しょうせつ

いつもだったら必要以上に話しかけてくるくせに、今日は華麗にスルー。
毎日毎日、好きだの愛してるだの言ってくるくせに、今日はおはようの一言もなし。
別に言ってほしいわけじゃないけど、急に態度変えられたらムッとするじゃない。
そんな事したって、アタシは絶対に好きなんて言わないからね!!

「……先輩、万斉先輩と何かあったんスか?」
『これがなかったように見える?』
「いえ、全然見えません。」

いつも一緒に居る(って言うかアタシが付きまとわれてる)のに
ここ数日ろくに喋りもしていないアタシと万斉の様子に、
とうとうまた子ちゃんがやんわりと質問してきた。
その質問にアタシはぶっきら棒に返答する。

『アタシは別に何もしてないもん!アイツが勝手に怒ってるだけで!』
「怒ってるって……万斉先輩が?先輩に?」
『そう!』
「そりゃ先輩が悪い可能性大ッスよ!」
『はぁ!?何で!?』

予想外のまた子ちゃんの言葉に、アタシは憤慨してそう言った。
するとまた子ちゃんは真剣な面持ちでアタシの肩をガッと掴み、
「あの万斉先輩を怒らせた先輩が悪いッス!」とキッパリ言い放った。

『えぇっ……。』
「先輩がいくら暴言吐いても刀向けても意地悪しても、
 絶対に怒らなかった万斉先輩が怒るだなんて、先輩が悪いに決まってるッス!!」
『な、何その位置づけ……。』
「先輩に対しては親バカ並みに甘々のあの万斉先輩が怒ったんスよ!?
 嫌いって言っても死ねって言っても絶対に怒らなかった万斉先輩が!!」
『ちょ、ゴメン、それ以上言わないで……なんか罪悪感が……。』

また子ちゃんの力説に、アタシは今までの仕打ちをかなり反省した。
そう言われるとそうだな……
今まで全然怒られなかったから気にも留めてなかったけど、
改めて言われるとアタシ酷いこといっぱいしてきたんだな……。
でも、この間は死ねなんて言わなかったのに怒られたぞ?
酷いことなんて言ってない。むしろアタシ……。

『でもアタシ、好きって言って怒られた。』
「は?」

アタシの呟きに、また子ちゃんが間抜けな声を出した。

『万斉がいつもみたいに付きまとってきたから、
 あーはいはいアタシも大好きですよって言ったら、急に怒り出して……。』
「はぁ?何スかそれ。それ普通喜ぶモンじゃないんスか?」
『だから訳分かんないんじゃん!』

アタシのその言葉にまた子ちゃんは状況を理解してくれたようで、
とにかく一度ちゃんと話してみるッス、と助言をくれた。
別にアタシは今の方が鬱陶しくなくていいんだけど、
周りに迷惑かけちゃってるからな……一度ちゃんと話した方がいいのかも。

そんな事を考えながらもなかなか行動に移せず、
結局今日で喧嘩してから一週間が経ってしまった。
いや、別にアタシは普通の生活(むしろ平和な生活)を送ってるし、
万斉だって、アタシが居なくても全然平気そうだし、
周りのみんなもそろそろこの状況に慣れてきたみたいだし、いいんだけどね。

でも、時々考えてしまうことがある。
もしずっとこのままだったら、
もう二度と万斉と話すこともなくなってしまうんだろうかって。
今までずっと近くに居た分、なんか、変な感じ……。

『……勝手に人巻き込んどいて、勝手に捨ててくなっつーの。』
「。」

懐かしい声に名前を呼ばれ、アタシは息を呑んで一瞬体を震わせた。
声の距離からして、多分真後ろにアイツが居る。
どうしよう、さっき呟いたの聞こえたかもしれない。
アタシが寂しがってるとか勘違いされたら嫌だな……。
そんな事を考えて若干冷や汗をかき始めたとき、
アタシの予想に反して真後ろに立っている万斉は淡々と言葉を続けた。

「晋助が呼んでいたでござる。食堂に居るからすぐに来いと。」
『…………言うことはそれだけ?』
「拙者は言伝を預かっただけでござるからな。」

その万斉の言葉に無性にムカッときて、
アタシは咄嗟に『アタシ行かないから!!』と叫んでしまった。
後ろで呆気にとられる万斉の顔が目に浮かぶ。

『何でそんなに怒ってんの!?何でそんなに急に態度変えるの!?
 アタシのこと嫌いになったんだったらハッキリそう言えばいいじゃない!』
「…………。」
『なのに、何も言わずにアタシのこと避けて、一体何なのよ……!』

