万斉さんと一緒に居るようになってからもうすぐ一年。 最近ではつんぽさんって呼ぶ方が難しいくらい、 仕事以外の時間に万斉さんと一緒に居ることが多くなった。 いやっ、別に付き合ってるからだとかそういう理由じゃなくて、 ただアタシの携帯に万斉さんの「3秒以内に来い」コールが鳴り響くからで、 いやっ!今のは別に惚気たとかそんなんじゃなくて!! あぁ……ダメだ、アタシ今めちゃくちゃ顔紅い。 ダメなんだよなぁ……。 出会って間もない頃は恐怖の方が打ち勝ってたから全然平気だったんだけど、 半年前に万斉さんにリアル求婚されてから、必要以上に意識しちゃって……。 一緒に居る時とかは万斉さんもベタベタして来ないっていうか、 普通に接してくれるから何ともないんだけど、 いざ一人になった時とか、お通ちゃんと話す時とかに色々考えてしまう。 今の表現、恋人同士っぽくなかっただろうか、とか、 今の惚気話に聞こえなかっただろうか、とか、 なんかアタシが万斉さんにメロメロっぽく聞こえない!?とか、 そもそもアタシ達別にやましい関係じゃないから!!とか!! 『だーもうダメ!!心臓爆発する!!いっそ殺せ!』 「い、いきなり何を言い出すでござる……。」 ぐるぐると考えていたことに耐え切れなくなったアタシが ガンッと音を立ててテーブルに頭を打ちつけたので、 向かい側に座っていた万斉さんがビックリしてアタシを凝視した。 『万斉さんが悪いんだからね!アタシもうムリ!お嫁に行けない!!』 「行ってもらっては困る。は拙者の元に嫁に来てもらうのだからな。」 『だからそーゆーこと言うの止めてってばぁ! アタシ駄目なの!そーゆーの恥ずかしくなるから駄目なのー!』 ジタバタとテーブルを叩きながら言うアタシに、 万斉さんがこれ見よがしに大きな大きな溜息をついた。 なにさ!アタシがジタバタするのは万斉さんが悪いんだからね! そりゃアタシもちょっと考えすぎだと思うけど、 でも、こんなの初めてなんだもん……。 『……アタシ今まで付き合ったことなんてなかったのに。』 「……冗談でござろう。」 『ホントだよ。いつも片想いとか憧れ止まりで告白とかしたことないもん。』 「ほどの美少女が今までに告白されたこともないと?」 『それはあったけど……全部断ったもん。』 アタシが机に突っ伏しながらそう言うと、 万斉さんはちょっと嬉しそうに「ふぅん、」と言った。 「では拙者がの初めての男なんでござるな。」 『そっ、そうだけど……でも万斉さん反則だからね。最初脅したから。』 「脅したなどと人聞きの悪い……あれは照れ隠しでござる。」 『照れ隠しで“殺す”なんて言われちゃたまったもんじゃないよ!』 アタシは料亭事件の事を思い出しながら不満たっぷりにそう叫んだ。 そうだよ!万斉さんアタシに向かって確かに「殺す」って言ったもの! そもそもアレが恐怖の原因だったんだよね。 アタシが万斉さんのこと怖がってたのは全部万斉さんが悪いんだから! しかしそんなアタシの抗議なんて微塵も堪えていないようで、 万斉さんは涼しい顔で「それは愛ゆえにでござる」なんて言い出した。 何なのこの人、全然反省してないじゃない!もう、万斉さんのバーカ! 声に出したら後が怖いから、アタシは心の中でそう叫んだ。 『……そう言えば万斉さんって、アタシと居る時ヘッドフォン取るよね。』 「ん?あぁ……の声が聞きたいからな。」 『いつもは何聞いてるの?』 「んー……いや……。」 アタシの何気ない質問に、万斉さんは明らかに動揺した。 『何?もしかしてエロいやつ?』 「エロくはないが……。」 『…………?』 やましいもの聞いてないんならすぐに答えてくれればいいのに、 万斉さんは言いにくそうに「んー、」と言葉を濁していた。 その態度にアタシが小首を傾げると、万斉さんはさらに困ったように頭をかいた。 