しょうせつ

「万斉先輩っていつから先輩のこと好きだったんスか?」

あたしは前々から気になっていたことをふと口にしてみた。
すると刀の手入れをしていた万斉先輩と、
次の取引きの話し合いをしていた晋助様と武市先輩が一斉にあたしの方に振り向いた。

「おんや?そう言えばまた子さんは一番最後に鬼兵隊に入って来たんでしたね。」
「あぁ……あの事件を知らねぇのかお前。」
「あの事件?」

武市先輩と晋助様の言葉にあたしが小首を傾げると、
眉間にしわを寄せた万斉先輩が2人の方を振り向いて
不機嫌な声で「事件呼ばわりするな」と言った。

「いや、あれは事件だろ。万斉ドM発覚事件。」
「え!?何スかその事件!」

予想外の事件名にあたしが顔を歪ませてそう声をあげれば、
武市先輩が「ごほん、」と一つ咳払いをしてことの詳細を話し始めてくれた。

「あれは万斉さんがこの船に初めて来た時のことです――」

その日、晋助様が巷で噂の人斬りを鬼兵隊に連れて来るというので、
鬼兵隊はちょっとした緊張感に包まれていた。
これでまた戦力が上がるな、と喜ぶ隊士たちの中で、武市先輩だけは
「頭脳派をもっと増やしてほしいんですがねぇ……」
と小さな溜息をついていたそうな。

『まぁまぁ武市さん、頭脳派ならアタシが居るじゃないですか。』

隣でそう言った先輩に、武市先輩は大きな溜息を吐いた。

「確かにアナタは頭はキレますが、破壊神の方が本職でしょう。」
『あぁ?誰が破壊神だコノヤロー。』

先輩は言いながら武市先輩の胸倉を掴み、
周りに居た隊士たちが慌ててそれをなだめにかかった。
すると、

「オイテメー等。何遊んでやがる。」

そんなクールな声と共に、
晋助様が人斬りを引き連れて鬼兵隊の母船に帰ってきた。
その姿を確認した途端、鬼兵隊の連中は一気に身を引き締める。
しかしその中でも先輩だけはのんべんだらりと2人の方を向き、
晋助様の後ろを歩いていた万斉先輩に向かっていきなりこう言い放った。

『グラサンにヘッドフォンってアンタどんだけ外界との接触嫌いなの?
 それが自分のアイデンティティだと思ってんの?バカなの?中2なの?
 もし良かったらお姉さんが2つともひんむいてあげようか?』

一応言っておくが、この2人は今日この時が初対面である。
初めて会った人斬りにこんな暴言を吐ける先輩も先輩だけど、
この後の万斉先輩の反応がこれまた奇妙と言うか異常と言うか……。
とりあえず、この発言で万斉先輩は
入隊早々みんなから「ドM」の称号を与えられる事になったのだ。

「拙者、そこまで罵られたのは生まれて初めてでござる……。
 お主面白い女でござるな。拙者の妻になってくれ。」

そう言ってさんの手を握った万斉さんは、
数秒後には頭から血を流して床に転がっていたんですよ。
そこまで言って、武市先輩はやりきった顔をした。

「えっ……万斉先輩、本当にそんなこと言ったんスか?」

自分の発想では到底思いつかなかったその展開に、
あたしは思わず眉間にしわを寄せながら万斉先輩に尋ねてしまった。
すると万斉先輩は涼しい顔で「本当でござる」と答えてくれる。
普通の人間なら怒るかキレるかするであろう場面で、
寄りにも寄って「妻になってくれ」はないっしょ万斉先輩……。

「もしお前が変態ドMだって分かってたら引き抜かなかったんだけどな。」
「晋助さんも見る目がないですねぇ。」
「お前に言われると余計にヘコむわ。」

晋助様はそう言って、部下に変態が増えていく……と頭を抱えた。

「ま、まぁ、万斉先輩が先輩に一目惚れだったってのは分かったッス。」

元はと言えばあたしが万斉先輩に質問したせいでこうなったわけなので、
とりあえずあたしはその場をまとめるために苦笑いでそう言った。
するとあたしの言葉を聞いた万斉先輩が不服そうな顔であたしを睨んだ。

「一目惚れなどと生易しいものではないでござる。
 拙者とは前世からすでに結ばれる運命だったんでござるよ。」

何の躊躇いもなくそう言い放った万斉先輩に、
その場に居た全員が同時に言葉を失った。
そしてちょうど万斉先輩の発言と同時に部屋に入ってきた先輩も、
ドアノブに手をかけたままの体勢で言葉を失っていた。

『え……何今の発言……気持ちわる……。』
「!」

先輩の姿を発見した万斉先輩は嬉しそうにそう言って振り返り、
あまりの気持ち悪さに思いっきり引いている先輩の様子なんかお構いなしで
急いで先輩に駆け寄った。
そして近くに寄った瞬間、先輩に思いっきりビンタされていた。

「な、何故でござる……!」
『ちょっと近寄んないで気持ち悪い。』

どうやら先輩は本気で万斉先輩に引いているらしく、
いつもの暴言に隠れた愛の欠片も見せないまま2、3歩後ずさりした。
それなのに万斉先輩はいつものように先輩に詰め寄り、
嫌がる先輩の腕を無理やり掴んで声高らかにこう言い放った。

「何が気持ち悪いんでござるか!
 拙者はただ拙者とが運命の赤い糸で結ばれていたと言っただけでござる!」
『運命の赤い糸?何それ。変態の赤い鼻血なら見えるけど。』

そんな暴言を吐き捨てるように投げかけつつ、
先輩は蔑むような目で万斉先輩を見た。
すると万斉先輩は何故か頬を染め、照れたように先輩から顔を背ける。

「……そんなに見つめると照れるでござる……。」
『ちょっとアンタさっきから何言ってんの?本気で気持ち悪い。』

先輩に毒づかれ、それでも照れている万斉先輩の姿を見て、あたしは確信した。
ダメだ、この人正真正銘のドMだ。




呼び覚まされた性癖

(この痛みがの愛だと言うのならば、拙者は何度でも受け入れるでござる……!) (ちょっと万斉ホントに今日どうしたの?いつにも増して気持ち悪いんだけど) (テメーが虐め倒して本物のドMに調教したんだろーが) (え!?何!?アタシのせい!?) .。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○ 万斉がどんどん変態になっていっても許せる方にしかお勧めできない小説。 ※誤字、脱字、その他指摘等は拍手かメールにて。 2011/08/06 管理人:かほ