しょうせつ
、拙者らの船に来るでござるよ。」

そんな万斉さんの気まぐれによって、アタシは鬼兵隊の船に出入りし始めた。
アタシを呼んだ理由というのが、自分が率いるテロの予定が入ってたけど
急にアタシに会いたくなったとかいう自分勝手極まりない理由なんだけど、
そのおかげ(?)で今では鬼兵隊の人たちとは結構仲良しだ。
中でも鬼兵隊の紅一点であるまた子ちゃんとは親友と呼べるくらいの仲の良さで、
アタシが万斉さんに呼び出されてこの船にやって来た時は
一緒に武市先輩に悪戯したり晋助さんと一緒に遊んだりしている。

今日も例に漏れず万斉さんからの「3秒以内に来い」コールが鳴り響いたので、
町外れの港に止まっていたこの船に乗り込み、
只今万斉さんを探している真っ最中だったりするのである。

「あれっ、ー!また来てたんスかー?」
『あっ、また子ちゃん!こんにちはー。』

アタシは廊下を歩いている途中でまた子ちゃんに出会い、軽く挨拶を交わした。
よーく考えてみればこの可憐なまた子ちゃんだって、
あの国際的テロ集団鬼兵隊のメンバーなんだよなぁ……。
別に今となっては全然怖くも何ともないけど、テロリストとお友達になるなんて、
あの辻斬り現場目撃事件の時には思ってもみなかったなぁ。
ホント、人生って何が起こるか分かったもんじゃないよね。

「!暇なんだったら万斉先輩のグラサンでも取ってくるッスよ!」

また子ちゃんは出会い頭にそんなとんでもない無茶振りを平然と言ってのけた。
それに対してアタシは当然の如く首を横に振る。

『えぇっ!?ムリだよ!いくらアタシでもそれはムリ!』
「何でッスか!は万斉先輩の彼女っしょ?
 だったら色仕掛けの一つや二つ仕掛けて、サクッと取ってもらうッスよ!」
『嫌だよ色仕掛けなんて恥ずかしい!それに仕掛けたとしても無理だってば!』

どうやら鬼兵隊内では“アタシ=万斉さんに何やっても許してもらえる”という
謎の方程式が成り立っているらしく、
鬼兵隊に遊びに来る度に必ず隊士の人からこういう無茶振りをされる。
でも実際には鬼兵隊の人が思っているほど万斉さんはアタシに対して甘くない。

……いや、甘くないといえば語弊がある。かなりある。
確かに万斉さんはアタシを溺愛してくれてるし、とっても大切にしてくれてる。
「3秒以内に来い」コールは日常茶飯事、
鬼兵隊やら高級料亭やら屋形船やら楽屋やらスタジオやら、
どんな時もどこに居ても常にアタシを傍に置きたがる。

しかも最近ではかなり束縛されてきていて、嫉妬が目に余るようになった。
ここ半年アタシと共演した男優さん達が次々と謎の怪我をするという事件が起こり、
それを万斉さんに問いただしたところ、「つい嫉妬で」という答えが返ってきた。
これは別に自意識過剰とか惚気とかそんなんじゃなくて、
客観的に見ても、最近アタシへの愛が留まるところを知らない。

例のヘッドフォン事件の時からちょっと異常だとは思ってたけど、
正直そろそろ万斉さんの愛に耐え切れなくなってきたところだったりする。
先日勝手に確信したんだけど、万斉さんって絶対ヤンデレだと思うの。
ホント怖い。昔と違う意味で、ある意味ホント怖い。

そんな万斉さんでも、何故かグラサンだけは何を言っても外してくれない。
素顔を見られるのが嫌なのかな?とも思ったけど、
近くで顔見たりすると結構透けて見えるもんだし、
尋ねてみても「これはアイデンティティだから」という理由だったりするので
本当のところは分からないままなのだ。

『万斉さん、グラサンに対してだけは厳しいから、
 いくらアタシでもアレを外すのはムリだよー。』
「そうなんスか?だったら無理やり剥ぎ取るッスよ!
 あたしが注意を逸らしてる間に、後ろからガバッと!」
『えぇー?』

どうやらまた子ちゃんは本気らしく、
とってもイイ顔でアタシにそんな無茶なことを提案してきた。
別に素顔が気にならない訳じゃないけど、
でも無理やり取ったりしたら後で怒られそうだしなぁ……。
アタシはしばらく『ううむ、』と考え込んで、
まぁまた子ちゃんも連帯責任だしいっか!という結論に辿り着いた。

『よし、やろう!また子ちゃん!』
「よっしゃ!そうと決まれば早速行くッス!」

こうしてアタシ達はベタな作戦を練って万斉さんのところへ向かった。
鬼兵隊の広い船内を捜していると、意外にも万斉さんはすぐに見つかった。
ミーティングルームでソファに座りながら雑誌片手にくつろいでいる。
ちなみに、チラッと見えた雑誌の表紙にはアタシが写っていた。
きっとアレは一ヶ月前くらいに撮ったグラビアの仕事だ……何で読んでるの?

