それは本当に突然の出来事だった。 あたしが何となしに晋助様の所にでも行こうかと廊下を歩いていた時、 いつもあたし達が会議で使っている部屋からと万斉先輩の声が聞こえてきた。 声が聞こえてきたって言っても別にエロい感じじゃなくて、 むしろかなりどうでもいい内容の話をしていたんだけど、 その喋り方と言うか、語尾がどうしても気になって、 あたしは進行方向を90度変えてその部屋へと入って行ったのだ。 『そー言えば晋助から聞いたけど、 アンタこないだの任務でヘマしたんだっ天丼よりも牛丼派。』 「ヘマなどしていないでござルフィの腕めっさ伸びる。 あれも作戦のうちだっふんだ。」 あたしは部屋の奥の机に腰掛けながら向かい合わせになって話している2人を、 じばらくの間入り口付近から遠巻きに見つめるしか出来なかった。 だってお前アレ、話しかけづらいって言うかアレ……。 『何が作戦ダックスフンド! アンタめちゃくちゃボロボロじゃないカーテンのシャーのやつ!』 「これは拙者が個人的にあの銀髪に負けただけであって、 任務には何の影響もなかったでござルーマニアの村長。」 「…………。」 あたしは一度大きく深呼吸をして、2人の会話にツッコむことを決めた。 そしてゆっくりと部屋の奥へと歩いていく。 『でも任務失敗してんだロッテンマイヤーさんの顔めっさ怖い。』 「逃げるのもまた攻撃というでござルーマニアの店長。」 『言わねぇよもぎ飴。』 「……何だその不味そうな飴わんこそば。」 『うるサイの口めっさデカい。』 「オイ。」 あたしが声をかけると、2人は特に驚いた様子もなくこちらを振り向いた。 「ちょっといいッスか?」 『んー?なぁにまた子ちゃんこそば。』 「それッスよそれ!!!さっきから何なんスかその変な語尾!!」 「そうでござるよ、ちゃんこそばはないでござルーマニアの長老。」 「そーゆー問題じゃないッス!!!!!」 のボケにさらにボケで攻めてきた万斉先輩に、 あたしは怯むことなくバッサリとツッコミを入れた。 すると2人はお互いに顔を見合わせて不思議そうな表情を浮かべている。 「さっきからわんこそばとかルーマニアとか、何なんスかそれ!」 『あぁ、これ?お通語で喋るゲームしてんのヨードチンキ。 負けた方が勝った方の言うこと何でも一つだけ聞くっていうルールでんぷん。』 「そ、そんな頭の悪いゲームを……。」 『頭悪くないヨーヨー釣り!これ結構頭の回転いるんだかランドセル!』 あたしが心底呆れながら顔を歪ませると、 が憤慨したようにあたしに反論してきた。 これがあの戦場の舞姫と恐れられたの成れの果て……。 あたしは時の流れっていうのは残酷なものなんだと身をもって実感した。 「って言うか万斉先輩、アンタは基本的に語尾が“ござる”なんスから、 途中でネタ切れになって負けは目に見えてるっしょ?」 あたしはムーっと頬を膨らませているから 隣で涼しい顔をしている万斉先輩に視線を移した。 この人いっつも思うけど、真顔で変なことしてるよな……。 さっきから表情一つ変えず、何の恥じらいもなくお通語使ってるし。 やっぱり寺門通のお通語をプロデュースして キャラ作りをしたのも万斉先輩なんだろうか。 「そこはちゃんと考えているでござルーマニアの運転手。」 『コイツさっきからルーマニアで攻めて来てんのたうち回って死ね万斉。 アンタ次ルーマニア使ったらアウトだかん納豆。』 「ルーマニアを封印されたら 拙者勝てないでござルクセンブルクで結婚式をあげよう。」 『断るんば。』 「…………。」 真面目な顔で、しかも超いい声で、 さらにはの手を握ってかなりカッコつけて出てきた言葉がルクセンブルク。 そりゃも断るわ、というツッコミよりも何よりも、 そろそろ万斉先輩のキャラが本格的に分からなくなってきてまた子は涙目です。 と言うか、さっきからお通語ゲームに付き合っているもだ。 