しょうせつ

「そう言えば、河上君がちゃんに公開プロポーズしたのも、
 今日みたいな調理実習の真っ最中だったわよねぇ。」

うふふ、と懐かしそうにそう言ったお妙ちゃんに、
同じ班のトシと総悟、そして万斉君の手が止まる。

「あぁ……あの公開告白の5日後に
 が真っ白に燃え尽きてたのがつい昨日のことのようだな。」
「あれは面白……いや、可哀想だったなァ。」
『ちょっと総悟。今確実に面白いって言おうとしたでしょ。』
「ブッブー、超面白かったって言おうとしたんでィ。」
『総悟のバカー!!』

ドS総悟の酷い言葉にカチンときたアタシは、
勿論本気ではないけれど、総悟をベシベシと叩いた。
それをあらあらと見ているお妙ちゃんの隣では、
何故か右手にマヨネーズを準備しているトシが深い溜息をつく。

「ところで河上、テメェのへのセクハラ被害が後を絶たねぇらしいじゃねーか。
 テメェがにセクハラする度にが真っ白な灰になってんだよ。
 いい加減止めてやったらどうだ?」

トシが珍しくアタシの味方をしてくれた。
全く持ってその通りだ!と思ってアタシが万斉君の方を見ると、
万斉君はビーフシチューを混ぜていた手を止め、真剣な顔でこう言い放った。

「嫌よ嫌よも好きのうちと言うでござる。」
『うっわ何なのこの人超ポジティブなんですけど。』
「はドMだからドギツイ方が喜ぶんでさァ。」
「総悟の言うとおりでござる。」
「黙れドSコンビ。」

まさかの最悪タッグ結成に、トシがとても冷たい目をして2人を睨みつけた。
その瞳の中には若干の諦めも含まれているようで、
アタシは改めて万斉君(ド変態)に勝てる奴なんてこの世に居ないんだなぁと実感した。

「ったく、この話はしめーだ。テメー等喋ってないで手ぇ動かせ手ぇ。」

これ以上何を言っても無駄だと思ったのか、
トシが投げやりに言いながら調理実習を再開しようと促した。
アタシもそれに賛成だったのでレタスを千切る作業に戻ろうと思ったけど、
とりあえずトシの右手に準備されているマヨネーズを食い止めなきゃな……。

「そう言えば、河上君はいつからちゃんの事が好きなの?」

アタシとトシの行動を華麗にスルーして、
お妙ちゃんがにこにこと笑いながら万斉君に質問した。
その言葉にトシが凄い顔をする。

「オイ志村、俺の話聞いてたか。」
「どうせ3年に上がってからだろィ。」
「オーイ総悟。俺の話スルーかな?聞こえないのかな?」
「何を言う。拙者がに惚れたのは入学式の日でござる。」
「分かった、お前の愛の重さは良く分かった、だから手を動かせ河上。」
『ちょっと皆!いい加減にしてよ!』
「よしいいぞ、そのまま俺の味方をし続けてくれ。」
『アタシが恥ずかしいからそーゆー話は向こうでやって!』
「違う!!この小学生みたいな会話を止めろォォォ!!!!!」

アタシ達の連携プレイにトシが盛大にツッコんだ。
って言うか、もしかして今のアタシがオチみたいな流れになっちゃった?

『冗談だってトシ、泣かないでよ。ほら、コレあげるから。』
「テメー等なんて嫌いだドチクショー。
 あっ、これマヨリンストラップじゃねーか。サンキュー。」

たまたまポケットに入っていたマヨリンストラップで機嫌が直ったトシは、
話はしてもいいけど手は動かせという条件で妥協した。
別にアタシも話をするのはいいけど、
万斉君が勢い余って変なこと言い出さないかが心配だなぁ……。

「拙者とは運命的な出会いをしたでござるよ。」
『あれ?そうだっけ?』
「それなら俺とだって、俺が新入生シメてた時にまたまた出会うという
 赤い糸で結ばれていた的な出会い方だったぜィ?」
『うん、確かに周り真っ赤だったけどね。』
「総悟お前そんなことしてたのか……。」