「よし、じゃあは後ろから周りこむッスよ。」

また子ちゃんはそう言うと小さな木箱を持って万斉さんの元へと歩いて行った。
アタシは言われたとおり、万斉さんに気づかれないように後ろへまわる。

「万斉先輩、晋助様がこの箱の中身を調べろって言ってたんスけど。」
「ん?箱の中身?何故拙者が……。」

こんなベタな会話でも、万斉さんの意識は箱に逸れていた。
その隙にアタシはゆっくりと万斉さんに近づき、そして――

『万斉さんゴメンなさい!!!!』

アタシはそう叫びながら万斉さんのグラサンを後ろから剥ぎ取った。
すると万斉さんは思ったよりも驚かなくて、
ただ咄嗟に顔を見られないようになのか下を向いてしまった。
どうやらアタシが後ろから近づいているのはバレていたようだ。
でもきっと万斉さんのことだから、
『だ〜れだ☆』的な展開を期待していたんだろう……本当にゴメンなさい。

「でかしたッス!さぁ万斉先輩!観念するッスよ!」
『万斉さんホントごめんなさい!でもいいじゃないですか素顔くらい!
 アタシ別に万斉さんの目がベタな3でもビックリしませんから!』

また子ちゃんとアタシが俯いている万斉さんにそう声をかけても、
万斉さんは黙ったままで何も反応してくれない。
これには流石のアタシ達も本気で怒らせたんだと思い、
お互い冷や汗をかきながら顔を見合わせ、万斉さんに謝ることにした。

「ば、万斉先輩……ごめんなさいッス。」
『まさかそんなに怒るとは思わなくて……本当にゴメンなさい。』

そう言いながらアタシが万斉さんの肩に手をかけたまさにその瞬間、
下を向いたままの万斉さんがいきなりアタシの手をガッと掴んだ。
コレにはアタシもまた子ちゃんも本気で驚いて、
同時に「『ヒッ!?』」と息を呑み、体を飛び跳ねさせた。

『あ、あの、万斉さん、本当にゴメンなさい……!』
「……。」
『はっ、はいぃ!』

やっと喋ってくれたかと思ったら、まさかのアタシだけ集中攻撃。
バッとまた子ちゃんを見て助けを求めたけど、
また子ちゃんは首をブンブン横に振って「無理」の合図を出した。

「何故拙者がお主に素顔を見せなかったのか……分からんか?」
『えっ!?あ、あの……やっぱり、見られるのが嫌……とか……?』

震える声でそう答えれば、意外にも万斉さんはあっさりと顔を上げた。
その顔は想像してたよりもオッサンっぽくて、
ちょっと疲れてる目元なんかが何とも言えず色っぽかった。
きっと普通の状態でこんな万斉さんの顔を見たらキュンとしたんだろうけど、
今は左手が拘束されてて、その上怒られてて睨まれてるからね。
とてもじゃないけどキュンなんて甘っちょろい事を出来る状態ではなかった。

「不正解でござる。、少しばかりおいたが過ぎたようでござるな。」
『へっ……!?あ、あの……。』
「拙者の素顔はを犯すその日まで大切に取っておこうと思っていたのだ。
 それをこんな悪戯で晒す羽目になるとは……。」

万斉さんの言葉に、また子ちゃんとアタシの顔が同時に青く染まっていった。
今なんか、とっても危険な言葉が聞こえたような……。

「、覚悟は出来ているのでござろうな?」

引きつり笑いをするアタシに、万斉さんはとっても妖しい笑みでそう囁いた。
あぁもうダメですその顔、その声、完全にクリーンヒットです。
もうホント、万斉さんがカッコ良すぎてアタシ頭がフラフラする。
冷や汗ダラダラで心臓が爆発しそうなくらいドキドキしてる。
これは恋のときめき?いやいやいや……んなわけないじゃん。

『ばっ……万斉さん……その、本当にゴメンなさっ……。』
「素顔は拙者がを組み敷く時に。この夢、今しかと果たしてもらおうか。」

その日、アタシは生まれて初めて朝帰りというものを経験しました。




惚れた弱みで

(おんや?また子さん、さんが遊びに来ていると聞いたのですが……) (しっ、知らないッス!!あたしは何もしてないッス!!) (…………?) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ まさかの朝帰りオチでした。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/01/02 管理人:かほ