一体このゲームに勝って何の意味があるんだろうか。 相手に一つ言うことを聞かせることと引き換えに、 人として、いや、シリアス敵キャラとして大事な何かを失っているような気が……。 「まぁ……アレッスね、2人が幸せそうで何よりッス。じゃああたしはこの辺で。」 『あぁん待ってよまたこちゃんこ鍋! さっきからコイツと2人で鬱陶しかったところなノリ弁! 女の子の爽やかな風をアタシにちょーだ芋焼酎!』 「何!?貴様、浮気でござる蚊に咬まれたら叩いとけ!」 『女の子相手に浮気も何もないでしょー蛾に咬まれて死ね万斉!』 部屋を立ち去ろうとしたあたしの服の袖を引っ張ったに、 かなり焦点がズレている言葉を投げかけた万斉先輩。 もう浮気でも何でもいいから、あたしをこの場から解放してほしいッス……。 「あ、あの、、万斉先輩、あたし晋助様に呼ばれてるッスから……。」 『じゃあアタシも一緒に行くようかん食べたい!』 「そんなもの拙者が買ってやるから拙者の下で足掻け!」 『あれ!?お前今のお通語っぽいニュアンスだったけどちょっと違くない!?』 長時間にわたるお通語ゲームとの浮気疑惑(?)で思考回路がショートしたのか、 万斉先輩がまさかのミスを犯し、 (って言うかもっと重大な何かを犯してるような気がするけど、) この下らない勝負はの勝利という形で幕を閉じた。 『やったね!これで万斉に何でも一個命令できるぞーい!』 「クッ……拙者としたことが……!」 どうやらどんなに下らないゲームでも負けたことは一応悔しいらしく、 わーいと両手を挙げて喜ぶの前では 机にガンガン拳を振り上げて悔しがる万斉先輩の姿があった。 『じゃあ万斉!アタシからの命令です!』 「……致し方ない。拙者も男でござる。どんな要求でも聞き入れよう。」 『今度のお通ちゃんのライブ、プロデューサー席で一緒に見せて♪』 「「は?」」 きゅるんと小首を傾げて非常に可愛らしい笑顔で言ったに、 あたしも万斉先輩も意表を突かれて同時に間抜けな声を出してしまった。 「ラ、ライブ……?まさかそんなことの為にさっきの下らないゲームを!?」 『だから下らなくなんかないってばー! めっちゃ頭使うの!もう知恵熱出そうなのー!!』 「……本当にそんなことでいいんでござるか?」 地団太を踏むを唖然と見つめる万斉先輩に、 はキョトンとした顔で言葉を返す。 『そんなこと?だってあそこ関係者以外立ち入り禁止でしょ? ガードマンとか居るし、入るの難しいんじゃないの?』 「それはそうだが……いや、承知したでござる。 次のライブにはも一緒に連れて行こう。」 『ホントに?やったぁー♪』 両手を挙げて、今度はくるくる回りながら喜んでいるの姿に、 万斉先輩はふっと優しい笑みを浮かべていた。 なんか、この2人を見てると今日も平和だなぁって思うなー。 テロリストがこんなに平和でいいのかと甚だ疑問ではあるけれど、 とりあえず、と万斉先輩を見ていたら癒される……ような気がする。 そんな感じで心が温かくなっていたあたしの表情は、 ふいに聞こえてきた万斉先輩の呟きによって一瞬で凍りついた。 「密室でと2人きり……思わぬ幸運でござる。」 万斉先輩の優しい微笑みが妖しい微笑みに変わった瞬間、 あたしは信じられないほど静かに部屋を出て行った。文字通りの馬鹿ップル
(晋助様……万斉先輩とを仲間に入れたのは間違いだと思うッス) (何だいきなり……また何かやらかしたのか?) (さっきお通語ゲームで盛り上がっててかくかくしかじか) (そうか……じゃあ次地球に行った時にでも置いてくるか……) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ お通語ってマジで頭使うと思うん大根おろし。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/01/31 管理人:かほ