あれ、変だな……声が震える……。

『あの時アタシが好きって言ったから怒ってるの!?
 冗談のつもりだったのに、アタシが本気にしたと思って面倒になったの!?』
「……。」
『自意識過剰も大概にしろ!アタシお前のこと大ッ嫌いだかんな!!!』

散々叫んで下を向けば、目から大粒の涙が零れ落ちた。
っかしーな……何でアタシ泣いてんだろ。
別に悲しくもなんともないのに。

「……今のは好きでござる。」
『はぁ……!?前のアタシと何が違うのよ……!!!!!』

震える声を振り絞ってそう言えば、万斉はしばらく黙り込んで、
そして後ろからアタシをそっと抱きしめて耳元で囁いた。

「拙者は、の本音を聞きたいんでござるよ。」
『……?何、言ってんの……。』
「が本当に、心から思っているのであれば、
 嫌いと言われようが死ねと言われようが、拙者は構わん。
 しかし、の口から思ってもいない“好き”は聞きたくなかったでござる。」
『…………。』

万斉はそう言ってアタシを抱きしめている腕にさらに力を込めた。
背中に感じる暖かさと久しぶりのその声に、
アタシは何故か急に安心してしまって、さらに泣き出してしまった。

『ひっく……何よ、バカ……!!』
「……。」
『うるさい喋るな!!万斉なんか大ッ嫌い!!』
「知っているでござる。」
『声も聞きたくないし、顔も見たくないし、正直この世に存在してほしくない!!』
「ちょ、言いすぎでござる………いくらなんでも拙者の心が折れる。」
『でも……!!』

アタシは後ろを振り返ってそのまま万斉に抱きついた。
これには流石の万斉も驚いたようで、
普段あまり変わらない表情が一気に情けない顔になった。

「なっ…………。」
『アタシから離れてほしくない……!!』

子供のように泣きじゃくるアタシに、万斉は一瞬驚いたような顔をしたけど、
すぐにいつもの優しい笑顔に戻ってそっと頭を撫でてくれた。
その優しい手の感触に酷く安心して、アタシはさらに泣いてしまう。
そんなアタシをギュッと抱きしめ、万斉はこう囁いた。

「何があっても離れないでござるよ。それがの本心ならば。」





「おんやぁ?
 船内がこんなに騒がしいということは、あの2人仲直りしたんですね。」
「あ、武市先輩、おはようございます。
 ってかその判断基準はいかがなもんなんスかね……。」
『あっ、武市先輩!!!この変態どうにかして下さいよ!変態仲間でしょ!?』
「さん、挨拶もなしに朝っぱらから人を貶さないで下さい。」

昨日までの一週間がまるで嘘のような騒がしさに、
鬼兵隊の船員達は良かった良かったと口々に喜んでいた。
どこが良かったんだオンドラァ!と叫びながらもひたすら逃げているアタシに、
武市先輩もまた子ちゃんも呆れた視線を送ってくる。
いや、正確にはその視線の先はアタシではなく、
さっきからアタシを追い回しているあのド変態だけどね!

『んもぉー!鬱陶しいぃ!!!朝っぱらから何なのよアンタ!!!!』
「から離れないようにしているんでござるよ。」
『ウザいキモい暑苦しい!!!付きまとわないでよ!』
「しかし、昨日が……。」
『それはもういい!忘れて!』
「何を言う!昨日のあの出来事は手帳に印をつけるくらい重要な事でござる!
 さながら記念日のごとく勢いで覚えている!!」
『ウッゼェェ!!!ちょ、こっち来んな!バーカバーカ!!』
「待て逃げるな!」

何を思ってあんなこと言ったんだ昨日のアタシ……!
アタシから離れてほしくないなんて、口が裂けても言うんじゃなかった!
これならまだ無視されてた方がマシだっつーの!

「相変わらず騒がしいですねぇ……。」
「でも、すっかり仲直りしたみたいで良かったッス。」
「まぁ……あの騒がしさがなければ拍子抜けしますからね。」

「捕まえた!!」
『ぎゃあ!ちょ、いやっ、抱きつくなァ!!!』
「これでもう離れることもないでござるよ、。」
『誰かタイムマシン持ってきてぇぇぇ!』

こうして、鬼兵隊にアタシの怒鳴り声が戻ってきたのでした。




ありのままのが好き

(、本当に拙者の事が嫌いなのか?) (なっ……そ、そんなの……あっ、当たり前でしょ!) (言葉と態度が裏腹でござるよ、) (う、うるさい!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 最近河上さんの変態っぷりが落ち着いてきたような気がします。 そしてまた子ちゃんの先輩呼びがあまりにも可愛かったので、 今後の小説ではほぼ先輩呼びになるかと! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/06/21 管理人:かほ