しょうせつ
、拙者と付き合ってくれ。」

それは本当に突然の出来事だった。
どれくらい突然かと言うと、ものっそい突然だった。
調理実習でグループに分かれて作ったオムライスを食べている最中に、
ふと思い出したかのように「あ、そう言えば」で始まったくらい突然だった。

『いや……あの……。』

隣の席で私の返事を待っている河上君に、私は言葉を失う。
クラスのみんなも河上君の突然の奇行に持っていたスプーンを落っことしていた。
家庭科担当のミツバ先生だけは「あらまぁ♪」となぜか嬉しそうだ。

「は拙者の事が嫌いか?」
『いやっ、そんなことは全然……。』

むしろ河上君は私の好みのタイプだったりする。
声も顔も体型も、性格だってほとんどパーフェクトに近い。
強いて難点をあげるならば、かなり変人なところだろうか。
ただし、昨日までの私の“変人”の定義内に
授業中にいきなり告白するという項目は入っていなかった。

『河上君、悪いけど今のでアタシの中の河上君のイメージがズドンと下がったよ。』
「下がった?何故?」
『いや、何故って……そりゃあ……。』

こんな皆の居るところで告白なんてムードも何もあったもんじゃないでしょーが。
そう言ってやりたかったけど、むしろ授業中に告白する方がかなりの勇気が要るわけで、
それほど河上君が本気なのだと考えるとそれはそれで嬉しい事なのではないかと思う。
クラス中の視線がアタシと河上君に突き刺さっているこの状況で、
私はその勇気に誠意を持って応えなければならないのだ。

『うーん……まぁいっか。細かい事は気にしないでおくよ。』
「で?返事は?」
『いいよ別に。不束者だけどよろしくね、河上君。』

私の言葉に、みんなから謎のスタンディングオーベーションが湧き上がった。(何事?)
一部の男子は頭を抱えて机に突っ伏したりしてたけど、
私はこの時改めて3Zには普通の人が居なかった事を再確認した。
まぁ、こんな状況をすんなり受け入れた私も相当変な子だけどさ。

「万斉でいいでござるよ、。」
『じゃあ万斉君、とりあえずオムライス食べようか。授業終わっちゃうから。』
「があーんしてくれないと食べないでござる。」
『あっはは、付き合って早々なんて気が早いのお前!』

こうして、まだ若かった私はうっかり好みのタイプだったという理由で
突然の万斉君の告白をすんなりとOKしてしまったのでした。
今思えば、これが私の人生の最大の汚点かもしれない。
奥様は○女風にぶっちゃけるとこうなる。

実は、万斉君はド変態だったのです。





 

