口を尖らせてムスッとしている万斉先輩がツボに入ったのか、 先輩は今にも『可愛いぃー!!』と絶叫しそうな勢いで顔を緩ませていた。 とは言っても、傍から見れば普段の先輩の笑顔と何ら変わりはないと思う。 一番近くで先輩を見てきているあたしだからこそ分かる変化の範疇だ。 『他の男の人にキスするの止めてほしいの?』 「…………。」 先輩が尋ねても、万斉先輩はまだ拗ねた子供のような顔をしていた。 その顔が思ったよりも可愛かったのか、 こちらから見える先輩の後姿が小刻みに震えていた。 多分あの人身悶えるのを我慢してるんだろう。 万斉先輩が今どんな気持ちかも知らないであのドSは……。 『……分かった、分かったわよ。だからそんな顔しないで。 まるでアタシが虐めてるみたいじゃない。』 全く持ってその通りじゃないか! 多分、その場に居た全員が同じ事を思ったに違いない。 それでも万斉先輩はその言葉だけで満足だったのか、安心したように息を吐いた。 「それと、。」 『ん?なぁに?』 可愛らしく微笑んで小首を傾げる先輩を見てドキッとしたのか、 万斉先輩は顔を真っ赤にして先輩から勢いよく目線を逸らした。 そしてしばらく押し黙った後、目線はそのままで万斉先輩が喋り出す。 「もう、拙者以外の男にベタベタするのは止めるでござるよ……。」 『…………。』 真っ赤に染まった顔で困ったようにそう言う万斉先輩に、 先輩はとうとう耐え切れなくなったのか、 自分の口元をバシッと両手で覆って万斉先輩に背を向けた。 俯いていたので顔は確認できなかったが、その肩はやっぱり小刻みに震えていた。 「ど、どうした?」 先輩の突然の行動に万斉先輩がオロオロしながら声をかけると、 身悶えていた先輩がどうにかこうにか立ち直り、 まだニヤけている顔をあたし達の方に向けてこう言い放った。 『武市さぁん!そういうことなんで、 今夜予約してたホテル、あれキャンセルしといて下さーい!』 「ホテル……?」 先輩が放った爆弾に、その場に居た全員が一瞬で血の気を失った。 「た、武市先輩……。」 「あのアマァ……。」 あたしが哀れみを込めた目で武市先輩の顔を見ると、 武市先輩は今までに見たことないくらい怖い形相で先輩を睨みつけていた。 この変態ロリコン野郎にもこんな顔できるんだとこっそり感心していると、 さっきとは比べ物にならないくらいの殺気を帯びた万斉先輩が 刀に手をかけながらゆらりとこちらへ歩み寄ってきていた。 そんな万斉先輩の様子に身の危険を感じたのか、 武市先輩がその場でガタッと立ち上がり一目散に反対側の出口へと駆け出した。 するとそれを追いかけるようにして万斉先輩も走り出す。 「さんあなたいつか痛い目みせてあげますからねぇぇ!!!!」 「待て武市ィィ!!!!」 そんな叫び声を食堂内に響かせながら、 2人は凄まじいスピードで食堂から出て行った。 『あっはは!やだもう万斉可愛い!何なのあの子おバカさんなの? 何度も同じ手に引っかかっちゃって……あはははは!』 鬼気迫った2人の後姿を見送った後、 先輩がそんな事を言いながらバシバシとテーブルを叩いて笑っていた。 そんな先輩の反応に、あたしはただ苦笑する事しか出来なかった。 「先輩……アンタって人は……。」 あたしがそう呟いてしばらくしてから、 2人が出て行った方の扉から呆れた顔をした晋助様が入ってきて、 真っ直ぐにあたし達のテーブルへと歩み寄ってきた。 「オイ、テメェまた万斉をからかっただろ。」 『あっ、晋助見た?もうホント可愛いんだからアイツ!』 言いながらまたケラケラと笑い出した先輩に、 晋助様は頭を振りながら呆れたように大きな溜息を吐いた。 「テメェなぁ……いい加減アイツをからかうのは止めたらどうだ。」 『あっはは、いや、止めよう止めようとは思ってるんだけどさ……!』 「えっ!?先輩、止めようっていう意思はあったんスか!?」 あたしが驚いてそう声をあげると、 先輩が落ち着きを取り戻しながら『あるわよ一応、』と言った。 『イジめすぎてアタシから離れられたら困るし、 最近は飴と鞭の加減が分からなくなっちゃう時があるから、 もういっそベタベタに甘やかしちゃおうかなぁーって思う時もある。』 「先輩が?万斉先輩を?」 それはそれで想像がつかないなぁと一人思案していると、 晋助様が呆れた顔で「じゃあなんで実行しねぇんだよ」と尋ねた。 すると先輩は2人が出て行った扉を眺めながら、 これ以上ないくらいの腹黒い笑顔でこう言い放った。 『だって万斉ったらアタシが他の男と喋ってたら絶対ヤキモチ妬くでしょ? その反応が可愛くて可愛くて、ついついイジめたくなっちゃうのよねー♪』 その顔はどこからどう見ても心の底からの微笑みで、 あたしと晋助様はお互いに顔を見合わせて2人同時に肩を落とした。君のその顔が見たいから
(俺が万斉ならテメェみてぇな悪女に惚れたりしねぇがな) (あら何言ってるの?そんな悪女に惚れちゃうから万斉なんでしょ?) (先輩、ホントいつか万斉先輩に逃げられるッスよ?) (そこを上手く引き止めるのが腕の見せどころなんじゃない♪) ((………………)) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ もっとSMSMした話を書きたいなぁ。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/07/03 管理人:かほ