勢いあまって両手両足を切っちゃってちょっと血が出たけど、 こんなもの戦場の怪我に比べれば軽いもんさ! 「なっ……!?ロープを自分で切っただとォ!?」 「ちょ、また子さん!早く捕まえて下さい!」 アタシの華麗な身のこなしに オッサンと金髪のねーちゃんが慌てているのを尻目に、 アタシは部屋の出口へと一目散に駆け抜けていった。 『あーっははは!ザマーミロ! 伊達に攘夷時代を生き抜いたわけじゃねーんだよォ!ヘブッ!』 アタシの脱出計画はいきなり部屋に入って来た何者かによって 出口でぶつかるという非常にベタな方法で阻止されてしまった。 床にブッ倒れたアタシの後ろでは金髪ねーちゃんがガッツポーズをする。 「よくやったッス万斉!!その娘を押さえ込めッス!!!!」 「ついでにアナタの弦でその娘を縛っておいて下さい。 どうやら今回の計画に使うらしいので。」 部屋に入って来たのは結構まともな(でもかなり怪しい)にーちゃんだった。 グラサンで顔はあんまり分かんないけど、 目が極端にブサイクでなければイケメンなのではないかと思われる。 結野アナもさぁ、よりにもよって変態なんかじゃなくて イケメンのグラサンに求婚されますとか言ってくれよなマジで。 いや、いま全然そんな事言ってる場合じゃないんだけど。 「奇妙なリズムが聞こえると思って来てみれば……お主のものでござったか。」 『は?何?リズム?』 「気をつけて下さい万斉さん。その娘は戦場の舞姫と恐れられた立派な侍です。」 「戦場の舞姫……ではこの娘が晋助の言っていた……。」 オッサンの言葉に、グラサンにーちゃんの雰囲気が変わった。 殺気とまではいかないものの、明らかにアタシを警戒している。 アタシが体勢を整えてグラサンにーちゃんに攻撃しようと思ったその瞬間、 目にも留まらぬ速さでアタシの体は三味線の弦で締め上げられた。 『なッ……!?』 アタシは直感した。このにーちゃん、相当ヤバい。 身のこなしが只者じゃないし、第一この弦、普通の弦じゃない。 どうしよう、逃げられない! このままじゃ本当に人質になっちゃう……マジどうしよう……!!! 「…………。」 「ん?どうしたんスか?」 「手が止まってますよ万斉さん。」 「いや……何かに目覚めそうだと思って。」 緊迫した雰囲気の中で発せられたグラサンにーちゃんの予想外の一言に、 オッサンとねーちゃんがドン引きした。(勿論アタシもドン引きした) 「ば、万斉、やっぱりいいッス、あたし等自分でやるッスから。」 「亀甲縛りは思ったよりも難しいでござるよ?」 「お前は一体何をするつもりッスか!!!!!」 「今ので私の中の万斉さんの評価がガタ落ちしましたよ……。」 予想外の展開に、身動きの取れないアタシの体は冷や汗でびっしょりだ。 顔は引きつるし驚きすぎて声は出ないし、一体どう対処すればいいんだろう……。 そんな事を考えて3人のやりとりを聞いていたら、 グラサンにーちゃんが徐にアタシの方を向き、近づいてきた。 『ひぃ!ちょまっ!嫌だ嫌だ!!!!こっち来んな!!』 「その怯えた表情も震える声も、拙者の好みドストライクでござる。」 『ひえぇぇ!!ちょっ、助けてオッサン!!!!』 「万斉さんアナタそんな人だったんですか……。」 「あたしは前から知ってたッス。」 思わず敵に助けを求めてしまったアタシのテンパりようは気にも留めず、 グラサンにーちゃんは不敵な笑みを浮かべながらアタシに近づいてくる。 その後ろではオッサンと金髪ねーちゃんが頭を抱えながら深いため息。 ちょっと待ってよ……お願いだから誰かこのグラサンを止めてくれ……!! 「……お主、気に入った。」 『はぇ!?』 「殿と申したな……お主を拙者の妻にするでござる。」 この時、アタシの頭の中で結野アナがニヤリと微笑んだ。たかが占いと馬鹿にするべからず
(晋助様に怒られても知らないッスよー) (大丈夫でござる。ちゃんと躾はする) (ちょっと待て!!!躾って何だ!!!もういっそ殺せよォォ!!!!) (敵ながら哀れな娘ですねぇ……) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ ……ん?ウチの万斉にしてはカッコいい方じゃないかな?(慣れって怖い) ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/05/04 管理人:かほ