鬼兵隊一の苦労人と名高いこの私、武市変平太は 毎年イベントデーには4人のバカ共を宥めるのに苦労していたりします。 今日はそんな疲れる日の1つ、七夕を迎えてしまいました。 勿論あの変態コンビが黙っているはずもなく、 さっきからやけに楽しそうに2人で短冊を書いているのですが……。 「武市先輩、紙が足りないッス。作って下さいよ。」 「いや、もう十分でしょう。あなた達それもう30枚目ですよ? 本来短冊というものは1人1枚なんですからね。」 「1人1枚で願いが叶うはずがないでござる。 同じ願いであれば1枚書くより50枚書く方が叶うに決まっている。」 「二刀流より五刀流の方が強い計算ですかバカが。」 また子さんも万斉さんも鬼兵隊を代表する腕の持ち主であるというのに、 どうしてこうも「恋は盲目」を体現してくれる人なんでしょうか。 普段、特に戦いとなるとこの人たち以上に頼りになる者は居りません。 それなのに、晋助さんとさんが居るだけでどうしてこう……。 『あ、武市先輩居たー!晋助ー!先輩居たよー!』 「何だ変平太、こんなところに居やがったのか。」 「晋助さん、さん。」 私に何か用ですか、と尋ねようと思ったまさにその時、 何やら後ろから嫌な気配がして、思わず息を呑んだ。 そして恐る恐る後ろを振り向くと、案の定2人の目が爛々と輝いていた。 「晋助さま!相変わらず麗しいッス!」 「あぁ。」 『晋助アンタあからさまに聞き流すわね……。』 「、拙者に会いに来たでござるか?」 『あはは、ポジティブも大概にしろこのド変態。』 「お前はストレートに毒づくな……。」 これでまた一騒動起きてしまう……。 そう直感で理解した私は深いため息をついて肩を落とす。 この4人が揃って騒がしくならなかった事なんて、 今までの経験上一度もありませんから。 『ん?うわっ!?それ短冊!?書きすぎだろお前等!!』 「いやいや、願いは一個だけッスよ?あたしがコレで、万斉先輩がコレッス。」 そう言いながらまた子さんは自分達が書いた短冊を一枚ずつ手に取り、 それを晋助さんとさんに手渡した。 2人とも同じ願いで、しかもロクなことを書いていなかった気がしますが、 それを本人達に堂々と見せていいんでしょうか……。 『何々?を……押し倒したい……?』 「晋助様を……押しっ……。」 読み上げた2人の目は明らかに死んでらっしゃいました。 一方、自分達のロクでもない願いを読み上げられた変態コンビは 何をそんなに誇らしげに思っているのか、多少照れつつもどこか自慢気です。 『ちょっ、お前等何書いてんの!?』 「願い事でござる。」 『これ願いって言うか欲望だろーが!!!!彦星もビックリだわ!!!!』 「晋助様!別に晋助様があたしのお願い叶えてくれてもいいんスよ?」 「殴られねぇだけマシだと思えお前等……。」 全く反省の色が見えない(それどころか嬉しそうな)2人に、 さんも晋助さんも怒っているようでした。 そりゃこんな変な短冊見せられたら怒りもするでしょうね……。 「は何と書くのだ?まさか拙者との子宝に恵まれますようにとか……。」 『んなわけねーだろ!!どんだけポジティブなんだテメェは!!!!』 「晋助様はあたしと一生一緒に居られますようにって書いてくれますよねっ?」 「書くわけねーだろんなこと……。」 「え!?もう傍を離れる気はないからいちいち書かなくてもいい!? ヤっだ晋助様……!あたし嬉しいッス!」 「…………。」 『ちょ、晋助気持ちは分かるけど無視は止めたげてちゃんと構ったげて!』 暴走する変態コンビにそろそろ被害者組が疲れて来たようなので、 いつものように事態収拾を図るため私が4人の間に割って入った。 「万斉さん、また子さん、少し落ち着いて下さい。 あのね、七夕にはこんな言い伝えがあるんですよ。」 そう言って私は2人に嘘の言い伝えを話し出す。 織姫と彦星はハードスケジュールだからたくさんの短冊を見るのが嫌で、 複数人で1枚の短冊を書いている奴が居ると 時間短縮とか言って喜んで願いを叶えてくれる、といういかにもアホらしい内容です。 流石に自分で言っていて厳しいものがあると思っていたんですが、 このバカ共には無用な心配だったらしく、 2人同時に「そうか!」と叫んで納得した顔になりました。 「(どこまで扱いやすいんですかこの人たちは……。)」 「じゃあ晋助様とも一緒に書くッス!」 「4人が合体するように、でいいでござるな。」 『いいわけねーだろ。しかも武市先輩はどうした。』 「さんいいんですよ、分かってましたからハブられることくらい。」 こうして、5人の願いを“世界をぶっ壊します”で統一することになり、 2人あわせて60枚近くあった最低な短冊は一斉処分されることに。 これには晋助さんもさんも酷く安心したようで、 はぁぁ、と深いため息をついてそのままソファーに倒れこんでしまいました。 「晋助様!大丈夫ッスか!?膝枕ッスか!?」 「もう好きにしろ……。」 「はいッス!じゃあ膝枕プラス子守唄を歌ってあげますね!」 「いや、それはいい。」 そんなやり取りをしばらく続けていた2人ですが、 いつの間にか晋助さんはまた子さんの膝枕で寝入ってしまい、 その寝顔を眺めつつまた子さんがニヤニヤ笑い始めました。(気持ち悪い……) 「、拙者も膝枕してほしいでござる。」 『はぁ?ヤだよ。疲れてんのはアタシだっつの。』 「では拙者が膝枕してやろう。」 『いらないよ!万斉の足柔らかくないから気持ちよくないもん。』 「まぁほとんど筋肉だからな……。」 こっちもこっちでそんな会話をしばらく続け、 さんはソファーの上で小さな寝息を立て始めました。 「万斉さんは報われませんでしたね。」 「そうだな……やはりこの願いは叶えられなかったか……。」 そう言いながら万斉さんが懐から取り出したのは一枚の紙。 「それは……短冊ですか?」 「まぁ、そんなものでござる。」 その短冊を覗き込むと、意外や意外、 万斉さんにしては珍しく真面目なことが書いてありました。 「それを見せれば良かったんじゃないですか?」 「いや、そうしようかと思ったが……もうしばらくはこのままでいいでござる。」 ため息混じりに微笑みながら、 万斉さんは隣で寝ているさんの頭を愛しそうに撫でた。 全くこの人は、そういう所をどんどん見せていけばさんだって惚れるだろうに。 そう言おうと思いましたが、満足そうな顔に水を差す気にはなれず、 私はそのまま平和な4人の様子を眺めておく事にしたのでした。いつかこの想いが伝わりますように
(んっ……万斉……) (……ッ!?……?) (お前それ……ガチャピンじゃなくてムックだってば……) (…………) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ とんだエセ武市先輩なんですけどこの人。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/07/11 管理人:かほ