その日、はいつにも増してイライラしていた。 『暑い……何この暑さ。尋常じゃないんだけど。喧嘩売ってんの?』 はそう言いながらタンクトップをバタバタさせて中に空気を送り込む。 桃色のタンクトップに短パンといういかにも涼しい格好をしているはずなのに、 はさっきから暑いだのクーラーが効いてないだの文句の嵐だ。 着流しを着ている俺よりは遥かに涼しいはずなのに、 辛抱っつー言葉を知らねぇのかコイツは。 「先輩、その格好でもまだそんなに暑いんスか?」 俺の隣で扇風機に向かって「あー」をしていたまた子が尋ねると、 は眉間にしわを寄せたままで『当たり前でしょ!?』と叫んだ。 『今日の気温何度だと思ってんの!?37度よ!?37度!! 何でこんな日に限って地球に来るのよ!!Mなの!?ドMなの!?』 「うるせぇぞテメェ。大声出すなイラッとする。」 俺が顔を歪ませながらそう言えば、はフンッ!とそっぽを向いた。 「仕方ないでしょうさん。 たまたまこの時期に武器の密輸の話が入ったんですから。」 そう言っていつものようにをなだめにかかったのは、 普段のキッチリとした出で立ちを捨て、 うちわに着流しというなんともラフなスタイルに身を包んだ変平太だった。 『だったら武市さんと部下だけで来れば良かったじゃない! アタシは母艦で留守番が良かった!』 はそう叫んで恨みのこもった目で変平太をキッと睨みつけた。 「いい加減にしろ。 終わったことをいつまでもグダグダ言ってんじゃねーよ。京都の女かお前は。」 『テメーと同じ村出身だよバカヤロー!!』 「あぁん?誰がバカヤローだテメー。」 俺が言いながらに顔を近づけて思いっきりガンを飛ばすと、 は不良よろしくグリンと下から俺を睨みつけて『あぁん?』とガラ悪く唸った。 お互いこの暑さでイライラしていたんだろう、 俺たちは慌てて止めに入ったまた子と変平太に引き離されるまで、 ずっとガラの悪い顔でメンチを切り合っていた。 「ちょっと2人とも、喧嘩しないで下さいッス!」 「そうですよ?心頭滅却すれば火もまた涼し。 喧嘩なんてしていたら暑くなる一方じゃありませんか。」 また子と変平太が呆れた顔で俺たちにそう説教をたれたあと、 俺とはどちらからともなく顔を見合わせ、同時にフン!と顔を背けた。 そんな俺たちにまた子たちが溜息を吐くと同時に、突然部屋の襖がガララッと開き、 そこからいつも通りの暑苦しい格好をした万斉が入ってきた。 「ゲッ!万斉先輩、何スかその格好!」 「格好?」 「革ジャンに革パンってアナタ……。」 どっからどう見ても暑苦しいであろう万斉の格好に、2人は思いっきり顔を歪ませた。 しかし当の本人は全く暑くないらしく、 いつもよりラフな格好をしている俺たちを見回して不思議そうな顔をしていた。 「確かに今日は暑いでござるが……そこまで暑いとは思わんでござる。」 「冗談でしょう……。」 「でも確かに万斉先輩、全然汗かいてないッスね……。」 一体コイツの体はどうなってやがんだ? そんな疑問が俺たちの頭の中を駆け巡っている間に、 万斉はおもむろにの元へと歩み寄った。 「、お主ちょっと露出が多すぎるでござるよ。」 不服そうにそう言った万斉に、の顔が一瞬で歪んだ。 その表情を効果音で表すとしたら「イラッ」が一番適切だろう。 ついでに心の声を代弁すると、『テメェが露出少なすぎんだよ!!』だ。 『信じられない……。』 が地獄の底から湧き出てくるような声で呟くと、 よく聞き取れなかったのか万斉がの前に座り込みながら「え?」と聞き返した。 するとその行動にイラッときたのか、 はたまた暑苦しい格好で自分の目の前に座られたことにイラッときたのか、 もしくはその両方か、 実際のところは分からないがとにかくがまた万斉を睨みつけて顔を歪ませた。 『万斉、脱いで。』 「…………は?」 イライラした声で言い放ったに、万斉が間抜けな声をあげた。 『は?じゃないわよ。今すぐここで脱ぎなさい。』 状況を理解できていない万斉には相変わらず不機嫌な声で言葉を続ける。 すると万斉は何故か照れた様子でから視線を外した。 「い、いや……それはちょっと……晋助たちもいることでござるし……。」 『なに変な勘違いしてんのよこのド変態!! 暑苦しいナリだから今すぐ脱げっつってんのよッ!!』 盛大に勘違いをする万斉にの怒りはピークに達し、 とうとうその場でバッと立ち上がって思いっきり万斉を蹴飛ばした。 すると万斉は「どわっ!?」と驚いたように声をあげ、 反撃の余地も許されぬままに思いっきり腹部を踏みつけられた。 「オ、オイ!?」 『脱げないって言うんだったら今すぐアタシの前から消えて!目障りなのよ!!』 は万斉を見下して足でグリグリと踏み潰しながらそう吐き捨てた。 それがよっぽど痛かったのか、 ドMの万斉が結構真面目に痛がりながらの足を退けようと奮闘している。 「ちょ!!痛いでござる!」 『はぁ?聞こえないわねぇ。ゴキブリが偉そうに人間様の言葉喋ってんじゃないわよ。』 「いたたっ!お、お主相当イライラしてるな……!? 分かった分かった!今すぐ着流しに着替えてくるからッ……!」 『はぁ!?お願いしますは!?』 「いだだだだ!!!!」 そんな万斉の断末魔に、俺たち3人は同時に顔を見合わせて深い溜息を吐いた。暑さは人を狂わせる
(はぁっ……はぁっ……死ぬかと思ったでござる……) (万斉先輩、大丈夫ッスか?) (あ、あぁ……) (でも今のはアナタも悪いですよ。そんな格好で現れるから) (そうでござるな……しかし、に踏まれるのも悪くはなかった……) (喜んでんじゃねーよこのドM) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ よりSMっぽい感じに仕上がっております。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/07/09 管理人:かほ