いきなり告げられた衝撃の事実にトシが顔を青くした。

「あれは入学式の朝の出来事だった……。
 拙者が登校していると、曲がり角からパンをくわえたが……。」
『待て待て待て!!!お前妄想も甚だしいな!!!』
「そうよ河上君。そんな少女漫画みたいな展開古いわ。」
『アタシはパンくわえたまま外に出るなんてお行儀の悪いことしないもん!!』
「ツッコミ処はそこか。」

お妙ちゃんもアタシも若干ツッコむ所がズレていたようで、
あの総悟がとうとうツッコミにまわってしまった。
この班で唯一のツッコミ役であるトシはと言うと、
何故か胸の辺りを押さえつけて小刻みに震えている。

「ちょっ……河上止めろ……それ以上はトッシーが反応してしまう……!!!!」
「……そして実はは昔家の近所に住んでいた憧れのあの子だったでござる。」
「ぬおぉぉ!!!!止めろォォ!!!!それ以上言うなァァ!!!!!」

急に頭を抱えて大声を出したトシにクラスの皆は一瞬驚いたものの、
「あぁアノ班か」と言いたげな顔をしてまた作業に戻ってしまった。
何なの……いつの間にアタシ達の班は変人の集まりっていうレッテルが貼られたの。

『ちょっと万斉君、今考えた上で言ったでしょ!』
「コイツの反応が面白いのでつい。」

アタシが万斉君を咎めると、
何事も無かったかのようにビーフシチューの味見をしていた万斉君が平然とそう答えた。

「もっとやれ河上ィ、カメラの準備はバッチリだぜ。」
『総悟も!トッシーの気持ち悪い姿をカメラに収めようとしない!』

常識人枠であるお妙ちゃんが出来上がったサラダを机に持っていってしまったので、
この変人集団をアタシ一人で捌かなければならなくなってしまった。
しかもお妙ちゃん、この変人達の相手が面倒くさくなったのか、
今度はミツバ先生の所からお箸とスプーンを持ってきて机に並べている。
ちょ、お願いだから早く帰ってきてくれないかなお妙ちゃん。

「、お主も味見してみるでござる。」
『え?アタシも?』

まだグネグネしているトッシー(トシ?)を一眼レフで連写する総悟を眺めていると、
後ろから万斉君が小さなお皿を差し出しながらそう言ってきた。
まぁ特に変わったところはなさそうだし、ちょっとお腹も空いてきたし、
別にいいかと思ってアタシはその小皿を受け取り、シチューを飲んだ。

『んー!おいしー!』
「そうか。ならもう取り分けるでござるよ。」
『うん。アタシも手伝おうか?』
「では皿を机に持っていってくれるか。」
『りょーかい!』

アタシが返事をすると万斉君は普通にシチューをお皿に注ぎ始めた。
なんかさっきから至って普通なのが逆に怖い。
アタシてっきり「間接キスでござる!」とか、
「実は媚薬が入っているでござる!」的な事を言われると思っていたのに……。

「ん?どうした?」
『え?あ、いや……。万斉君、今日は普通だなって思って。』
「何だ、普通の拙者では物足りなくなってきたでござるか?」
『べっ、別にそういう意味じゃ……!!』

万斉君の不敵な笑みに、アタシは思わず真っ赤になってしまった。
全く、どうしてこの人はいつもいつもアタシのドツボなんだろう……。
そんなことされたら、離れられなくなっちゃうじゃない。
まぁ、本人には絶対に言わないけど。




異常な愛を頂戴

(あれ……なんか急に眠たく……) (やっと睡眠薬が効いてきたか。じゃあ早速保健室に行くでござる) (ちょっと待てぇぇ!!河上テメェ何してやがんだ!!) (あらあら、結局こんなオチなのね) (ド変態とドSは一生治らねぇんだぜィ) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ このシリーズ好き! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2010/08/20 管理人:かほ