「にはあまり聞かせたくないのだが……。」 『何で?やっぱりエロいやつなんでしょー。それともアニソン?』 「そんな生温いものではござらん。」 『えっ……それ以上って想像つかないんですけど……。』 エロよりもアニソンよりも上に位置するヤバい音楽って何!? 人に聞かれて恥ずかしい音楽って何ー!? 今まであんまり気にならなかった万斉さんのヘッドフォンだけど、 そんなに出し惜しみされたらすっごく気になっちゃうじゃない……! ちょっと聞くのが怖い気もするけど……やっぱり聞きたい! 『ねぇ聞かせて?』 「駄目でござる。」 『ねぇお願い!絶対に引かないから!』 「……絶対に引かないな?」 『うん!』 「拙者の事を変な目で見ないな?」 『うん!見ない!』 アタシが元気よく返事をすると、 万斉さんはまだしばらくどうしようか考えていたけれど、 じゃあ、と渋々ヘッドフォンを渡してくれた。 アタシはそれを頭にはめて、結構大きめだったので両手でしっかり固定した。 あのどんな変なこと(例えばお通ちゃんの曲)でも 平気な顔でやってしまう万斉さんが出し惜しみしたものだから、 かなり変なものなんだと、ある意味かなり期待してたんだけど……。 『……ん?これアタシ?』 そう、ヘッドフォンから聞こえてきたのはアタシの声。 どうやら、万斉さんはアタシが出演したドラマとかバラエティから アタシの声だけを取り出して聞いていたみたい。 確かに普通の人のやることではないけれど、そこまで引く事でもないような……。 『この台詞、こないだのドラマの台詞だ。 万斉さんまさかいちいち録音して聞いてるんですか?』 「の声は何度聞いても飽きぬからな。」 『なっ、何か恥ずかしいなぁ……ん?』 アタシが万斉さんのセリフにキュンときて頬を赤らめていると、 急にヘッドフォンからアタシが言った覚えのない台詞が聞こえてきた。 『……万斉さん、なんかアタシに似てる声で とんでもない言葉が聞こえてくるんですけど……。』 「それはの声でござる。」 『えっ?いや……アタシ“万斉さん大好きにゃん♪”とか、 “お兄ちゃん♪”とか言った覚えないんですけど……。』 アタシは静かにヘッドフォンをはずしながら冷静を装ってそう言った。 他にもヘッドフォンからは 『もう駄目!押し倒して!』とか、『お弁当作ってきたにゃん♪』とか、 『べ、別にアンタのこと好きじゃないんだからね!』とか、 すこぶるバラエティに富んだ台詞の数々が聞こえてきた。 「それはっぽいどといって、 の声をベースにして自由に喋らせる事が出来るんでござるよ。」 アタシの顔が明らかに真っ青になっているというのに、 万斉さんはご丁寧にもこの謎の台詞のタネ明かしをしてくれた。 いや、そんなもん聞いてもアタシには何の得も……って言うか、 逆にさらに顔が青ざめてきたんですけど……え、何て?っぽいど? 『……あ、あのね、万斉さん。』 ヘッドフォンを万斉さんに手渡しながら、アタシは勇気を振り絞って言葉を紡いだ。 『引かないって約束したけど……ちょっとだけ引いてもいいですか? ほんのちょっとだけだから。半歩程度だから。』 「むしろ歩み寄ってきてほしいのだがな。」 『それは無理!』 この時初めて、万斉さんの愛の重さに挫けそうになりました。好きの度合いで主従恋愛
(せっかく万斉さんのこと好きになりかけてたのに……) (なりかけてたって……拙者の事が嫌いか?) (いっ、いや……す、好き……ですけど……) (……、もう一度言ってくれ。録音するから) (…………) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ いや、やりそうだよね、万斉(笑) ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/01/01 管理人:かほ