昨日のうちに万斉君にあげるガトーショコラは作っておいたから、 今日は家に帰って万斉君にメールして渡しに行けばいいだけね。 アタシは午前中の部活が終わった帰り道、 そんな事を考えながら家に向かって歩いていた。 今日は恋人達の一大イベント・バレンタインデー。 出来れば学校で渡したかったんだけど、今日は土曜日なので学校はお休み。 軽音部は基本的に万斉君の気分で活動するから今日はお休みだったし、 渡す機会がなかったんだよなぁ……。 でもまぁ休みの日に連絡取り合ってわざわざチョコ渡しに行くのって、 なんか恋人同士って感じでロマンティックだから別にいいんだけどね。 アタシは内心うきうきしながら玄関の扉を開け、 そのまま2階にある自分の部屋へと向かった。 そして、自分の部屋のドアを開けた瞬間、秒速0.2秒でそのドアを閉めた。 『あ、あれ……?何かこれデジャヴ……。』 アタシは冷や汗をかきながらその場で立ち尽くしていた。 い、いま、部屋の中に全裸の万斉君が居たような……。 いやいやいや、まさかそんな、アポなしで部屋で全裸待機なんてそんな。 いくら万斉君が変態であると言っても、 彼女の部屋で彼女に内緒で全裸待機とかそんなバカなことがあるわけ……。 「、遅かったでござるな。」 『ホンット万斉君って期待を裏切らないよね!!!!!』 アタシは例によって万斉君を部屋に押し込み、 即座に服を着せてその場に正座させた。 『何で!?何で今日は全裸待機なの!? 万斉君どんどん行動がエスカレートしていってない!?』 「いや、そろそろと合体したいと思って……。」 『恋人だからってやっていいことと悪いことがあるよ!!!!! しかも何そのバケツに入った大量のチョコレート!!』 「バレンタインといえば全身チョコレートプレイでござる。」 『何それ!?初めて聞いたけどそんな気持ち悪いプレイ!!』 アタシは全く反省の色を見せない万斉君に 力の限りツッコミという名のお説教をしてやったけど、 途中で怒りを通り越して呆れたと言うかドン引きしてしまったので、 大きな大きな溜息をついた後、万斉君の正面に座り込んだ。 『万斉君さぁ、付き合って間もない頃も同じような事したよね……。』 「あれはパンツ待機でござるよ。」 『何それ技名?万斉君って露出狂だよね。』 「それは誤解でござる。拙者が脱ぐのはの前だけでござる。」 『万斉君知ってた?それって立派な犯罪なんだよ?』 まぁこんな正論を吐いたところで万斉君の耳には一切届かないことは 付き合って1年目のアタシには嫌というほど理解できるわけで、 この異常な変態的行動も万斉君の愛なんだと思えば我慢でき…… いややっぱ無理さすがに部屋で全裸待機は受け入れられないよ愛が重すぎる! 『万斉君って本当に残念なイケメンだよね……。』 「イケメンなどと……褒めすぎでござるよ。」 『そういう都合のいいところしか聞かないタフさも好きだよ。』 「拙者もを愛しているでござるよ。」 『あはは……ありがと。』 なんか、さっき叫んだ分よけいに疲れたな……。 クリスマスに全裸靴下で部屋に居た時もそうだったけど、 万斉君の奇行にいちいちツッコんでたらこっちの身が持たないや。 って言うか付き合い始めがパンツでクリスマスが靴下オンリー、 今日は全裸ときたら次は一体何を脱ぐつもりなんだろうか。 理性という名の皮を脱ぎ捨てたとか言われたらどうしよう……。 『そういえば万斉君、 今日はバレンタインのチョコレート取りに来てくれたんだよね?』 アタシが気を取り直してそう質問したら、 万斉君はしばらく考えて「あぁ、」と納得したような声を出した。 「そういえばそうでござった。当初の目的をすっかり忘れていたでござる。」 『全裸でバカなことしてるからだよ万斉君。』 アタシは力なくそうツッコんで、 鞄を机に乗せようと立ち上がりながら言葉を続けた。 『あのね、チョコレートなんだけど、今年は初めて手作りするからって、 気合入れてガトーショコラ作ってみたんだ。』 「初めて?」 『うん、そう。アタシ今まで彼氏とか居なかったし、 バレンタインにチョコ手作りとか初めてなの。』 アタシが鞄を机の上に置きながらそんな話をしていると、 万斉君の「ふぅん……」という意味ありげな声が聞こえ、 背中越しに万斉君の立ち上がる音が聞こえてきた。 何で立ち上がったんだろうと思ってアタシが振り返ると、 すぐ目の前に万斉君の顔があって、そうかと思うといきなり唇を奪われた。 『んっ、んんっ……。』 突然の出来事にアタシは思わず目を瞑り、万斉君のYシャツを固く握り締めた。 自分の顔が真っ赤に染まっていくのが感じ取れる。 『んっ……はぁっ、ちょっ、やだっ……!』 「では、の初めてを頂くとするでござる。」 『いやっ、だからそーゆーのは高校卒業してからだってば!』 「何を誤解している。の初めての手作りチョコを頂くんでござるよ。」 そう言いながらもジリジリと顔を近づけてくる万斉君に、 とりあえずアタシはデコピンをお見舞いしておいた。 『ばっ、万斉君のバカ!』 「何を怒っているでござる。キスまではセーフという約束でござろう。」 『そっ、それでも今のは反則!』 「もしや……本当に押し倒されると思ったんでござるか?」 頭の上でニヤリと意地の悪い笑みを浮かべられ、不覚にもキュンとしてしまった。 あぁもう、どうしてアタシ、万斉君のこういうSっ気に弱いかなぁ……。 『ズ、ズルいよその顔……変態のくせに。』 「……お主言うようになったでござるな……。」 『もうっ、離れて!今から下にガトーショコラ食べに行くんでしょ!』 「そうでござったな。では行くか。」 どんなに変態的な行動をされても、どんなに意地の悪い笑みを浮かべられても、 結局はたかだか一階まで降りるのに仲良く手を繋いじゃうんだから、 ホント、アタシはとことん万斉君に甘いみたいです。君という名の甘味中毒
(万斉君は本当に礼儀正しくていい子ねー) (いやいや、それほどでも) (騙されてる……騙されてるよお母さん……!) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 万斉君と一緒に、ハッピーバレンタイン! ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/02/14 管理人:かほ