【私の彼は二重人格】

突然の公開告白から3日が過ぎたある日、事件は起きた。 その日は土曜日で朝から部活があり、私がいつものように帰宅すると、 自室にパンツ一丁の万斉君の姿があった。 バタァァン!!!!! 前言撤回。万斉君の姿があったような気がした、だ。 だっておかしいでしょ。何で私の部屋に万斉君?きっと幻覚だよ幻覚。 ヤッベーな、確かに万斉君は私のストライクゾーンだったけど、 告白されるまで異性として意識した事なかったのになぁ。 告白からたったの3日でもう幻覚見るまで好きになっちゃってんの? って言うかパンツ一丁じゃなかった?ヤだアタシったら発情期! これ相当ヤバいんじゃないの?アタシ病気? やだもう、華の女子高生あるまじき妄想だよ……。 明日部活が終わったらすぐに病院に行こう。 そう心に決めた私の目の前で、自室の扉がガチャリと開いた。 「、どうしたでござるか?」 『前言撤回!!!!お前が病院行け!!!!!』 『とりあえず、何でアタシの部屋に居るの?』 私はあの後とりあえず万斉君を部屋に正座させ、 この状況で反省の色も困っている様子も何も見せない万斉君の前で 腕組み仁王立ちというなんとも古典的な格好でお説教を始めた。 「母上が快く迎え入れてくれたでござる。」 『あのババァ……。』 万斉君の言葉に私は思いっきり頭を抱え込んだ。 「それに拙者達は付き合っているでござる。  これくらいの事は日常茶飯事くらいに思ってくれぬと話にならん。」 『アタシも話になる気がしないわよ。って言うかいい加減服を着ろ!!!!』 公然わいせつ一歩手前の格好で平然としている万斉君に、 私は人差し指をビシッと向けて怒鳴りつけた。 『一体どういう神経してたら付き合って3日で  彼女の部屋に無断で入り込んでパンツ一丁で正座出来るわけ!?』 「正座はがさせたでござる。」 『そうよ反省の気持ちを示させたの!でもとりあえず服を着ろ!!!!』 「これからこれも脱ぐ予定なのだが……。」 『それ以上脱ぐなァァァ!!!!!』 私は多分生まれて初めてこんなに大声でツッコミを入れたと思う。 そんな私の言葉を無視して万斉君は最後の砦も脱ぐ気満々だ。 土曜の真っ昼間っから深夜番組みたいなことになってたまるか! そう思った私は必死で万斉君を押さえ込み、 ベッドの上に放り投げられていた制服を無理やり着せようと試みる。 でも万斉君は思いっきり本気で抵抗してくるわ、 それどころかそのまま私を押し倒そうとしてくるわでもうてんわやんわだ。 昨日までのクールでカッコいい万斉君はどこへ行ってしまったんだろう。 そんな事を考えて若干気が遠くなりそうになりながら、 私は万斉君の上に馬乗りになってYシャツの右袖を無理やり通そうとしていた、 そこにコンコン、という軽快な音が聞こえ、 あろうことかお母さんがお菓子を持って部屋に入って来てしまった。 「〜、お茶とお菓子持って……まぁ!?」 『おっ、お母さん……!』 なんというバッドタイミングで入ってくるんだお母さん……! 今のこの状況を見ると、まるで私が万斉君を脱がせにかかってるみたいじゃないか! そんな私の嫌な予感は見事に的中したらしく、 お母さんは口に手を当てながらものっそい顔で私を見てきた。 「あら嫌だ!!あなた何してるの!?」 『ちっ、違う!コレはコイツが……!!!!!』 「拙者はまだ早いと言ったんでござるが……。」 『アンタ何言ってんの!?さっきまでヤる気満々だったじゃない!!』 さっきまでパンツを脱ごうとしていた男が 急にYシャツを羽織ってしおらしい態度をとるもんだから、 私は驚いたやら腹立たしいやらで全力で叫んでしまった。 そして胸倉を掴んで万斉君に抗議する私の言い分なんか聞きもしないで、 お母さんは持って来たお菓子を床に置き、ゆっくりとその場に正座した。 「ば、万斉君って言ったかしら?にしっかり言い聞かせてやってね。」 「任せて下され、母上。乱れた男女交際は拙者が食い止めるでござる。」 『アンタどの面下げてそんなこと言うの!?ねぇ!!』 「万斉君がまともな子で本当に良かったわぁ……。」 『全然まともじゃないよ!!思いっきり騙されてるよお母さん!!』 その後、部屋から出て行こうとするお母さんに必死で真実を話したけど、 お母さんは「はいはい」と聞き流してさっさと行ってしまった。 取り残された私は絶望で思わずドアに縋り付く。 こんな誤解されるくらいならいっそ押し倒された方が良かった……!!!! 「、あまり気を落とすな。」 『誰のせいだと思ってんだ、誰の!!!!』 「いやー、は積極的でござるなぁ〜。」 『何事実捻じ曲げてんの!?お前がやったんだろーが!!』 私はいつになく取り乱して万斉君に怒鳴りつけた。 そして一度深いため息をつき、制服を着込んでいる万斉君に歩み寄る。 『あのさ……付き合って3日で申し訳ないんだけど、  アタシこのままじゃ耐えられない気がするんだよね……。』 「大丈夫でござる。母上もきっと娘の成長を受け入れてくれる。」 『いや、そういう問題じゃなくてね……。アタシ、もう別れ……。』 最後の言葉を言い終わる前に、私は万斉君に押し倒された。 『嫌っ、何す……!』 「おかしいでござるな。は既に拙者の虜になっていたと思ったが?」 突然の出来事に困惑する私の顔に自分の顔を近づけて、 止めはニヤリと音がしそうなほど意地の悪い笑顔。 これには流石の私も心臓を打ち抜かれ、顔を真っ赤にして顔を逸らす。 って言うか万斉君、色々と私のストライクゾーン過ぎ……。 『ズ、ズルい!アタシがこんなのに弱いの知ってるんでしょ!』 「勿論知っているでござる。のことは一年の頃からずっと見てきたからな。」 『へっ……?一年生の頃から?』 万斉君の言葉に驚いてバッと顔を上げたけど、 いつの間にか真面目な顔になっていた万斉君に、また顔を逸らしてしまった。 「入学式の日にに一瞬で心を奪われた。  その日から後をつけたり情報収集をしたりして、  ずっとだけを見てきたんでござるよ。」 『万斉君……カッコいいこと言ってるつもりだろうけど、それ犯罪だから。』 いつの間にかストーカー被害に遭っていたという事実を突然知らされ、 私は驚けばいいのか怒ればいいのか分からなくなってしまった。 ただ一つ分かる事は、私がもう既に万斉君から離れられなくなっているという あまり信じたくない事実だけだ。 「……これでもまだ拙者と別れたいと申すのか?」 『うっ、や……!そんな泣きそうな顔でアタシを見ないで!』 「に嫌われたら、拙者生きていけぬ……。」 『分かった!別れようなんてもう言わないから!  だからそんな顔しないで!あーもう、アタシ馬鹿みたい……!』 「心配せずとも、これから立派なバカップルになるでござるよ。」 『うるさい黙れ!』 私が万斉君から顔を背けて完全に体を横に向けると、 万斉君は一瞬困った顔になり、そして優しく頭を撫でてきた。 いきなりの事にビックリしたけど、なんだか無性にドキドキして、 そんな事されたらもっと依存しちゃうだろーが!と心の中で叫びつつ、 近くにあったクッションをひったくって真っ赤な顔を埋めた。 『こっ、高校生の間はこーゆーの嫌だからね!せめてチューまで!』 「少し物足りない気もするが……まぁそれでいいでござる。」 『あと無理やりしないで!やったら嫌いになるから!』 「拙者を嫌いになれるのか?」 『がっ、頑張るもん!!』 「それは困ったな。に愛想を尽かされぬよう、たっぷり愛情表現せねば。」 そう言いながらまた優しく頭を撫でてくる万斉君に、 私のハートは完全に焼け焦げてしまったようで。 この日から、私と万斉君の恋の駆け引きという戦争が始まったのでした。

バカップルへの開始

(とりあえず今日はほっぺにチューだけで我慢して!) (そっ、そんな急にデレられたら拙者キャラを保てないでござる……) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 書き始めはまさかコレがシリーズ化するなんて思ってなかった。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/07/19 管理人:かほ